残り物アレンジ!
「ううん、やっぱり何度見てもこれは一人前の大きさじゃないよな」
改めてあの、鉱夫飯の弁当箱を見てそう呟く。
「よくこれを半分も食ったな」
弁当箱の蓋を開けながら、昼の残りを見ていてある重要な事実に気がついたよ。
「しかもこれ、おにぎりとおかずは半分こで、デザートのお菓子は全部シャムエル様が食ってるんだから、これって俺よりシャムエル様の方が食ってる量多いじゃんか。うわあ、ついに食う量自体追い越されたよ」
思わず吹き出してそう言うと、机の上にいたシャムエル様も、今気付きましたと言わんばかりに驚いてた。
「あはは。言われてみればそうだね。美味しかったから良いんです!」
何故かドヤ顔のシャムエル様にそう言われて、もう一回吹き出した俺だったよ。
「それで、これをどうするの?」
蓋を開けて並べたお弁当箱を覗き込みながら、シャムエル様は興味津々だ。
「いや、昼と同じものをそのまま食うのはちょっと悲しいから、これを今からアレンジして違う料理にしようと思ってさ」
「アレンジ?」
不思議そうに首を傾げるシャムエル様はたまらなく可愛い。
捕まえたくなるのを必死に我慢して、俺はまずはおにぎりの段を取りだした。
「たとえばこれ、大きくてすごく食べ応えのあるおにぎりだけど、いわゆる塩むすびで味に変化が無いから、これは味をつけてみるよ」
そう言って、まずは大き過ぎるおにぎりをそれぞれ半分に割って改めて形を整えて俵型に握り直し、出来上がった普通サイズよりやや大きめおにぎりの半分を、薄切りの牛肉で巻いて肉巻きおにぎりを作る。
「残りの半分は、焼きおにぎりにするよ」
目を輝かせるシャムエル様に笑いかけて、取り出した二つのフライパンを火をつけたコンロで温め始める。
「肉巻きおにぎりのタレは照り焼きで、こっちはバター醤油焼きと味噌だれの二種類にするか。じゃあもうワンセットコンロとフライパンがいるな」
俺の呟きを聞いて、サクラが即座にもうワンセットコンロとフライパンを取り出してくれる。
「ありがとうな」
手を伸ばしてサクラを撫でてから、まずは醤油と味醂とお酒と砂糖を混ぜ合わせて照り焼きのタレを作る。
「味噌ダレはちょっと甘めにしておこう」
そう言って、赤味噌に味醂とお砂糖、それから少しだけ出汁を入れて練り合わせてやや緩めの味噌ダレを作る。
「じゃあ焼いていきますよ」
そう言いながらまずは温めたフライパンに肉を巻いたおにぎりを並べていく。隣のフライパンでは、塩にぎりをそのまま並べて焼き始める。
もう一つのフライパンには、たっぷりのバターを入れて弱火でバターを溶かしてからおにぎりを並べる。
「あとは焼くだけ〜〜」
そう言いながら、交互にフライパンを揺すっておにぎりを焼いていく。
肉巻きおにぎりに火が通ったら、照り焼きのタレを回しかけて一気に絡めて少し焦げ目をつければ完成だ。
「こっちは味噌ダレを塗ってまた焼くよ」
少し焼いて、おにぎりの表面がカリッとなったら、作った味噌ダレを塗りながらまた焼いて焦げ目をつけていく。
バターで焼いたおにぎりも、そろそろ表面が焦げ始めたのでこれには醤油を回しかけて一気に焦げ目をつけたら完成。
最後まで残った味噌焼きを仕上げて、出来上がったおにぎり各種は一旦サクラに預けておく。
「これはどうするの?」
次に弁当箱から取り出したのは、巨大唐揚げの残り半分だ。
はっきり言ってこれだけでも以前俺が作った一枚唐揚げと同じくらいの大きさがある。
「デカすぎだろ。一体どんな鶏を使ってるんだよ、これ」
苦笑いしてそう呟くと、シャムエル様が俺を見上げた。
「これは青鶏って言って、普通の鶏の倍くらいある大きな鶏だね。バイゼンでは人気があってよく食べられてるよ」
「へえ、それは知らなかった。それならこの大きな胸肉も納得だな」
そう言って笑い、残りの唐揚げを一口サイズに切り分ける。
「これは甘酢あんかけにするよ。野菜は、玉ねぎとにんじんとピーマンくらいあればいいな。ああ、残りのブロッコリーもここに入れるか」
野菜を使うと聞いて集まって来たスライム達に、それぞれ玉ねぎとにんじんとピーマンを渡して切ってもらう。
切れたら、フライパンに軽く油を引いて野菜を順に炒めて最後に唐揚げも入れて温める。
「甘酢はお酢と醤油とお砂糖と味醂。これを炒めた野菜と唐揚げに絡めれば完成だ」
甘酢を回しかけてもう一度火にかけて絡めていく。
「ふおお、全く別の料理になったね!」
興奮して膨らんだシャムエル様のもふもふ尻尾をこっそり突っつき、最後に残ったウインナーを取り出す。
「これは丸ごと一本残ってるから、スライスして目玉焼きと合わせるよ」
そう言って縦に半分に切り開いて断面を下にしてフライパンで軽く焼き、そこに生卵を落として軽く塩胡椒をして目玉焼きに火が通れば完成だ。ちょっと半熟にするのが良い。
汁物が欲しかったので、味噌汁を小鍋に取って温めたら、アレンジ夕食の完成だ。
「こんなところかな。いやあ、かなりのボリュームになったな」
机の上を片付けて、作った料理を並べながらちょっと作りすぎた気がして苦笑いする俺だった。
まあ、きっとシャムエル様が張り切って食べてくれるだろうから、残る事は無いだろうけどね。