二日酔いとお弁当作り
「ううん、おかしいなあ〜〜〜」
気持ち良く昼間っから酔っ払った俺は、どう見ても一本には見えない並んだビールの瓶と、開けた覚えも飲んだ覚えも無いのにいつの間にか空になって転がってる吟醸酒の空瓶を見つめて考えていた。
「そっか! シャムエル様だな。だめじゃないか〜〜〜こんなに、飲んで〜〜〜」
机に半ば突っ伏すみたいにして、空瓶を転がしながらクフクフと妙な笑い声を立てる。
「ちょっと人のせいにしないでよね。この酔っ払いが!」
その時、俺の腕の上にシャムエル様が現れて、呆れたみたいにそう言って俺を見上げた。
「ええ、誰が酔っ払いだって〜〜〜?」
「私の、目の前で、変な顔して笑ってる奴です!」
「そんな奴は、いない〜〜〜!」
もう一度声を上げて笑った俺は、手を伸ばしてシャムエル様を捕まえて両手でモミモミと力一杯おにぎりにした。
「うああ、めっちゃいい手触り〜〜〜いいですねえ〜〜〜これは最高のおにぎりですう〜〜〜〜」
またしても声を上げて笑いながら、手の中のシャムエル様に思いっきり頬擦りをする。
「いい加減にしなさい!」
怒ったシャムエル様の声と共に目の前に星が散り、のけぞった拍子に勢いよく椅子から転がり落ちた俺は、そのまま気持ちよく意識を飛ばしたのだった。
ぺしぺしぺし……。
つんつんつん……。
かりかりかり……。
「うん、起きるよ……」
痛む頭を押さえて何とかそう答えた俺は、眠い目を擦りつつ起き上がって何とか目を開いた。
「あれ? 俺いつの間に、寝たんだ?」
天井を見上げて考え、頭痛のせいでどうにもまとまらない頭の中を必死になって整理して、昨日の事を思い出そうとしていた。
手をついて起き上がる時に気がついたんだけど、俺は昨夜と同じくラパンとコニーの間に挟まり、巨大化したアヴィを抱き枕にして、何故かスライムベッドの上で寝ていたのだ。
「ええと、どうしてこんなところで寝てるんだ?」
しかもスライムベッドがあるのは、部屋のど真ん中で机のすぐそばだ。
「やっと起きたね。この酔っ払いが」
座った俺の膝の上に現れたシャムエル様が、腰に手を当てて俺を見上げている。
「ええと……ああ駄目だ。サクラ、美味しい水出してくれるか」
痛む頭を抑えてもう一度スライムベッドに転がった俺は、サクラが出してくれた水筒を受け取ってグビグビと二日酔いの特効薬である美味しい水を飲んだ。
「昨日の誰かさんの所業を見なさい!」
シャムエル様に机の上を指差しながらそう言われてしまい、何とか起き上がって立ち上がった俺は、ゆっくりと机を振り返った。
「何、あれ?」
そこにあったのは、空の瓶がゴロゴロと転がってる光景だった。
「ええと、ビールの瓶が……全部で五本と、あれは吟醸酒の瓶だな。これはまた別の吟醸酒、こっちは地ビールの空瓶……こんなに誰が飲んだんだよ」
「私じゃない事は確かだね。だって、だれかさんは一人で楽しそうに飲んでて、私には一滴もくれなかったんだからね」
「サーセンっした〜〜〜〜!」
ようやく状況が分かって、俺は頭痛が治った頭を深々と下げた。
うん、お酒を飲むのは別にいいけど迂闊に混ぜるのはやめよう。ビールと吟醸酒を一緒に飲むのは危険だってことが良くわかったよ。
「ええと、ハスフェル達ってまだ帰ってないのか?」
大きく伸びをして洗面所へ向かいながらそう尋ねる。シャムエル様は当然のように俺の右肩に座ってるよ。
「うん、まだ地下洞窟にいるね。多分また明日辺りにベリーが料理を取りに来るんじゃないかな。昨日持たせてやった分は、もうほとんど残ってないはずだからね」
「あはは、やっぱりそうなったか。了解だ。じゃあ何か持たせるものを用意しておくよ」
尻尾のお手入れを始めたシャムエル様を、洗面台の棚の上に乗せてやってから、俺は水槽の水でバシャバシャと顔を洗った。それからバラけて跳ね飛んで来たスライム達を下の段の水槽に放り込んでやる。
