今日の予定?
ぺしぺしぺし……。
つんつんつん……。
カリカリカリ……。
「うん、起きるよ……」
昨日に引き続きいつもよりもかなり少ないモーニングコールに目を覚ました俺は、欠伸をしながら起き上がってふと気がついて考えた。
「あれ。昨日ってシャムエル様のぺしぺしとエリーのつんつんだけだった気がするんだけど、最後のカリカリは誰だ?」
いやまあ、今の俺の側にいる従魔なんて決まってるんだから、答えは一つしかない。
「アヴィ、さっきのモーニングコールの最後はお前か?」
大きくなって抱き枕にしていたはずなのに、いつの間にかいつもの大きさに戻っているモモンガのアヴィを抱き上げておにぎりにしながら聞いてみる。
「はあい、そうで〜〜す! いつも皆さんが楽しそうにご主人を起こしているのを見て、実は私もやってみたかったんです。昨日、ご主人を起こしていた後にその話をしたら、シャムエル様だけじゃなくてエリーも、今日は一緒に起こそうって言ってくれたのでちょっと張り切ってみました。私のカリカリはどうでしたか?」
「何だよ。そうだったのか。そんなの気にせず参加してくれて良いんだからな。うん、良い感じに痛くもなく、だけど引っ掻かれてるのがしっかり分かったから力加減もバッチリだ。初めてにしては最高だったぞ」
「やった〜〜! 褒められちゃった〜〜!」
両手を顔の横に持ってきて、頬を挟むみたいにしてジタバタしながら大喜びしているアヴィ。
駄目だこれ。可愛いが量産されすぎて玉突き事故を引き起こしてるぞ。
「ああ、もう。お前はなんて可愛いんだ!」
両手の中の小さな体にそう叫んで思いっきり頬擦りしてやる。巻き込んだふわふわの尻尾が仰向けになったお腹の上にあるので、触り心地は最高だ。
「ご主人を〜〜!」
「挟みま〜〜す!」
ベッドの上に座ってアヴィと戯れていると、ベッド役をしていてくれたラパンとコニーのうさぎコンビがいきなり両サイドから俺をサンドして押し倒しに来た。
「うわあ〜〜やられた〜〜〜!」
完全に棒読み状態で悲鳴を上げて仰向けに倒れ、そのままもふもふサンド攻撃を堪能する。
「ああ、なんて幸せ空間……」
いつものニニの柔らかな腹毛とはまた違うフッカフカのモッフモフに埋もれて、俺は気持ちよく二度寝の海へダイブして行ったのだった。
ぺしぺしぺしぺし……。
つんつんつんつん……。
カリカリカリカリ……。
「うん。起きるよ……ふああ〜〜!」
欠伸をしながら手をついて起き上がり、ベッドに座ってもう一回欠伸をする。
「ううん、よく寝た」
立ち上がって思いっきり伸びをした俺は、顔を洗いに洗面所へ向かった。
いつものように水場でスライム達と少しだけ遊んでから部屋に戻り、身支度を整えてから作り置きのサンドイッチとコーヒーで朝食を済ませた。
結局、その日もまずは朝市へ行って新鮮な果物や野菜、当然栗も大量購入。それからがっつり肉系を色々と買い込み、その後は気晴らしを兼ねて街の中をムービングログに乗って観光気分で見て回った。
街の中を適当に回り、何となく城壁沿いに続く広い道をのんびりと進んで大きな城門まで辿り着いたところで、城門の横にある建物に気が付いた。
観光案内所、と看板に書かれたそれはギルドの建物に匹敵するくらいに大きくて、壁面の木組みの装飾がオシャレな建物だったよ。
ちょっと興味を惹かれた俺は、ムービングログを止めて収納すると扉を開けて中へ入ってみた。
「ようこそバイゼンヘ〜〜!」
元気な受付嬢の声が聞こえた後、室内に奇妙な騒めきが起こる。
「あれって早駆け祭りの英雄だよな?」
「ええ? だけど連れてるのは小さな従魔達ばかりだぜ?」
「この前俺が見た時は、とんでもなくでかいハウンドとかリンクスとか、他にも恐竜とかあり得ないくらいの数の従魔を色々と引き連れてたぞ」
「ええ、あんな少ししか従魔を連れてないなんて、何かあったのかなあ?」
「まさか従魔を手放したのか?」
好き勝手言われてるなあ、くらいに思って気にせず聞き流していたけど、さすがに最後の言葉は無視出来なくで思わず声のした方を振り返る。
「それは違うぞ」
俺に話しかけられるなんて思っていなかったらしく、噂話をしていた男女数名の団体が揃って文字通り飛び上がった。
「す、すみません!」
焦ったように手前側のやや年配の女性が謝る。
「いやいや、別に怒ってるわけじゃあ無いですよ。俺の従魔達は、仲間が狩りの為に郊外へ連れ出してくれているんです。俺はちょっと街に用があったので、従魔を仲間に託して留守番してるんですよね」
「なんだよ。それで観光か?」
別の男性に笑いながらそう話しかけられて、俺は苦笑いしつつ首を振った。
「いや、ちょっと街の様子を見て回ってたらこの建物を見つけたもんだからさ。何があるのかと思って入ってみただけだって」
「ええ、そんな事言わずにせっかくだからバイゼンの良い所をたくさん見て行ってくださいよ!」
その時、カウンターの中から笑った女性の声が聞こえて全員揃って振り返った。
そこで手を振っていたのは、何故か見覚えのある女性だった。
「あれ? フクシアさん……? いや、ちょっと違うか?」
彼女よりもやや年長に見えるその女性は、しかし彼女にとてもよく似ている。
「ああ、もしかしてお姉さんですか?」
どう考えてもそれしか無くて思わずそう尋ねると、手を振っていた女性はにっこり笑って頷いた。
「妹が、何やら初対面で大変な失礼をしたようで本当に申し訳ありません。実はあの子、あなたの大ファンなんです。それで少々自制が効かなかったみたいです」
「いや、楽しかったですよ。従魔達も彼女の事は気に入ったみたいですから、どうぞお気になさらず。彼女はまた新作の試作に夢中になってるみたいでしたね」
俺が笑ってそう言うと、受付のその女性は安堵したみたいに小さなため息をついてから俺に向かって一礼した。
「そう言っていただけるとなんだか安心しました。ここ数日はまた家に帰って来ていませんからね。きっと工房で寝るのも忘れて働いてるんだと思いますよ」
呆れたようにそう言って肩を竦めた彼女は、その後でにっこり笑って俺を見ながら壁面を示した。
「ところで、せっかくお越しになったんですから、早駆け祭りの英雄様も良かったら観光して行かれませんか?」ってね。