ツアーへの参加と不穏な気配?
「ところで、せっかくお越しになったんですから早駆け祭りの英雄様も良かったら観光して行かれませんか? 団体行動がお嫌なら、個人のご案内も受付ていますからお気軽にお申し付けください。団体の場合も出発直前まで受付していますから気になるものがあれば、お気軽にお問い合わせください。それくらいの数の従魔達なら、ご一緒に参加なさっても何ら問題ありませんので!」
目を輝かせたその女性に壁面を示され、俺は小さく笑って、まだこっちを見ている団体さんに一礼してから言われた壁面を振り返った。
「へえ、鉱山見学ツアーとかあるんだ」
手書きで描かれた幾つもの観光案内ツアーの張り紙を見て、俺は感心したようにそう呟いてもっと見ようとそのポスターの貼られている一角へ向かった。
「廃坑見学。ミスリル鉱山見学。鉄鉱石の精製現場を見学してみませんか。様々な工房見学随時受付。へえ、色々あるんだなあ」
呑気にそのポスターを眺めていてふと我に返る。
「あれ、今そんな一般の人が地下に潜ってても大丈夫なのか?」
シャムエル様に聞いてみようと思ったんだけど、何故か周りにいない。
首を傾げつつ説明する気満々になってる受付嬢を見て、俺はミスリル鉱山見学ツアーの張り紙を示した。
「ええと、じゃあこれってまだ大丈夫ですか?」
「もちろんです。では手続きいたしますので、どうぞこちらへお座りください!」
嬉しそうにそう言われてしまい、苦笑いした俺は言われた椅子に素直に座った。
身分証と支払いにギルドカードを差し出して申し込んだところで、先程の団体の声が聞こえた。
「やっぱり俺達もこれにしようよ!」
「そうだな。じゃあ申し込むとするか」
先程の団体も俺と同じくミスリル鉱山の見学をするらしく、別の受付嬢のところでツアーの参加申し込みを始めていた。
「本日はミスリル鉱山見学会にお申し込みいただきありがとうございます。このツアーは、まず午前中に現在稼働中の鉱山の中へ入っていただき、採掘している実際の作業を間近で見学いただきます。昼食は鉱山内にある鉱夫達用の食堂にて、実際に彼らが食べている鉱夫飯と呼ばれる名物弁当を食べていただきますので、どうぞお楽しみに。午後からは、坑道内にある採掘場で、順番に少しですが実際にツルハシやノミなどを使って鉱石の採掘体験もしていただけます」
「へえ、昼食付きの上に採掘体験まで出来るんだ」
説明を聞いて、意外に本格的なツアーで感心した俺だったよ。
「では、こちらが詳しい説明書になります。もう少しで出発致しますので、よろしければ奥の一番のお部屋で出発までお待ちください。従魔もご一緒で大丈夫ですよ」
どうやらここからツアーが出発するらしく、受付嬢は笑顔で奥にある一番の札が上がっている扉を示してくれた。
「分かりました。じゃあそっちで待っていますね」
まだ申し込みをしている団体に一礼してから、言われた部屋へ行ってみる。
「失礼しま〜す」
軽くノックをしてから部屋に入ってみると、部屋は会議室みたいで、幾つかの机と椅子が並んでるだけのシンプルな部屋だ。
部屋には先客がいて、何となく机の端に座ったやや年配の男女に一礼してから何となく反対側の端っこに座る。
しばらくすると先程の団体さんが入って来て、真ん中辺りに座った。
何となく手持ち無沙汰でもらったツアーの説明書を読んでいると、不意に腕の上にシャムエル様が現れた。
「あれあれ、ケンったらどこへ行ったのかと思ったら! 観光案内所にいるなんて、まるで観光客みたい!」
説明書を覗き込んで笑ったシャムエル様は、何が面白いのかケラケラと笑いながら俺の腕をペチペチと叩いている。
「いいじゃんか。実際観光客と大差無いんだしさ。ひと冬過ごすバイゼンがどんなところか、せっかくだからちょっと見てみようと思っただけだって」
小さな声でそう言うと、シャムエル様は驚いたみたいに俺を見上げた。
「何だ、ケンも討伐に参加するわけじゃ無いんだね。ううん、じゃあどうしようかなあ」
何やら不穏な気配を察知して、俺は読みかけていた説明書でシャムエル様を隠すみたいにして慌てて顔を寄せた。
「ちょっと待てって。今の討伐に参加するって、何の話だよ?」
焦る俺の言葉に、腕を組んで考えていたシャムエル様は俺を見上げてとんでもない事を言った。
「あのね、ケンが今から行こうとしてるそのミスリル鉱山に、小さいけど岩食いのいた痕跡が見つかったんだって。それでケンタウルス達が何人か行ってくれてて調べてくれてる真っ最中なんだよね。見つかればその場で彼らが姿を見せて岩食いを殲滅してくれるらしいから、そっちは任せて大丈夫だからね。じゃあ彼らには出来るだけ派手にしてもらう様にお願いしておくね。見学の人達もきっと喜ぶと思うからさ」
「いやいや、そこは内密に処理するところだろうが! どうして派手にするって発想になるわけだよ」
慌てる俺を不思議そうに見上げたシャムエル様は、笑って胸を張った。
「そりゃあ、知識の賢者達がしっかりとこの場を守ってるって事を、彼らに知らしめる意味があるからだよ。じゃあ、今回はケンは手出ししないで見ててね。きっと凄いのが見られると思うからさ」
目を細めてそんな事を言われてしまい気が遠くなった俺はその場に突っ伏したけど、俺は間違ってないよな?




