ロールキャベツ!
「ううん、久しぶりの牡丹鍋美味い」
いつもは取り合いしながら確保する肉も、今日は食べ放題だ。
早くもお代わりを要求するシャムエル様にも山盛りに入れてやり、残りの野菜などを入れてコンロの火を強くしておく。沸いてきたら追加の肉を投入だ。
肉に火が通ったところで、俺はご飯の入ったおひつを取り出す。
熱々のご飯を小鉢に入れて、そこにお肉と野菜を乗せて味噌汁をたっぷりとかけた。
「これがやりたかったんだよな。ねこまんまグラスランドブラウンブルバージョンだ」
積み上がった野菜と肉を食べつつ、下のご飯を味噌汁で崩しながらいただく。体も温まるし、お腹もいっぱいになる優れものだ。
一息ついて、麦茶を飲んでまた食べようとしたところで視線を感じて横を向く。
「……なに、まだ食うのか?」
そこには、空になった小鉢を手に目を輝かせているシャムエル様がいた。
「それ、今食べてるそれ作って! 食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ〜〜〜!」
足だけステップを踏みながら唐突に始まる食べたいダンス。
「あれだけ食って、まだ食うのかよ」
苦笑いしつつ、受け取った小鉢にご飯を入れて、たっぷりの野菜とお肉を積み上げて味噌汁をかけてやる。
「はいどうぞ。熱いから気をつけてな」
「うわあい、これまた美味しそう!」
大喜びで頭から突っ込んで行くシャムエル様。
既に焼きそばの残りを完食して、揚げ物の破片も食ってた。そこに小鉢二杯分の牡丹鍋を食って、まだご飯入りでお代わり……。
絶対胃袋どころか、自分の体よりも多い量を食ってると思うんだが、あれって本当にどうなってるんだ?
苦笑いしながら、いつもの倍サイズに膨れた尻尾をこっそりもふりつつ、そのあとは俺も残りの牡丹鍋をのんびりと楽しんだのだった。
「はあ、お腹いっぱいだ」
最後にもうちょっと、と思って食べたのが多かった。だけどまあ大満足だよ。
机の上では同じく食べ終えたシャムエル様が、いつもの身繕いに精を出している。
食べた食器や鍋をスライム達が片付けてくれるのを待って、俺は立ち上がって大きく伸びをした。
「さて、じゃあもう少し作っておくか」
「今度は何をつくるの?」
身繕いをしながら、シャムエル様が俺を見上げて首を傾げる。
「ロールキャベツを作っておこうと思ってさ。今ならじっくり時間をかけて作る料理が出来るからね」
そう言って大きめの口が広い鍋を取り出す。
「キャベツはこうやって芯をくり抜いてっと」
ナイフを縦向きにキャベツの裏側から芯の横に差し込み、ぐるっと一周切り込みを入れてから捻るみたいにして芯を引っこ抜いてやる。抜いた芯は、ラパンとコニーが大喜びで齧ってたよ。
「で、鍋に丸ごと入れて湯がいていくんだ」
コンロの火を入れて、芯を取ったキャベツを丸ごと茹でていく。
「で、これを剥がしておいておくっと」
全部で五玉のキャベツを茹でて、大量のキャベツの葉が茹で上がったので一旦冷ましてもらうように、側にいたイプシロンとエータにお願いしておく。
「ええと、豚肉はグラスランドブラウンブルの肉も混ぜて入れるか。その方がコクが出そうだ。誰か、これとこれをミンチにしてくれるか」
豚肉とさっきの残りのグラスランドブラウンブルの肉を集まって来たスライム達に合い挽きミンチにしてもらう。対比は豚とグラスランドブラウンブルで三対一くらいの割合だ。
「あとは、この玉ねぎだな。誰かこれみじん切りにしてくれるか」
フライパンに油を引きながら、駆けつけて来たゼータに玉ねぎをみじん切りにしてもらう。
「まずはこれを飴色になるまで炒めますよ」
熱したフライパンに玉ねぎを入れて、ひたすら炒める。
「地味な作業だね」
身繕いを終えたシャムエル様が、俺の右肩に座ってフライパンを覗き込んでいる。
「あはは、確かに地味な作業だけど、これをするのとしないので、出来上がりが全然違うんだぞ。まあ見てろって」
軽く塩胡椒をして飴色になったところで火からおろし、アルファに頼んで冷ましてもらう。
