まずは買い物だ!
「ああ、待った待った! 弁当くらい渡すからちょっと待って!」
出掛けそうになった三人を慌てて呼び止める。
「ええと、マックス、お前達も一緒に行ってこいよ。今日は俺は留守番して料理をするからさ。郊外で気晴らしに暴れてこいよ」
「いいんですか!」
俺の言葉に、大人しくお座りしていたマックスが嬉しそうに立ち上がって尻尾を振る。
「もちろん、しっかり頑張ってジェムと素材を集めて来てくれよな」
まあ、今日は近郊だって言ってたから、それほどすごいジェムや素材は無いだろうけど、こう言っておけば遠慮なく出かけてくれるもんな。
「分かりました。ではご主人の分も張り切って集めて来ますね!」
「おう、よろしく頼むよ」
出掛けられる嬉しさのあまり尻尾扇風機状態になったマックスを、俺は笑って抱きしめてやる。
「お前らも行ってきてくれていいぞ」
手を伸ばしてニニの首も撫でてやり、仲良く隣にくっついて座っているカッツェも撫でてやる。
「じゃあ、私たちが残りますね。ご主人の料理で出た野菜クズをもらえたら嬉しいです」
って事で、スライム達以外ではラパンとコニーのウサギコンビと、モモンガのアヴィとハリネズミのエリーが一緒に留守番してくれる事になり、それ以外の子達は一緒に狩りに連れて行ってもらうようにお願いした。
「で、これが弁当な」
大きめのお皿に肉メインで色々作り置きを乗せてやり、三人にそれぞれ渡してやる。それからコーヒーの入ったピッチャーと、激うまジュースの入ったピッチャーも渡しておいてやれば完璧だ。
「おお、これは美味そうだ。ありがとうな。じゃあ行ってくるよ」
今度こそは笑って手を振り、三人と従魔達は嬉々として出掛けて行った。
「じゃあ俺達も戻るか」
ふわふわのラパンとコニーを順番に撫でてやり、エリーをおにぎりにしながらそう呟いてそのまま宿泊所へ戻った。
「もう出掛けないから防具はいらないな」
部屋に戻ったところでそう呟いて、身に付けていた防具を手早く外してまとめて収納する。
「身軽になったところで、何からするかねえ」
「タマゴサンド!」
腕を組んで考えていると、コニーの二本の角の間にぴったり収まったシャムエル様がそう言って小さな右の拳を思いっきり挙げている。
「はいはい、じゃあまずはシャムエル様リクエストのタマゴサンドから作るか」
水場で手を洗って来てサクラに綺麗にしてもらった俺は、シャムエル様の尻尾を突っついてからそう呟いて準備を始めた。
「ご主人、生卵が減ってますよ〜〜!」
サクラがそう言って取り出してくれた籠の中には、見慣れた薄茶色の卵が入っている。
「あれ? もうこれだけ?」
「これとこれで全部だよ」
もう一つ取り出したのは、先ほどの籠よりも入ってる卵の数が少ない。
「ああ、そっか、こっちへ来て朝市では買い物したけど、この辺りは買ってないなあ……あれ、もしかして牛乳も減ってるんじゃね?」
慌てて在庫を確認していくと、生卵だけじゃなくて牛乳やハムの塊もかなり減っているし、乳製品も在庫がちょっと偏っている事が分かった。
「これは午前中の予定変更だ。先に買い物に行こう」
作り始めてから何か足りなくなったら困るので、先に要るものを買って来ないとな。
って事で、せっかく脱いだ防具をもう一度身に付け、一応剣帯も装着して出かける準備をする。
「ああ! もしかして今ならマックスに遠慮せずにアレに乗って行けるじゃんか!」
部屋を出て宿泊所の扉を出たところで思わず手を打ち、小さな声でそう言ってサクラを抱き上げる。
「サクラ。この前預けたムービングログを出してくれるか」
「これだね。はいどうぞ!」
ポンと出してくれたのは、例のシグウェイもどきのムービングログだ。
