ネルドリップと今日の予定
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
活動報告にも書きましたが、この「もふもふとむくむくと異世界漂流生活」が、アーススターノベル大賞にて恐れ多くも期間中受賞の連絡をいただきました!
本が出ます! イラストがつきます!
夢のような話ですが、どうやら現実のようです。
いつかは本が出せれば良いなあ。くらいに思っていましたが、まさかまさかの展開です。
本当に人生何が起こるか分かりませんね。
諦めなければ、チャンスはある!
どうぞこれからも、もふもふでむくむくな愉快な仲間達との旅を見守ってやってくださいm(_ _)m
「はあ、やっぱり水で顔を洗うと気持ちいい!」
水場で顔を洗ってサッパリした俺は、パタパタと飛んできたアクアゴールドから出てきたサクラの触手に綺麗にしてもらってから、代わりにアクアゴールドを捕まえて水場に放り込んでやった。
ついでに一緒に飛んできたゲルプクリスタルも放り込んでやる。
「ご主人、お水ください!」
賑やかな声が聞こえて羽ばたく音と共にお空部隊が飛んできたので、水槽から手で水をすくってせっせと掛けてやった。
「毎回これで、もう一回サクラのお世話になるんだよな」
笑いながらそう呟き、結局びしょ濡れになった服と体をもう一回綺麗にしてもらってから部屋に戻ると、ちょうど計ったみたいなタイミングでハスフェルから念話が届いた。
『おはようさん。もう起きてるか?』
『おう、おはよう。今、顔洗って戻ってきたところだよ。今日はゆっくりするんだろう? 作り置きで良いなら出すから来てくれていいぞ』
『ああ、悪いな。じゃあそっちへ行くよ』
笑った三人の気配が消えてから、俺はいつもの防具を取り出してちょっと考える。
休みの日なら防具は必要ないんだけど……。
「まあ、良いか」
とりあえずいつものように防具を身につけて身支度を整え、剣帯と剣は収納しておく。
それから机の上に、いつものサンドイッチや惣菜パンなどを適当に取り出して並べる。
「あれ、コーヒーの残りがちょっとしか無いじゃんか。ちょっと淹れておくか」
コンロとヤカンを取り出し、ネルドリップに挽いたコーヒー豆を入れておく。
「ジュースはまだ色々あるんだな。じゃあ後でコーヒーは作り置きしておこう」
セレブ買いの時にたっぷりコーヒー豆は買ってあるので、とりあえず今は飲む分を淹れておく。
「おはよう。おお、良い香りだな」
部屋いっぱいに香るコーヒーの香りに、入って来た三人も笑顔になる。
彼らも当然のように、いつもの防具と剣帯を身につけて剣を装備している。どうやらこれで正解だったみたいだ。
「おはようさん、ちょっとコーヒーが少なくなってるみたいだからさ。いるならちょっと待っててくれよな」
振り返ってそう言った俺は、沸き立てのヤカンをミトンを使って手に取った。
「おう、よろしく頼むよ」
早速パンを選び始めた三人を横目に、小さなため息を吐いた俺は、お湯を少しずつコーヒー豆の上に軽く円を描くようにしながらゆっくりと注いだ。
コーヒーを美味しく淹れるコツは、この時に一気にお湯を注がない事。
軽くひと回しくらいのお湯を入れて、挽いたコーヒー豆が水分を含んで膨れてくるのを待つ。
豆の上部に泡が出て全体に大きく膨れて盛り上がってきたら、少し高い位置から少量ずつのお湯を回し入れていく。この最初の工程を失敗すると、水臭くて不味いコーヒーになるんだよな。
「おお、膨れてきたねえ」
俺の手首に現れて座ったシャムエル様が、ネルドリップの中のコーヒー豆を見ながら面白そうにそう言って笑っている。
「こら、危ないからもうちょっと下がってくれよ。お湯が跳ねて火傷しても知らないぞ」
そう言って左手を軽く動かすと、一瞬で右肩に移動する。
「相変わらず器用だねえ」
こういうのを見ると、普通の存在とは違うんだって気がするよな。でもまあ、何であれ膨れた尻尾は無条件に可愛い。
尻尾を突きたくなる衝動と内心で戦いつつ、ゆっくりとコーヒーを淹れる。
「よし、これで以上だな」
最後のお湯を注いでからヤカンをコンロに置けば、あとはコーヒーは落ちるのをじっくり待つだけ。
「ご主人、このまま持ってればいいの?」
いつの間にか分解してバレーボールサイズで床に転がっていたサクラとアルファが机の上に上がって来て、俺が持っているネルドリップを見ながらそう尋ねる。
「ああ、それじゃあ持っててくれるか。ネルの中には熱いコーヒーが入ってるけど、もう大丈夫だよな?」
「沸騰してなければ大丈夫です!」
細い触手が出てきて揃って敬礼のポーズをしてネルドリップをサクラが受け取る。アルファは横から触手を伸ばしてネルドリップを支えている。一生懸命コーヒーが落ちるのを待ってるその姿は可愛い。
「ありがとうな」
手を伸ばして二匹交互に撫でてから、俺も自分のサンドイッチを取りに行った。
「シャムエル様はいつものタマゴサンドだな?」
「もちろん! 三種盛りでお願いします!」
目を輝かせるシャムエル様の言葉に小さく笑って差し出されたお皿を受け取る。
先日の、タマゴサンド三種盛りがどうやら気に入ったらしい。
「ううん、普通のたまごサンドはまだまだあるけど、厚焼きタマゴサンドとスライス茹で卵入りは残りが少なくなってるなあ。じゃあ今日は冗談抜きで俺は午後から料理だな」
「ええ、それは困るよ! たくさん作っておいてください!」
慌てたようなシャムエル様の声に、俺は笑ってもふもふの尻尾を突っついた。
「了解、じゃあ、今日は俺はここでのんびり料理でもするかな」
慌てて尻尾を取り返したシャムエル様は、少し考えてハスフェル達を振り返った。
「どう、今日はそれでいい?」
「良いんじゃないか。街の防衛はギルドと軍がやってくれるだろうから、今すぐにここで俺達が何かする必要は無いさ。まあ、いざって時に備えて食料はしっかり準備しておいてくれよな」
にんまり笑ってそんな事を言われてちょっと遠い目になったよ。
だけどまあ、確かに何があっても腹は減るんだから食事の準備は充分過ぎるくらいに用意しておこう。
「ええと、パンとご飯はまだまだ大量にある。屋台からの差し入れがあるから焼肉とか串焼き系はかなりある。逆にいつも俺が作ってる揚げ物系が減ってるな」
在庫を思い出しつつ、午後からの料理に何を作るか考えていた俺は、いつの間にかベリーとフランマとカリディアが部屋からいなくなっていたのに、全く気がついていなかったのだった。