静かな朝の光景
「さて、じゃあもう休むか」
ミニロールキャベツを完食したシャムエル様は、すっかり寛ぎモードでせっせと身繕いをしてるし、机の上はもうすっかり綺麗に片付けられている。
「すじ肉のシチューまで辿り着かなかったな。じゃあそれは明日のお楽しみか」
小さく笑った俺は、伸びをしてベッドを振り返った。
「マックスもニニもいないって久し振りだなあ」
苦笑いして靴と靴下を脱いでベッドに上がる。
「ご主人綺麗にするね〜〜!」
いつものごとく、サクラが一瞬で俺を包んで綺麗にしてくれる。おかげでずっと火の前にいて汗ばんでたけどサラッサラに戻ったよ。
「じゃあご主人のベッドは私達が担当しま〜〜す!」
「お任せくださ〜〜い!」
一瞬で巨大化していつもよりも大きくなったラパンとコニーがベッドに飛び上がってくる。
「おお、いつも以上にフッカフカだなあ」
いつもは大型犬サイズくらいになって俺の背中を担当してくれているラパンとコニーだが、今のサイズはその倍くらいは余裕である。
「へえ、こんなに大きくなれるんだ」
コニーの真っ白な毛を撫でてもたれかかる。
「うわあ、またニニとは違った毛だけどこれも最高だなあ。重くないか?」
「全然大丈夫だからもっと乗っかってくれて良いわよ。ご主人くらいだったらお腹の上に完全に乗せてもへっちゃらだからね」
「あはは、良い事聞いたぞ。では遠慮なく!」
よじ登っていつもニニにしているみたいに上半身をコニーの体に乗り上がるみたいにしてフッカフカの毛に埋もれる。
「ご主人、私も忘れないでください!」
そう言って同じくらいの大きさにまで巨大化したラパンがそう言いながら俺の横にくっついて来て、いつもマックスがしてくれてるみたいに俺をサンドしてくれる。
「おお、何このふわっふわ天国は」
いつもとはまた違ったふわふわな寝心地に、笑み崩れた俺はそう呟いて小さく欠伸をした。このフワッフワサンドもかなり強力な癒し効果がありそうだ。
「じゃあご主人、あまりふかふかじゃ無いけど、私でも大きくなれば抱き枕代わりになるかな?」
モモンガのアヴィの声がして横向きに寝転んだ俺の胸元に、同じく巨大化したアヴィが潜り込んできた。
「おお、良いじゃん良いじゃん。この大きさなら踏み潰す心配も無いな」
いつもアヴィは小さいサイズのままなので、マックスかニニの頭の上で寝ている事が多いので、一緒に寝るのは初めてだ。
「あまりふかふかじゃ無いなんて言ってたけど、このサイズになったらアヴィの尻尾ももふもふじゃんか」
「良いですよ好きにもふもふしてくださって」
大きな目を細めて甘えるみたいにそう言ってくれるアヴィを、俺は思わず抱きしめた。
「こんな良いものを隠し持っていたなんてけしからんなあ」
にんまり笑った俺は、そう言ってアヴィのもふもふ尻尾を心ゆくまで撫でさすらせてもらったよ。
うむ、寝る前に良いものをもふらせていただきました。
「じゃあおやすみ」
「はあい、おやすみなさ〜い!」
ランプを消して真っ暗になってそう言うと、床に好きに転がってるスライム達の元気な返事が聞こえて来た。
小さく笑った俺は、もう一度欠伸をしてから目を閉じた。そしてそのまま気持ちよく眠りの国へ落っこちて行ったよ。ウサギコンビの癒し効果は予想以上に凄かったです。
ぺしぺしぺし……。
つんつんつん……。
「うん、起きるよ……ふああ〜〜」
いつもよりもかなり少ないモーニングコールに、ぼんやりと微睡んでいた俺は大きな欠伸と共に起き上がって腕を伸ばした。
「はあ、最高の寝心地だったよ。ニニとマックスがいない時はラパンとコニーにお願いすればいいな」
俺が起きたのを見て、いつものサイズに戻った二匹をそう言いながら交互に抱き上げておにぎりしてやる。
「じゃあ、顔洗ったらまた朝市へ行くか」
立ち上がってもう一度大きく伸びをした俺は、水場へ向かいながら今日は何を作ろうかと考えていた。
顔を洗って、いつもの如く跳ね飛んで来るスライム達を水槽の中へ放り込んでやる。
「いつもなら、お空部隊とマックスや狼コンビが走ってくるのになあ」
がらんとした誰もいない部屋を見て小さく笑うと、一つため息を吐いてから部屋へ戻った。
「ご主人大丈夫? なんだか元気が無いみたい?」
ベッドの横で中型犬くらいの大きさになって寛いでいたハリネズミのエリーが俺を見上げながら心配そうにそんな事を言ってくれる。
「うん、いつもはうるさいくらいに賑やかなのにさ。今日は誰もいないなあって思ったら、ちょっと寂しかったんだよ」
苦笑いしながらそう言って手を伸ばしてエリーを撫でてやる。
ハリネズミのエリーは、当然だが全身を鋭い針で覆われている。なので俺でも迂闊に触ると大変な事になる。だからエリーを触る時は、今みたいに正面側から頭を後ろ向きに撫でてやる。そうすればエリーは針を完全に後ろ向きに倒してくれるので、針を怖がらずに撫でてやる事が出来るんだよな。
「確かに静かですね。でも私はご主人を独り占め出来て嬉しいですよ」
ちっこい目を細めてそんな事を言われて俺も笑顔になる。
「いつも、あまり構ってやれなくてごめんよ」
よく考えたら、あまりエリーやアヴィと触れ合っていない事を思い出してなんだか申し訳なくなる。
「いえ、私の針は鋭いですからね。迂闊に触れるとご主人が怪我をしますからお気になさらず。それなのに怖がらずにテイムしてくださり、こうやって触れて下さるだけで私はすごく幸せです」
その健気で一途な言葉に、ちょっと感動のあまり涙が出そうになったのは内緒だ。
うん、毛の無い子達も意識して構ってやるようにしよう。
「じゃあ、スライム達も戻って来たみたいだし、準備して買い出しに行くか」
気分を変えるように少し大きめの声でそう言った俺は、立ち上がって手早く身支度を整えていった。
最後に剣帯を取り出して身に付け、剣を装着すれば完成だ。
「じゃあ今日もムービングログで買い出しに行くとするか」
鞄の中にスライム達を入れ、エリーはいつもの鞄のポケットの中。アヴィは俺の腕にしがみついてる。
ラパンとコニーと一緒に俺は扉を開けて、まずは朝市へ買い出しに向かったのだった。