おのれリア充め!
「おう、魔獣使いの兄さん、今日も大きいのは連れてないんだな」
なぜかもうすっかり顔見知りになった朝市の人達にあちこちから声をかけられ、その度に立ち止まっては店の物を買いつつ、従魔達は狩りに行ってるんだって説明を続けていた。
大人気だった鶏の丸焼きもあるだけ買い、その隣の肉屋さんも順次制覇していく。
それから果物を多めに仕入れ、あとはひたすら目についたものを買いまくった。
「おやケンさん。買い物か?」
そろそろ引き上げようかと思っていたところで聞き覚えのある声に振り返ると、そこにいたのはこの街へ来た時に案内してくれた上位冒険者のアッカーさんだった。そしてその隣にいる清楚な美人は……。
「ああ、俺の奥さん。ルーディアだよ」
「お話は伺ってます。はじめまして、魔獣使いのケンです」
おのれリア充め!
内心で嫉妬の炎をメラメラと燃やしつつ、俺は笑顔でルーディアさんと挨拶を交わした。
「あら残念。今日は他の従魔達はいないんですね。彼から話を聞いて、大きなリンクスやハウンドを見てみたいと思っていたのに」
眉を寄せて残念そうに口を尖らせながらそう言ってる彼女を見て、アッカーさんも苦笑いしてる。
ううん、シルヴァ達の時にも思ったけど、美人ってどんな顔しても美人なんだよなあ……おのれリア充め。
ボウボウ燃え盛る嫉妬の炎を胸に、俺はムービングログに乗っていたラパンとコニーを見せてやる。
「この子達ならいますよ。ブラウンホーンラビットのラパンと、レッドダブルホーンラビットのコニーです。なあ、ちょっと大きくなって見せてやってくれるか」
二匹を抱き上げて小さな声でそう言って地面に下ろしてやる。
ここはちょうど店が無い場所なので、ここなら邪魔にもならないだろう。
「あまり大きくなっても他の人が怖がるといけませんからね。それならこれくらいでしょうか」
「ですね、あまり大きいと他の方がびっくりしそうですもんね」
二匹揃ってそう言うと、ぴょんと跳ねてくるっと空中で一回転して大型犬くらいの大きさになる。
何だよそれ。
普段は一瞬で大きくなるのに、営業バージョンかよ。
「うわあ、すごい!」
一気に笑顔になるルーディアさんを前にして得意げに胸を張るラパンとコニー。しかも揃ってドヤ顔。
「あの、触らせて頂いてもよろしいでしょうか!」
いつかのシルヴァみたいに胸元で手を組んでお願いのポーズで俺を見るルーディアさん。
「ええ、良いですよ。耳を引っ張ったり目元や口元は嫌がるので触らないでくださいね」
一応、背中に手をやってまずはラパンを触らせてやる。
「うわあ、なんて柔らかいの。ふわふわだわ」
恐る恐ると言った感じで手を伸ばしたルーディアさんは、ラパンの首のあたりを何度か撫でた後、笑って今度は両手で顔を包むみたいにして頬の毛を撫で始めた。
ラパンはご機嫌で目を細めてじっとしている。
「可愛い、可愛い、可愛い!」
何度も可愛いと言いながら、ラパンをもふるルーディアさん。
隣で、アッカーさんもコニーを見て両手を握ったり開いたりして、一人結んで開いてをやってるよ。
「ケンさん、この子、この子触らせてもらっても良いかな?」
今にも飛びつきそうになってるアッカーさんだけど、ちゃんと俺の許可を得てからでないと触ろうとしない辺りはさすがに上位冒険者って感じだ。
「ええ、良いですよ。注意はさっきと同じです」
コクコクと頷いたアッカーさんは、これ以上ないくらいの良い笑顔でゆっくりとコニーに手を伸ばした。
「うああ、何だよこれ。柔らかいにも程があるだろうが」
「ね、すっごく柔らかいわよね」
「ああ、これは最高だなあ。いやあ羨ましい。いつもこんな子達と一緒とはね」
二人揃って巨大化したラパンとコニーを撫でさすりながら嬉々としてそんな事を言って見つめ合って笑っている。おのれリア充め!
その後、小さいままのハリネズミのエリーとモモンガのアヴィも見せてやり、ちょっとだけ触らせてやったよ。
しかもアヴィは、何と近くの家の壁まで小さいままで滑空して見せたため、ルーディアさんとアッカーさんだけじゃなくて周りに何人もの見学者達が集まってしまい、結局何度も飛んで見せる羽目に陥っていたのだった。
ハリネズミのエリーも大人気で、アッカーさん達だけじゃなく、集まってきた子供達も目を輝かせてエリーを見ていた。
当然心得ているエリーはこれ以上ないくらいにぺったんこに針を倒してくれたので、子供達にも少しだけ触らせてやり、ルーディアさんは大喜びで手のひらの上に乗せてやったエリーに向かってずっと、可愛い可愛いと言い続けていたのだった。
「ありがとうございました〜〜〜!」
手を振って帰っていく子供達と見学者に手を振りかえし、アッカーさんと顔を見合わせて揃って吹き出した。
結局、大人気で急遽従魔達と街の人とのふれあいタイムになってしまったけど、エリー達も張り切って相手をしてくれて良かったよ。
「お疲れさん、大丈夫だったか?」
「はい、皆優しかったですから大丈夫ですよ」
「とっても楽しかったです」
「うん、楽しかったですね」
「私は疲れました〜!」
楽しかったといううさぎコンビとエリーと違い、何度も飛び回ったアヴィはお疲れモードだ。
「お疲れさん、じゃあお前はここにいろよな」
着ていたマントの内側に大きめのポケットがあったので、そこに入れてやると何とも嬉しそうに潜り込んで行って中でおさまってしまった。
「じゃあ冬の間はここが定位置かな?」
軽くポケットを叩いてやり小さくなったうさぎコンビをムービングログに乗せた俺は、アッカーさんとルーディアさんに見送られて宿泊所へのんびり戻って行ったのだった。