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見学ツアーの出発

「大変お待たせいたしました! では只今よりミスリル鉱山見学会、出発いたします!」

 先程の受付嬢が、元気よく開けたままだった扉の前でそう声をかける。

 のんびりと挨拶を兼ねて雑談していた俺達は返事をして立ち上がった。



 結局、ツアーに参加するのは俺を入れて七人になった。

 先に会議室にいた、ウォルスの街から観光に来ているのだという年配のご夫婦のハマーさんとリリーさん。何でも長年経営していた食堂を娘さん夫婦が継いでくれたらしく、ようやく経営も軌道に乗って時間が出来たので、結婚以来初めての旅行でバイゼンヘ来たんだって。

 それから同じくウォルスから観光に来ていた軍人ファミリー。

 元軍人のご両親のサウスさんとリオナさん。現役の軍人で新婚の息子さん夫婦のガッシュさんとリーサさん。

 ご両親と息子さん夫婦の両方の結婚記念日が同じなんだそうで、記念に一緒に旅行をしているらしい。しかし義理のお母さんとお嫁さんの仲がとても良いらしく、旦那さんは旅行中全然一緒に居られないと俺に愚痴ってきた。

 ああ、そりゃあ大変ですね。

 にこやかに笑ってそう言いつつ、俺は心の中で絶叫していた。ふん、リア充爆発しろ!



 偶然なんだろうが、俺以外全員夫婦者……ふん、べ、別に泣いてなんか……クスン。



「本日のツアーのご案内を担当いたします。ファータと申します。どうぞよろしくお願いします!」

 フクシアさんのお姉さんが笑顔でそう言い、隣に立つドワーフの背中を軽く叩いた。

「こちらは、ツアーの詳しいご説明を担当します、ドワーフのヒルシュさんです」

「どうぞよろしくお願いします」

 何となく拍手する俺達。

「ではこちらへどうぞ」

 ファータさんの案内で会議室を出て建物の外へ出て、何故か裏庭へ回る。

 広い運動場みたいなそこには、何と人数分のムービングログが置かれていた。

「やった! これに乗りたかったんだよ!」

 現役軍人のガッシュさんがそう言って、一番手前側にあったムービングログに飛び乗る。

 そのままご機嫌でムービングログを操作して運動場へ出ていった。

「おお、さすがは現役の軍人じゃのう。運動神経は抜群じゃわい」

 見ていたドワーフのヒルシュさんが、苦笑いしつつそう呟く。

「魔獣使いの兄さんはこれをお買い上げいただいたと聞いとるが、乗り心地はいかがですかな?」

 笑顔で俺を見上げながらそう尋ねるヒルシュさんに、俺は満面の笑みでサムズアップを返した。

「もう最高! だけど普段は従魔が拗ねるからあまり乗ってないんだけどね」

 肩を竦めた俺の言葉に、ヒルシュさんは遠慮なく吹き出して大笑いしていた。



 多分30分くらいムービングログに乗る練習をしたんだけど、年配のリリーさんは何度やっても上手く乗れなくて。結局ハマーさんと夫婦でタンデム走行になった。

 それ以外は無事に全員が乗れるようになったところでいよいよ出発だ。

 先頭にヒルシュさん、ハマーさん夫婦、その後ろに軍人夫婦二組が並び俺が続く。そして最後尾にファータさんが続いた。

 一列になって、周囲の注目を浴びつつ道路の端を進む。

 ゆっくりだけど、歩かなくて良いのはなかなか良いね。

 ちょっとひんやりした風に吹かれつつ、目的の鉱山の入り口まで一時間ほどの道のりを俺達はゆっくりとドライブを楽しんだのだった。



「へえ、街を出ると一気に景色が変わって来たなあ」

 周囲を見回しつつ、そんな事を呟く。

 バイゼンの城壁は、全周ではなく山側は途切れている。いわば山を背景にして手前側の平地側をUの字に城壁で囲っている感じだ。

 それで今俺達が進んでいるのは、その城壁が途切れた山側。

 あちこちの岩場から大きな煙突が何本も突き出し、蒸気がモクモクと吹き出している。

「あれは、地下の工房で鉄鉱石から鉄を抽出する作業をしている場所です。我々はもっと奥へ参りますよ」

 ヒルシュさんの説明に皆納得して乱立する煙突を眺めながら進んだ。

「へえ、いわゆるたたら製鉄ってやつだよな。すげえ、これも見学してもいいかもな」

 某アニメのワンシーンを思い出して小さく呟く。

「人の子の技術ってすごいよね。石から鉄を作っちゃうんだからさ」

 いつの間にか肩に座っていたシャムエル様の言葉に、俺も笑って大きく頷くのだった。



「あちらに見えるのが、今回見学するミスリル鉱山の入り口です。このまま乗り入れますので、降りなくて結構ですよ」

 ヒルシュさんの大きな声に、降りかけていた俺ももう一度ラパンとコニーの間に飛び乗ったよ。

 ちなみにラパンとコニーはいつものように足元に並んで一緒に乗ってるし、アヴィとエリーも定位置にいる。

 女性陣からは無言の視線を感じるけど、今回はムービングログに乗ってるおかげで手を離せないので、お触り会は無しだ。

 まあ、多分昼食の時には集まってくるだろうけどね。



 大きな鉄製の扉が取り付けられた入り口前に止まり、ヒルシュさんが警備の人に書類を渡すのを大人しく待った。

「お待たせしました。ではこれより中へ参ります。坑道内部は複雑に入り組んでおり、無闇に立ち入ると遭難の危険があります。必ず指示に従い、くれぐれも勝手な行動は取らぬようにお願い致します」

 真顔のヒルシュさんの説明に、全員揃って返事をした俺達だったよ。

 さて、どうなるんだろうねえ?

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