冒険者ギルドにて
「さて、一度ギルドに顔出しておくか。確かあの大量の素材の支払い明細、全員の分を俺が貰っとくんだって言ってたもんなあ」
早めの夕食を済ませた俺は、机の上を綺麗に片付けてからそう呟いて立ち上がった。
スライム達はそれぞれ小さくなって俺の鞄の中へ飛び込んで行き、小さくなったハリネズミのエリーは定位置のカバンのポケットに、同じく小さくなったモモンガのアヴィは俺の腕にしがみついた。
うさぎコンビは中型犬くらいのサイズになって、扉の前に待ち構えている。
「あはは、そのサイズで一緒に行ってくれるのか。良いねえ、これもモッフモフだ」
手早く身支度を整えた俺は、笑って二匹を交互に撫でてやってから、隣にある冒険者ギルドの建物へ向かった。
「おう、いらっしゃい。全員分の明細の準備は出来とるぞ。全然顔出してくれんから、こっちから宿泊所へ押しかけようかと話しておったところさ」
俺がギルドの建物に入っていくと、カウンターの奥から元気な笑い声と共に大きな声が聞こえてきた。
「遅くなってすみません。じゃあまとめていただきます」
「おう、じゃあこっちへ」
立ち上がったガンスさんの横には何故か商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんもいて、一緒に立ち上がって奥の部屋までついてきた。
「ああそうか。今回の支払いはギルド連合からの支払いだから、ヴァイトンさんが代表して一緒にいるのか」
勝手に納得してそう呟き、大人しく二人の後ろを歩いて奥にある部屋に案内されたのは、前回も使ったあの部屋だったよ。
「まあ座ってくれ」
勧められるままに手前側にあった椅子に座り、机を挟んだ向こう側にガンスさんとヴァイトンさんが並んで座る。それから、ガンスさんが書類の束を全部で四つ取り出して机の上に置いた。
「これがメタルブルーユリシスの明細と支払い金額の明細だ。それぞれ一人ずつまとめてあるから確認を頼む。それからこれが、それ以外の素材の明細と支払い明細だ」
そう言って先程の書類の後ろにもう一山ずつ積み上げていく。
ううん改めて見ると、とんでもない量だね。
「はい、分かりました」
とは言え、ありったけって感じでガンガン渡したから、正直言ってどれだけ渡したのかなんて俺は覚えてない。
まあ、そこはギルドを信用しておく事にして、俺はとりあえず一番手前側にあった書類の山を受け取った。
「ご主人、アクア達がどれだけ渡したかは覚えてるよ」
その時、椅子の横に置いた鞄から出てきたアクアが、俺の座った膝の上まで登って来て小さな声でそう教えてくれる。
「へえ、そうなんだ。じゃあ後で一緒に見てくれるか」
ちょうど受け取った分は俺の明細だったので、同じく小さな声でそう言ってアクアを机の上に乗せてやる。他のスライム達も鞄から出てきて足元に転がる子と机の上に上がって来る子に分かれた。
ラパンとコニーは椅子に座った俺の足元にくっついて座っている。
ううん、靴を履いてるのが悔しいなあ。これ、絶対素足にされたら気持ち良いやつだ。
小さく笑って手を伸ばして足元の二匹を撫でてやったよ。
机の上に乗ったアクアが、広げた書類を見て俺の方を見る。額の肉球がキョロキョロ動くのって、見てて本当に可愛いんだよな。
『うん、いいんじゃないかな。変に誤魔化したりせずに、どれもきっちり正確に数えてくれてるよ』
その時、書類の山のすぐ隣にいて横から覗き込むみたいにして勝手に書類をペラペラめくって見ていたシャムエル様が、笑いながら振り返って念話でそう教えてくれる。
『へえ、そんな事分かるんだ』
密かに感心しつつそう尋ねると、書類の山をポンポンと叩いたシャムエル様は嬉しそうにこっちを振り返って目を細めた。