「ええと、じゃあここに乗ってと。よし、出発進行〜〜!」
ウサギコンビは小さくなって俺の足元に並んで一緒に乗っているし、エリーは俺の鞄のポケットに収まりアヴィはいつもの定位置である俺の腕にしがみついてる。
周り中の注目を集めながら、俺は平然とムービングログに乗って買い物に出掛けたのだった。
まずは、朝市の店が並んでいた通りへ行ってみる。ちょっと朝市には遅い時間だけど、全く店が無いって事は無かろう。
ムービングログに乗って楽々で朝市の通りまで行ってみると、予想通りに店の数はこの前来た時よりもやや少ないものの、それなりの数の店がまだまだ出ている。
俺が欲しいものは、ここでほぼ買えそうだ。
だって、朝には無かった牧場直営の屋台がいくつか出店していたんだよ。逆に新鮮野菜や果物の屋台が減っているところを見ると、店を出すのが時間制なのか、あるいは売り切れたら終わりで空いた所に次の店が入ってるのかもしれない。
人通りはそれなりにあるので一応通りの手前でムービングログは収納しておき、のんびりと歩いて店を見て回った。
ウサギコンビは小さくなって俺の左肩に並んでしがみついている。おかげで俺の左頬はふわふわパラダイスだ。歩いていて落ちるといけないので、こっそりアルファに頼んでウサギコンビの足をしっかりとホールドしてもらってるよ。
牧場直営の看板を建てた店を覗き、牛乳を空いている牛乳瓶に入れてもらう。
それから、作りたてなのだというクリームチーズやモッツァレラチーズ、それ以外にもおすすめのチーズを大量に購入させてもらった。バターやヨーグルトもあったのでこれもまとめて購入。生卵と茹で卵も売っているというので、これもお願いして大量に買わせてもらった。よしよし、これでまたお菓子にもチャレンジできるぞ。
大きな荷物を最初はこっそり鞄に入れていたんだけど、結局途中から面倒くさくなって大量買いしてはまとめて鞄に堂々と放り込むのを繰り返した。どうせ冬中この街にいるんだから、俺が収納の能力持ちだってすぐにバレるもんな。
最初のうちこそ驚いていた店の人達も、俺が苦笑いして口元に指を立てると、どの人も笑って知らん顔をしてくれたよ。
それから初日に買った栗の専門店がまだ何軒も並んでいたので、ここでもまたそれぞれの店のおすすめを中心に、生の栗だけじゃなくて焼き栗を始め栗の加工品をまたしても大量に購入。
たまには自分が欲しいものを優先して買っても良いよな。
出来ればこれから一年中好きな時に食べられるだけの量を確保するのが目標だ。それに栗は、俺だけじゃなくてシャムエル様を始め皆喜んでいたもんな。
またお店の人達にオマケの小粒の焼き栗を大量に貰い、お礼を言って店を後にした。
それから、お肉を大量に焼いている例のお店もまだまだ営業していたので、お願いしてこれまた色々と大量に購入させてもらったよ。
もちろん、あの鶏の丸焼きを焼いていたお店でも、ちょうど焼き上がったばかりだった分まで全部まとめて購入させてもらった。
売り物を買い占めちゃって申し訳ないかと心配したんだけど、午後からは夕食用に買いに来る人が増えるので、別の焼き台を持って来ていて追加を既に焼き始めているから、心配いらないと笑って言われたよ。
成る程、この時間は狙い目なんだな。よし、これもまた来よう。
とりあえず、欲しいものが一通り買えたので、このあとは適当に店を冷やかしながら歩き、良さそうなものがあればまとめて買いながら通りを端まで歩いた。
「よし、これだけあれば作る予定のものは全部出来るな。じゃあ戻って午後からはがっつり料理をするぞ」
そう言って、鞄からムービングログを取り出して飛び乗り、またしても大注目を集めつつのんびりと宿泊所へ戻ったのだった。