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た〜〜まや〜〜〜!

「お前さん……今のは一体、いっ……たい何だ?」

 呆然と目を見開いたまま、ヒルシュさんが俺に尋ねる。当然、全員が俺に大注目。

「あはは、さあて、何の事やら……」

 誤魔化すように笑ったが、残念ながら誰も笑ってくれない。

「ええと……」

 何と答えようか途方に暮れていると、また蹄の音がした。

 今度は聞き慣れた軽く地面を蹴る音。しかもごく近くで。

「ケン、念の為ここから動かないでくださいね。もちろん皆様も」

 とっても楽しそうなベリーの声が聞こえて、俺は振り返りながら必死になって視線で文句を言ったよ。

 だけど、にっこり笑ったベリーは、手を伸ばして俺の腕を軽く叩くとそのままくるりと反転して、妙に嬉しそうに駆け出して行ってしまった。

 何も無い、露天掘りの巨大な空間が広がるその上空へと。



 いきなり目の前に現れた賢者の精霊を見て、全員もう目がこぼれんばかりに見開かれているし、口は顎が外れたんじゃないかと心配になるくらいにポカンと開いたままだ。

 ベリーは、先程の大きなアームの上にいたケンタウルスの元へ空中を軽々と駆けて行く。

 そうだよな。確かにベリーも飛行術みたいなのも持ってたよな。

 しかも、ベリーの隣に見える揺らぎは間違い無くフランマだろうし、ベリーの肩のあたりに見える小さな揺らぎは恐らくカリディアだろう。

 二人とも見事なまでの姿隠し。あれは存在そのものすら誰にも気づかれていないレベルだろう。

 いやあ、皆凄いねえ。

 完全に思考が現実逃避していると、小さく笑ったアームの先にいたケンタウルスが、右手を高々と振り上げた。


「炎よ!」


 それほど大きな声ではなかったのだけど、はっきりと聞こえた。

 しかもどうやら聞こえたのは俺だけじゃなかったみたいで、これまた見事なまでに全員揃って飛び上がった。

 いつの間にか、常に聞こえていたトロッコの音や、岩を叩く槌やノミの音までが止まっている。

 完全に静まり返った鉱山の中で、一人悠々と手を上げたケンタウルスの指先から、光の矢のような物が飛び出すのが見えた。

 それは四方八方に飛び散り、次の瞬間一斉に弾けた。



「たまや〜〜〜」

 思わず小さくそう口にした俺は悪くないと思う。

 だって、それはどう見ても懐かしい夏の風物詩、打ち上げ花火にそっくりだったんだからさ!



「な、何事だ!」

「ひええ〜〜〜!」

「きゃ〜〜〜〜!」

「助けてくれ〜〜〜!」

「キャ〜〜〜〜〜〜!」

「ふおおお〜〜〜すっげえすっげえ!」

「いや〜〜〜〜!」

「キャ〜〜〜〜〜〜ナニナニナニ!」



 目の前でドカンドカンと弾ける謎の光の玉を見て、俺以外の人達はもうパニック状態。

 全員がムービングログを放り出してその場にしゃがみ込んで頭を抱えている。若干一名、現役軍人のガッシュさんだけは、目を輝かせて大はしゃぎしてたよ。ある意味大物かも。

 しかし誰一人その場から動こうとしない。

 一応さっきのベリーの、この場から動かないでくださいって言ってた言葉は覚えてるみたいだ。

 いやあ、皆、偉いねえ……。



 そして気が付いた。

 皆目の前の花火に気を取られているけど、地下からも不自然な振動が断続的に響いている。

 恐らくこの地下の坑道のどこかで、岩食いをケンタウルス達が殲滅しているのだろう。

 それで外に出てきたあの大柄なケンタウルスとベリーは、外の人達の注目を集めて現場へ行かないように足止めする、いわば陽動部隊。

 彼らがこっちに注目を集めている間に、サクッとやっつける作戦なのだろう。

 まあ悪くない作戦だと思うけど、どうしてそれに俺を巻き込むかなあ。



 まだドカンドカンと花火が連発されている空中を見上げて、俺は小さくため息を吐いて苦笑いすると、後はもう開き直ってこの状況を楽しむ事にした。

「いやあ、秋の花火も風流だねえ」

 小さくそう呟いて、次々に上がる花火を眺めていたのだった。






「お、そろそろ終わりかな?」

 小さく続いていた足元の振動も完全に収まり、目の前の花火も最後ぽくなってきた。

『どうでしょうか。楽しんでもらえましたか?』

 不意に頭の中でベリーの声が聞こえて、俺は咄嗟に吹き出しそうになるのを必死で堪えた。

 誤魔化すように何度か咳払いをして、念話で話しかける。

『おう、めっちゃ楽しかったよ。最初のあれはまあ、何だけどさ』

 やや含みを持たせそう言うと、それを聞いたベリーは笑いを堪えたようにちょっと咳き込んでたよ。

『では、どうやら駆逐出来たようですので我々はひとまず下がりますね。どうぞ楽しんでください』

 いや、楽しんでって言ったって、これが終わったら俺が質問攻めに遭うのは確定なんだけどなあ。

 明らかに何か言いたげなヒルシュさんとファータさんの視線をひしひしと感じつつ、俺は知らん顔で頭上に展開される最後の花火を眺めていたのだった。

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