次に、大きなボウルに入れた大量の合い挽きミンチを用意する。そこに冷めた玉ねぎと溶き卵を入れてミルクでふやかしたパン粉も入れる。
「これ、ねっとりするまで混ぜてくれるか」
肉用のスパイスと、ネルケさんからもらったスパイスも振りかけてからスライム達に頼んでおき、イプシロンとエータに冷ました大量の茹でたキャベツを出してもらう。
「このキャベツの葉で、こんな風に肉を巻いていくんだ。大きさは色々あるからうまく組み合わせなくちゃ駄目なんだけど、出来るかな?」
出来上がった合い挽きミンチの具をスプーンでたっぷりと取って、見本で大きめの葉で一つ巻いて見せると、集まって来たスライム達が考え始める。
「小さい時は、こんな風に二、三枚の葉をずらして大きくしてから重ねて巻くんだ。ほら、こんな風にな」
同じく、小さめのを重ねて巻いて見せる。
「それで重ねた部分がずれないように紐で縛るんだ。どうだ?」
そう言って太めのタコ糸みたいなので縛って見せると、真っ先に返事をしたのはアクアとサクラだった。
「やってみま〜す!」
それぞれ適当な葉を取ってまな板の上に広げる。
「ええと、これを取って、こうやって、巻く!」
触手が器用にスプーンで肉を掬ってキャベツの上に乗せ、クルクルと巻き始める。その隣では、サクラが二枚重ねのキャベツの葉で、同じく器用に巻き始めているところだった。
「出来たよ〜〜!」
嬉しそうな声が揃う。
「じゃあ皆に教えま〜す!」
一斉にくっついて一体化したスライム達がモニョモニョと動き始める。
「では、作りま〜す!」
一斉にバラけたスライム達が、これまた二列に並んで一斉に作業を始めた。
葉っぱを広げる子、肉を掬って葉の上に乗せる子達。そして巻いていく子達と仕上げの紐で縛る子達といった具合に完全なる分業状態。しかも、スライム達が順番に移動しながら作業をしている。
そしてあっという間に積み上がっていく綺麗に巻けたロールキャベツ。
「あはは、最高だなお前ら。じゃあ俺はこれをこうやって、っと。あとはスープの用意をするか」
笑ってそう言い、こっそり内緒の作業をしてから取り出した鍋にすじ肉で取った出汁を入れて火にかける。
「おでん用に少し残しておくとして、トマト味だけじゃなくてクリームシチューバージョンも作っとくか。色々あった方が楽しいもんな。じゃあ誰かこれ、潰してくれるか」
「はあい、やりま〜す!」
肉を配っていたイータが跳ね飛んできて用意してあったトマトを全部まとめて飲み込む。
「潰したトマトはここに出してくれるか」
温まったすじ肉の出汁が入った寸胴鍋を見せてそこへ入れてもらう。ちょうどトマトジュースくらいの濃度になったので、そこにケチャップとウスターソースを少々、蜂蜜も入れて塩胡椒で味を整える。
「よし、良い感じになった」
一旦火を止めておき、別の大きめの寸胴鍋にコンソメスープと水を追加で入れてから火にかける。
これでまずはロールキャベツを一度下茹でして、火を通してからさっきのトマトスープに入れる。そこでもう一度煮たら完成だ。
同じ手順でクリームシチューも作り、ロールキャベツを入れて煮込んだところで時間切れになった。
「はあ、もう今日はやめよう。さすがにこれだけ作ると疲れたよ」
ため息を吐いて座ったところで、横で目を輝かせて見ていたシャムエル様に当然のように味見を請求されたのは、まあ当然か。
「はいどうぞ。どっちも熱いから気をつけてな」
そう言って渡してやったのは、先ほど内緒で作ったミニサイズのロールキャベツだ。当然トマト味とクリームシチューの両方に入ってるよ。
「何これ! わざわざ作ってくれたの?」
「そりゃあだって、いくらなんでもこれを両方は食いすぎだろうからさ」
鍋に入っている普通サイズのロールキャベツは、コンビニサイズの三倍くらいは余裕である大きさだ。
「あはは、私は平気だけどね」
「俺が心配だからやめてください」
「さすがは我が心の友だね! ありがとう。ではいただきま〜す!」
当然の如くトマトスープに顔から突っ込んでいったシャムエル様のもふもふ尻尾を、俺は改めてもふらせていただいたのだった。
いやあ、何度もふっても良い尻尾ですなあ。