何だか楽しくなってしばらくスライム達と一緒になって水遊びを楽しみ、サクラに綺麗にしてもらってから部屋に戻った。
外は多分昼前くらい。
明るい日差しに目を細めて椅子に座った俺は、お粥を出してもらってとりあえずそれを食べた。
二日酔いで弱ってる胃にはこれくらいが丁度いいよな。
食後のお茶をのんびりと楽しみ、念の為もう一度美味しい水を飲んだ俺は、立ち上がって大きく伸びをした。
「よし、じゃああいつらには正しいお弁当を作ってやろう」
にんまりと笑った俺は、サクラにお願いして色々と材料を出してもらい、お弁当を作り始めた。
「ウインナーはタコさんにしてやるか」
真っ赤なウインナーはさすがに無いので、唐辛子入りの赤い色をしたウインナーを使う事にする。
半分に切り目を入れて分割して足を作り、油を引いたフライパンで炒めてやる。
「ふおお〜〜〜何それ! くるっと丸まったよ!」
上手く足が丸まってくれるかちょっと心配だったけど、案外上手に丸まってくれたよ。
それから、甘めの卵焼きもたっぷりと作り、ハイランドチキンのもも肉で唐揚げも山盛り作っておく。
「ええと、緑は何にするかね。あ、ブロッコリーがあるな。じゃあこれを茹でてっと」
それから鶏肉をミンチにしてもらい、すりおろした生姜を入れて砂糖と醤油とお酒と味醂で味付けをして鶏そぼろを大量に作る。
砂糖と醤油で甘めに味付けをした炒り卵も作り、サヤエンドウもどきを茹でて細切りにしておく。
「ええと、お弁当箱が無いなあ。あ、これでいいや。ちょっと大きいけどあいつらならこれくらい食うだろう」
そう呟いて取り出したのは、ホテルハンプールで作り置きを買った際に詰めてくれた大きな重箱もどきだ。二段ずつになってるから、あいつらの弁当箱にするにはちょうど良かろう。
って事で、数え切れないくらいに沢山あるその重箱を取り出して並べる。
「これなら深さもあるし、弁当箱がわりになるな。よしよし」
そう言って小さく笑ってまず一段目におにぎりを取り出して半分くらいまでおにぎりを並べて入れる。もちろん味は色々取り混ぜて入れたよ。
おにぎりの隣に唐揚げを並べ、切ったトンカツと卵焼きも並べる。間にブロッコリーも彩りよく詰めて、タコさんウインナーも並べる。
最後に彩りにプチトマトを入れたら完成だ。
「まずはおにぎり弁当。次は三色弁当だな」
別の重箱にあつあつのご飯をぎっしりと敷き詰め、三分の一くらいは角の部分に斜めにおかず用に開けておく。ご飯の上にさっき作った鶏そぼろと炒り卵とサヤエンドウもどきの細切りを彩り良く分けて乗せていく。
おかずの部分には、昨日作ったトンカツを切ったのと、唐揚げ、それからタコさんウインナーをぎっしりと隙間なく詰めてやる。
ここにも最後にブロッコリーとプチトマトを乗せれば完成だ。
まあ、肉とご飯のボリュームメインの茶色多めの男子用弁当になったけど、あいつらにはちょうど良かろう。
「ふおお〜〜〜なにそれ! 美味しそう!!!」
目を輝かせてそう叫び、今にも弁当箱に飛び込んで行きそうなシャムエル様の尻尾を慌てて掴んで何とか弁当箱への顔面ダイブは阻止する。
「分かった。シャムエル様にも作ってやるからちょっと待ってて!」
そう言い聞かせて机の上に乗せると、ひとまわり小さな惣菜を入れてくれていた重箱にシャムエル様の分の弁当も作ってやる。
小さいと言っても、一皿でどう考えても成人男子でも腹一杯になりそうなボリュームになったけど、もう、シャムエル様の尻尾は大興奮状態で三倍サイズに膨れ上がってる。
「はいどうぞ。お待たせしました」
「ふああ〜〜〜〜これは美味しそう!」
またしても奇声をあげて三色弁当に頭から突っ込んでいったシャムエル様は、大はしゃぎで食べ始める。
「まあ、気に入ってくれたなら良かったよ」
ご飯粒まみれになってる小さな頭を突っつき、俺はお皿を取り出しておにぎりを並べ、残ったトンカツの端っこと唐揚げと卵焼きの端っこで早めの夕食を食べたのだった。