朝食と販売予定
「タ、マ、ゴ! タ、マ、ゴ! 美味しい美味しいタ〜〜マゴサ、ン、ド!」
俺がリクエストのタマゴサンド三種盛りを渡そうとすると、いきなり新曲とダンスが始まった。
短い足を前に後ろに交互に出しながら見事なステップを踏んでいる。
「おお、新曲ダンスいただきました〜〜」
笑ってそう言いながらもふもふの尻尾を突っついてやり、シャムエル様の目の前にリクエストのタマゴサンド三種盛りを置いてやる。
「ふおお〜〜〜〜! 夢のタマゴサンド三種盛り再び〜〜〜〜!」
嬉々としてそう叫んだシャムエル様は、両手を広げて飛びかかるみたいにタマゴサンドに突っ込んでいった。
そして、ものすごい勢いでタマゴサンドを齧り始める。
右から左に頭が動くと1センチくらいタマゴサンドが齧られて見事に減っていく。
「誰も取らないから、ゆっくり食えって。ほら、コーヒーは?」
「ここにください!」
食べながら一瞬で取り出して差し出された杯に、苦笑いした俺は自分のマイカップに注いだ淹れたてコーヒーをスプーンですくって入れてやった。
「はいどうぞ。そんなに慌てて食ったら喉に詰まるぞ」
相変わらずものすごい勢いで食べているシャムエル様の横にコーヒーを置いてやり、俺も自分用に取った惣菜パンを焼き直すために簡易オーブンに入れたのだった。
「あれ、そういえばベリーやフランマ、それにカリディアの姿も無いけど、何処へ行ったんだ?」
俺が起きた時には、確か庭に出て日向ぼっこをしていたはずのベリー達の姿が見えない。
「ああ、ケンタウルスの郷から、何人か仲間達が来てくれたらしくて会いに行ったよ。念の為、この冬の間は主な鉱山と、それから近隣の農地などをしばらく彼らが定期的に見回ってくれるそうだ」
「へえ、そりゃあ有難いな」
「彼らなら、万一岩食いと遭遇しても即座に対応してくれるさ。とりあえずは任せておけ」
「了解、じゃあ安心して料理が出来るな」
笑ってそう言い、熱々になった惣菜パンをオーブンから取り出して席についたのだった。
「ふう、ごちそうさま。やっぱりタマゴサンドは最高だね」
あっという間に食べ終えて少し冷めたコーヒーを飲みながら、目を細めてご機嫌でそんな事を言ってるシャムエル様は文句なしに可愛い。
ああ、そのもふもふな尻尾を俺に突かせてくれ〜〜!
無言で悶絶する俺に構わず、最近のお気に入りらしいマックスの頭の上に一瞬で移動したシャムエル様は、せっせとそこで尻尾のお手入れを始めた。
「じゃあ、俺はしばらく料理三昧だな」
残りのコーヒーを飲み干してそう言うと、笑ったハスフェル達も頷いてくれた。
「ああ、だけど一度ギルドへは改めて顔を出しておくべきじゃないか。渡した素材の支払いがどうなってるか確認しておかないとな」
ギイの言葉に全員揃って考える。
「ああ、そうか。メタルブルーユリシスの翅をはじめ、色々渡した分の支払い確認をしていなかったな」
「まあ、明細はもらってるからいいんだけどな」
一応そこは信用している。今のところ特に問題も無く、全てのギルドで渡した今までの分の支払いもきちんと済んでいるからな。
「そりゃあそうさ。万一にもお前におかしな事をして信用されなくなって、もう素材もジェムもギルドには売らないなんて言われたら、ギルドマスターどころか下手すりゃあ職員達の首まで飛ぶぞ」
呆れたようにハスフェルにそう言われて思わず目を瞬く。
「ああそっか。相手を信用してるからこそ先に品物を渡して支払いを後にしてるんだもんな。それで支払われなかったら不渡りじゃんか。そりゃあ二度と取り引きしてもらえなくなるって」
納得してそう呟くと、三人も苦笑いしつつ頷いている。
「まあ、今回はメタルブルーユリシスの翅が主だからな。それこそ、バイゼン中の現金を集めてでも意地でも支払ってくれるさ」
せっかくちょっと減ったのに、また倍増するであろう口座の金額を考えて、ちょっと気が遠くなった俺だったよ。
「まあ、レアな素材やジェムはやめた方がいいだろうけど、落ち着いたら定番の素材やジェムは、以前他のギルドでやってたみたいに一割引にしてやればいいんだよな。何しろ、まだまだ大量にジェムも素材もあるんだからさ」
「ああ、お前が良いならそれはやってやればいい。きっと狂喜乱舞するぞ」
「ここバイゼンは文字通り職人の街で、武器や防具だけでなく、大小様々なジェムを使う機械類、それに高額な装飾品から普段使いの日用品まで、ありとあらゆる物を作る職人達が大勢集まっている。素材もジェムもいくらでも必要だからな」
オンハルトの爺さんの言葉に、アクア達の中にあるあのとんでもない量のジェムと素材の在庫が少しでも減ればいいのになあ、なんて考えていたのだった。