じゃあ買います!
「いやあ、もうこれは凄すぎて笑いしか出ないぞ」
本当にそう言って乾いた笑いをこぼす俺を、ヴァイトンさん達は揃って満面の笑みで見つめている。
そしてその隣でハスフェル達はもう、辺りを憚らず揃って大爆笑していた。
そう、ちょろっと居住区だという場所を見せてもらっただけで、もうこの反応しか出来なくなるくらいにすごい建物だった。
俺の今の気分は、完全に観光客気分。
何しろ、団体旅行とかで、お城見学会へようこそ〜〜! って言われて、ぞろぞろついて行ってる観光客! あの状態だったんだからさ。
この城はとにかく広い、そして広い。従魔達も一緒で構わないと言われたので、足だけスライム達に綺麗にしてもらって一緒に入ったんだけど、マックスとシリウス、それからニニとカッツェの魔獣四匹が並んで歩いてても全然窮屈さを感じないって、どれだけ廊下が広くて天井が高いんだよ。あれって多分、ハスフェルが剣を抜いて思いっきり頭上に振り上げても天井に届かない高さだよ。
当然部屋も一つ一つが異様に広い。多分ちょっとした宴会場より広いと思う。
家具は超豪華な家具がそのまま残っていて、これも多分博物館クラス。ううん、俺の部屋はもっと細やかで普通がいいんだけどなあ……。
当主の部屋だったのだと言う絢爛豪華以外に表現のしようがない金ピカの部屋を見て、俺はもう完全に虚無の目になった。
ここは俺的には絶対にお断りだ。こんな部屋にいたら、絶対寛いで寝る事も出来なさそうだ。
次々に紹介される部屋が、もうどれをとってもそんな感じで現実味が無いレベルで豪華過ぎて何だかもう途中からどうでもよくなってきた。
見るとハスフェルとギイも揃って虚無の目になってるから、気分は俺と似たようなものなんだろう。神様なのに、こんな豪華さとは無縁みたいでなんだか笑っちゃったよ。
オンハルトの爺さんは、一人興味津々であちこち見て回っては、ドワーフギルドのギルドマスターであるエーベルバッハさんと時折話をしては何やら大いに盛り上がっていた。
「ああ、そうだ。ちょっとお聞きしてもいいですか?」
多分一通り居住区を見たであろうタイミングで俺が手を上げる。
「ええ、もちろんなんでも聞いてください」
ヴァイトンさんが笑顔で振り返る。
「水回りを一新したって、もらった資料にありましたけど、ええと、風呂じゃなくて、湯室か、あれってありますか?」
「ああ、もちろんありますよ。見てみますか?」
そう言って、部屋の方を振り返る。聞けば、湯室があるのはさっきの当主の部屋と主な客室、それ以外は廊下の奥に広い共用の湯室があるらしい。
順番に見せてもらったけど、どれも湯船も広くて快適そうだ。
そこまで見て、俺はハスフェルに顔を寄せた。
「じゃあ、もう買うって伝えていいかな? 出来るだけ早く引っ越したいから、必要最低限の改修工事に今すぐにでも着手してもらうべきじゃね?」
「ああ、良いと思うぞ」
ギイとオンハルトの爺さんも揃ってサムズアップしてくれたので、俺も笑顔でサムズアップを返した。
「あの、それじゃあもう買いますので」
なんだかそこの野菜買います。みたいな言い方になったけど、そこまで言った途端にギルドマスター全員が満面の笑みで振り返った。
「良いのか?」
「いや、勧めておいてそれはないだろう」
急に真顔になるヴァイトンさんに思わず突っ込むと、ハスフェル達が揃って吹き出した。
「確かにその通りだな。勧めた品を買うと言ったのに、良いのかって言われたら、そりゃあそうなるよな」
「だよな。それじゃあどうしますか? 商談はどこでしますか?」
「それなら一旦ギルドへ戻らないと。青銀貨はギルドに置いてあるからな」
ガンスさんの言葉に思わず手が止まる。
例のシルヴァ達から貰った大量の金貨の存在を思い出したからだ。
このお城と土地は、確かに普通の家を買う感覚で言えばとんでもない価格なんだけど、正直言って、貰ったあの金貨だけでも余裕で払える金額だ。
『それなら、あのお金は何かあった時用にそのまま手元に持っておけ。口座には資金はあるんだろう?足りなければ喜んで協賛するぞ』
『俺もいくらでも協賛するぞ』
『もちろん、俺も喜んで協賛するぞ』
念話で三人から協賛の申し出を受けて苦笑いして首を振る。
『いやいや、資金はもう充分過ぎるくらいにあるからご心配無く』
『ええ、そんな事言うなよ』
『そうだぞ。せっかくなんだから俺達にも参加させてくれよ』
『そうだそうだ。せっかくなんだから俺達にも参加させろよ』
三人の参加するアピールに、堪えきれずに吹き出す俺。
「ええ、どうかしましたか?」
当然念話で話をしていたから、ギルドマスター達には今の会話は聞こえていない。
「いえ、何でもありません。それじゃあ一旦戻りますか」
誤魔化すように笑って、右肩のシャムエル様を見る。
「うん、いいと思うよ。シルヴァ達も大喜びしてるね」
確かに彼女達なら、この豪華な屋敷にいても見劣りしなさそうだ。
「俺は絶対借りてきた猫みたいになりそうだ。どうしたもんかねえ」
小さく笑って、豪華な天井を見上げた。
「また屋根裏部屋にするか。それとも……」
そこまで呟いて、俺はある事を思いついた。
「あ、これ良いんじゃね? あの広い部屋ならこれもありだよな」
腕を組んで考えて、自分の思いつきにニンマリと笑う。
「よし、じゃあこれでお願いしよう。これなら俺でもあの部屋で寛げそうだ」
我ながら良い事を思い付いたので、満足してひとまず冒険者ギルドへ戻って行ったのだった。