『私には、アクアちゃん達みたいに皆が渡した正確な数は分からないよ。だけど、この書類にはどれも誠実さと慎重さがとても強く見て取れるんだよね。それはつまり、相当な慎重さで誠実に書類を書いてくれてるって事。ってことは変な誤魔化しや虚偽の数字は少なくとも故意に書かれていることは無いわけ。分かった?』
『成る程。ありがとうな。神様のお墨付きが貰えたんなら、安心出来るよ』
念話でお礼を言ってから、パラパラと書類をめくって中身を流し見する。
「うわあ、すっげえ金額!」
目に飛び込んで来た支払い明細のとんでもない桁数の金額に、思わずそう叫んで咄嗟に吹き出しそうになって慌てて口元を押さえた。
「そりゃあ、ギルド連合が総力を上げてかき集めた資金だからな。間違いなくお前さんの口座に振り込まれとるよ」
何故か胸を張ったガンスさんにそう言われ、俺はもう笑うしかない。
「って事は、ハスフェル達の分も……」
その隣の山はハスフェルの分だったので、こっそりめくって支払い明細を確認する。
もう乾いた笑いしか出ない。
「た、大変でしたね」
これだけの資金をわずか数日で集められるギルド連合、マジですげえ。
本気で感心しつつそう言うと、ガンスさんヴァイトンさんは揃って遠い目になった。
「そりゃあお前、メタルブルーユリシスだぞ。何があろうとも絶対に確保しなけりゃあ駄目だからなあ。ギルド連合に関わるほとんどの商人達からも資金援助をもらったよ。おかげで今回渡してもらったメタルブルーユリシスの翅は、殆どが必要な職人や工房に引き渡されたよ。本当に感謝しとるよ」
「お役に立てたなら良かったです」
俺も笑ってウンウンと頷き、ハスフェルとギイ、それからオンハルトの爺さんの分の書類をまとめて受け取った。
「じゃあ、あいつらはまだ帰ってきていないんで、戻り次第渡しておきます。ありがとうございました」
とりあえず書類は自分でまとめて収納しておき、そう言って一礼して立ち上がろうとしたら慌てた二人に呼び止められた。
「ああ、待った待った! まだ行かないでくれ。お前さんにもう一つ話があるんだよ」
驚いて首を傾げながら振り返ると、商人ギルドのヴァイトンさんが、満面の笑みで俺を見つめて一枚の書類を見せてくれた。
「はあ、拝見します」
受け取ってそれを見た俺は、目を見開いてヴァイトンさんを見た。
「いかがですか? これならきっとお気に召すのではないかと思っている、個人的にもお勧めの物件です」
そう、ヴァイトンさんが見せてくれた書類に書かれていたのは、とある住所と建物の名前と簡単な地図。そして建物の間取りと設備の様子を詳しく書き記した書類だったんだよ。
つまり、お願いしていたここでの別荘候補の物件!
「おお、これは素晴らしい!」
渡された書類を読み込みながら、俺は何度もそう呟いていたのだった。
ううん、俺達が冬の間に住む家なんだけど、これはかなり良いのが出てきたぞ!
「ああ、だけど見学の際にはあいつらの意見も聞きたいので、ハスフェル達が戻ってきてからでもいいですかね?」
俺の言葉にヴァイトンさんは笑顔で大きく頷いた。
「もちろんです。見学はいつでも出来ますので、お戻りになられたら商人ギルドに声をかけてください。私が直接ご案内しますので」
おお、ギルドマスター直々のご案内だって。さすがに予算が予算なので対応もセレブ扱いだよ。
「じゃあ、その時はよろしくお願いします。ええとこれで話は以上ですかね?」
揃って頷く二人を見て、俺は改めてお礼を言ってとりあえず宿泊所へ戻って行った。
うん、この不動産の詳しい書類はもうちょっと冷静になってから改めて見てみる事にするよ。
ちょっと驚きのあまり心臓がドッキドッキいってるくらいには、とんでもない物件だからね。