夜食を作るぞ〜〜!
「それじゃあおやすみ。じゃあ明日は休憩だな」
「おう、おやすみ」
結局、その場はもう解散で良いだろうって事で、俺たちは一旦宿泊所へ戻って休む事にした。
もう夕食は食ってるから、そのまま各自の部屋に戻るはずなのに……何故だか全員が俺について部屋に来てるし。
「なんだよ、もしかして腹が減ってる?」
振り返った俺の言葉に、苦笑いしつつ揃って頷く三人。
「了解、確かにいつもよりもちょっと食べるのが早かったもんな。じゃあ深夜の夜食に何を……」
作り置きを出しても良いんだけど、ちょっと考えた俺はにんまりと笑って三人を見た。
「すぐに作ってやるから、ちょっとだけ待てるか?」
「待ちます!」
綺麗に揃った三人の返事に、吹き出した俺は胸を張ってサムズアップをした。
「それじゃあ何か飲んで待っててくれよな」
もう今夜は装備は脱いでも良いだろう。
剣帯を外し、防具も手早く外していく。
ハスフェル達は、防具はそのままで剣帯だけ外して収納していた。まあ、これが無いだけでもかなりらくだもんな。
防具を脱いだ俺を見てギイは何か言いたげだったけど、ハスフェルが笑って首を振るのを見て苦笑いして頷いて椅子に座った。
今の無言のやり取りを視界の端っこで捉えていた俺は、密かに首を傾げつつサクラを机の上に乗せたところで不意に理解した。
要するに、彼らはまだ警戒を完全に解いたわけでは無いんだって事だ。
万一何かあれば即座に対応できるように、装着にある程度の時間がかかる防具はそのままにしている。
まあ、俺は彼らと違って個人の戦力としては限りなく低いだろうから、その範疇から外れているのだろう。
なんだか申し訳なくなって、小さなため息を吐いた。
「よし、じゃあコンロと大きいフライパン、それから材料は……」
俺が言う材料を、サクラが次々に机の上に並べてくれる。
「まあ、これは夜食だからシンプルに作るけどな」
そう呟いて、キャベツもどきを手にした。
「ええと、これを半玉分で良いから、これくらいの荒めにざく切りにしてくれるか」
「はあい、すぐにやりま〜す!」
サクラがキャベツを丸ごと飲み込んで、言った通りに半玉分を3センチ角くらいのざく切りにしてくれる。
「こっちのちくわもどきは、こんな感じに縦に半分に切ってから斜めに5ミリくらいの分厚さに切ってくれ。それから豚バラ肉は、これくらいで粗く切ってくれるか」
薄切りにしてある豚のバラ肉は、3センチくらいの大きめに切ってもらう。肉はかなり多めだ。
「天かすは、以前かき揚げを作った時のがあるから、それを使えばいいな。各種ソースと茹でた麺はある。よし、これで準備完了だ。じゃあ作るぞ!」
材料を一通り確認した俺は、コンロの火を付けてフライパンに切った豚バラ肉を入れながらそう呟いた。
作るのは、夜食には最高だけど罪悪感たっぷりの、関西風ソース焼きそば肉たっぷりバージョンだ。
まずは強火で豚バラ肉を一気に炒めていく。
フライパンを勢い良くあおっていると、何故か三人から拍手を貰ってしまった。子供か、お前らは。
「豚バラが炒め終わったら、キャベツとちくわを加えてさらに炒めますよ!」
そう言いながらこれも勢いよく手を止めずに炒め続け、ここで塩と黒胡椒を振り入れる。
「ちょっと汁気が出てきたところで、茹でた太麺を入れるぞ」
キャベツに火が通ってちょっとしんなりしてくると、キャベツから水気が出て来る。こうなったら、茹でた麺を入れてその水分を麺に吸わせるんだよな。こうすれば野菜の甘みが麺に全部行くから全体の味がグッと良くなる。豚のバラ肉からガッツリ油が出るから、油を引く必要もほとんど無い。
今回は、大食漢三人の腹を満たすために茹で麺はかなり大量に投入した。ちょっと炒めるのが大変そうだけど……まあ何とかなるだろう。
麺が綺麗にほぐれて水分を吸ったら、もうちょい炒めて油もしっかりと麺に絡ませる。
「最後に天かすを入れて、味の違うソースを入れるよ!」
ややスパイシーでちょっと辛味のある中濃ソースと、俺がトンカツソースと呼んでいるやや甘めの粘度の高めの濃厚ソースを全体にたっぷりと回しかける。
最後にフライパンをあおって一気に麺にソースを絡めれば完成だ。
「お待たせ! 出来たぞ。お皿は……あはは、待ちきれなかったか」
かなり大きめのお皿を手にした三人とシャムエル様が、揃って目を輝かせて俺の後ろに並んでいた。
「はいはい、たっぷりあるから順番にな」
俺の分も出してくれたハスフェルにお礼を言って皿を受け取り、机の上に皿を並べてもらって、トングで掴んで山盛りのソース焼きそばを盛り付けてやる。
多分、一人前が三玉分くらいはありそうな量になったけど、まああいつらならそれくらい平気だろう。俺は普通に一人前プラスシャムエル様用にもう一人前でいいよ。
しかし、キッラキラに目を輝かせて高速ステップを踏んでいるシャムエル様を見て、もう一人前分盛り合わせたよ。結局俺のもかなりの量になったけど、まあ他の三人よりは控えめな量になった。
「ここに鰹節とあおさ海苔を振りかければ出来上がりだ。深夜の禁断の夜食、肉たっぷりソース焼きそばだよ。遠慮なく食ってくれ」
もう一度拍手をした三人が、嬉々として山盛りの焼きそばを持ってそれぞれの席につく。
俺もそのまま座ろうとしたら、急に後頭部の髪の毛を引っ張られた。
「ええ、誰だよ?」
シャムエル様は机の上にいるので誰かと思って驚いて振り返ると、まさかの収めの手が嬉々として俺の髪の毛を引っ張って自己主張していた。
「あはは、見てたのかよ、了解」
笑って立ち上がり、大急ぎでスライム達が準備してくれたいつもの簡易祭壇に俺の分の焼きそばを供えた。
「お待たせしました。禁断の味、深夜の夜食のソース焼きそばだよ。今回はボリュームメインだったから具はシンプルだけど、本当はもうちょっと色々入れます。また機会があればそっちも作るからお楽しみに」
嬉しそうに何度も俺の頭を撫でた収めの手が、山盛りの焼きそばをこちらも何度も撫でてからお皿を持ち上げる振りをしてから消えていった。
さて、それじゃあ食べるとするか。