深夜の焼きそばは最高だね!
「無事に届いたみたいだな。ああ、待っててくれたのか。悪い悪い」
嬉しそうに消えて行った収めの手を見送った俺は、食べずに待っていてくれた三人に謝って大急ぎで自分の席に座った。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ〜〜〜〜〜!」
いつもよりもかなり大きめのお皿を手にしたシャムエル様が、高速ステップから連続三回転。お見事! そしてそのままキメのポーズのはずだったんだけど、どうやら小さな足を踏み出した箇所に油が跳ねていたみたいで、見事にすっ転んでそのまま勢い余ってふっ飛んで空中に回転状態になる。
「どわあ〜〜〜! 危ねえって!」
もうちょっとで机からおっこちそうになったのを見て、慌ててそう叫んで両手で受け止めてやる。
「うああ、びっくりした。何だかすっごく滑ったよ?」
俺の手の中に収まったまま目を瞬くシャムエル様の言葉に、俺は笑って謝ったよ。
「申し訳ない。多分それ、豚バラ肉を炒めた時に跳ねた油のせいだと思うな。スライム達に……ああ、もう綺麗にしてくれたみたいだよ」
振り返った机の上では、使っていたフライパンやコンロを片付けてくれたスライム達が、大急ぎで机の上も綺麗にしてくれている真っ最中だった。
「ああ、光ってたのはそれだったんだね。じゃあ次からは気をつけないと」
手の上で立ち上がったシャムエル様は照れたようにそう言って笑うと、一瞬でお皿を取り出して俺の腕にぐいぐいと押し付けた。
「じゃあ、私の分をここにください!」
「はいはい、じゃあちょっと待ってくれよな」
どう見ても、シャムエル様の体よりデカいお皿を受け取り、自分のお皿から山盛りに取り分けてやり、どちらかというと、俺の分を控え目に残す。
「はいどうぞ、肉増量ソース焼きそばだよ」
「ふおお〜〜〜良い香り! では、いっただっきま〜す!」
目の前に置かれた山盛りの焼きそばに、雄々しく宣言してやっぱりいつものごとく頭から突っ込んでいくシャムエル様。
「ああ、そんなに慌てて食わなくても誰も取らないよ。大事な尻尾までソースまみれになってるし」
苦笑いして跳ね飛んだ太麺でベタベタになった尻尾の先を突っついてから、俺も自分の分の焼きそばに手を合わせてから食べ始める。
「ううん、この甘めのソース味が太麺に絡んでるのが堪らん。しかも夜食にこれってのが最高だな。自分で作っていうのもなんだが、これは美味い」
大満足で食べながらハスフェル達を見ると、彼らも大喜びで食べているからどうやら気に入ってくれたみたいだ。
「ううん、この甘辛ソースが最高だね!」
口から麺をはみ出させつつ、モグモグやってるシャムエル様は最高に可愛い。
ああ、その膨れたほっぺたを俺に突かせてくれ。残りの焼きそばを食べながら内心で悶絶する。
まあ、絶対に怒られるからやらないけどね。
「ごちそうさま。いやあ、美味かったよ」
「ごちそうさま。あんなに簡単そうに手早く作ってこんなに美味いのが出てくるって、本当に最高だな」
「ごちそうさま。全くだ。いやあ、本当にケンが仲間で良かったと思えるよなあ」
笑いながら、すっかり綺麗になったお皿を片付ける三人を見て、俺も食べ終えたお皿を横で待ち構えていたアルファに渡した。
「じゃあ、部屋に戻るよ。明日は言ってたようにここで待機を兼ねてゆっくりさせてもらうとしよう」
「だな、それじゃあおやすみ」
ハスフェルの言葉に二人も立ち上がり、手を振ってそれぞれの部屋に戻って行った。
「さてと、それじゃあ俺ももう休むか。何だか疲れた一日だったよ」
立ち上がって大きく伸びをした俺は、もうすっかり寝る準備を終えている従魔達を振り返ってちょっと笑ったね。
「綺麗にしま〜〜す!」
跳ね飛んできたサクラが、そう言って一瞬でいつものように俺を包む。
元に戻った時には、もうサラサラ。相変わらず良い仕事するねえ。
ベッドに腰掛けて靴と靴下を脱いだ俺は、そのままマックスとニニの間に潜り込んだ。足元にニニに半分くっつくみたいにしてカッツェがもたれかかってくる。
背中側には巨大化したうさぎコンビが並び、顔の横に猫サイズになったソレイユとフォール、それからユキヒョウのヤミーとオーロラグリーンタイガーのティグが並んでくっつく。今日は顔の横が盛り沢山だ。
「ベリー達はまだ戻ってないんだな。大丈夫かなあ……」
暖かなニニの腹毛に潜り込みながらそう呟いた時、聞き慣れた声が聞こえて慌てて顔を上げた。
「ギイとオンハルトが戻るのに合わせて、私も一旦戻りました。今回は苔食いではなく岩食いですからね。念の為、ケンタウルスの郷に知らせて彼らにも対応をお願いしました。万一、岩食いが人のいる場所を襲うような事があれば、仲間達も対応に来てくれますからご心配無く」
「おう、そうなんだな。まあ、これに関しては俺には出来る事は無さそうだからな。よろしくお願いしますと言っておくよ」
もたれかかっていたニニの腹から顔を上げてそう言うと、ベリーは笑って首を振った。
「以前も言いましたが、この揺らぎの存在は、我々の本来の仕事ですからね。お気になさらず。まあ、内密に処理出来れば良いですが、どうなるかはちょっとまだわかりませんね。いずれにしても今回はかなり大掛かりになりそうなので、仲間達も張り切っていましたよ」
何故か得意げにそんな事を言われてしまった俺はちょっと遠い目になったんだけど、それは当然だよな?