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先に夕食を食べよう!

「もしかして、またあの断崖絶壁を登るのか?」

 安全地帯に向かって走りながら、ここへ来た時の大騒ぎを思い出して焦っていると、シリウスの背の上でこっちを振り返ったハスフェルが笑いながら首を振った。

「まあ、行きよりも帰りの方が楽だから心配するな」

「そう言われても、安心出来ないのは俺がヘタレだからかなあ」

 誤魔化すように笑いながら、マックスの頭の上で寛いでいるシャムエル様の尻尾をそっと突っついた。



「じゃあ、ここで集まるか」

 ようやく到着した安全地帯でハスフェルがそう言うのを聞いて、俺はちょっと考えた。

「なあ、もしかして外って今の時間はどうなってるんだ? 確か昼食にステーキを焼いて、それからオーロラタートル狩りに突入しただろう? 時間的にそろそろ夕食の時間だと思うんだけどなあ。って事は、外に出たらもう真っ暗になっている可能性が高いんじゃないか? それなら明るいここで夕食を食べて、外へ出た後はそのまま走ってバイゼンヘ戻るなり、どこかで一晩休んでから戻るなりすればいいと思うんだけど、どうだ?」

「ああ、確かに言われてみれば夕食を食っていないな。ふむ、確かにこのまま外に出たら飲まず食わずで走る事になるな」

 あのハスフェル達が食事を忘れていた事に俺が驚いていると、苦笑いして顔を見合わせた三人が揃って振り返った。

「じゃあ、悪いが作り置きで良いから何か出してもらえるか。それで食ったらそのままバイゼンヘ戻ろう」

「了解だ。じゃあここで良いな」

 マックスの背から飛び降りてサクラに机と椅子を出してもらった俺は、作り置きの料理を適当に出していった。

 一応、頑張って走るみたいだからガッツリ肉系を多めに出しておいたよ。



 俺は、少し考えて残してあった半身の鶏肉の丸焼きを取り出し、適当に手早く肉をほぐして熱々のご飯の上に山盛りに盛り付けた。

 即席焼き鳥丼だ。これを食べた時に、ご飯に乗せても絶対美味いと思ったんだよ。

 彩りに炒り卵と茹でた豆、それから紅生姜の刻んだのを乗せれば完成だ。

「なんだなんだ、美味そうなのを食ってるじゃないか」

 いつもの簡易祭壇に並べようとお椀を持ち上げたところでそう言われて振り返ると、こっちを見たギイが、俺の焼き鳥丼を見て目を輝かせている。

「ええと、丸焼きは後一匹分しか無いぞ。これで半身の量だから、これで作ったとしても二人分しか出来ないから誰が食うかよく話し合ってくれよな」

 笑った俺の言葉に顔を見合わせた三人は、しばしの無言のやり取りの後にギイとオンハルトの爺さんが手を挙げた。どうやら今回はハスフェルが引き下がったみたいだ。

 まあ彼は、あのモンスターとの戦いの後にこれを二羽丸ごと平らげてるからな。



「了解。じゃあ作るからちょっと待っててくれよな」

 とりあえず横に置いた自分の分を見ながらそう言って、ふと手が止まる。

 若干肉がバラけていた切った半身と違い、焼いたままのを丸ごと一羽解すのはちょっと大変かも。苦笑いしつつそんな事を考えていると、机の上のサクラがポヨンと飛び跳ねて俺を見た。

「ご主人、この丸焼きのお肉をさっきご主人がしたみたいに全部解せば良いの?」

「おう、出来るか?」

「出来るよ〜〜! ちょっと待ってね」

 自信ありげにそう言うと、サクラは突然モニョモニョと動き始めた。

 それからしばらく待っていると、綺麗にほぐした鶏肉をお皿に山盛りにして出してくれた。

「おお、完璧。すげえな、こんな事まで出来ちゃうんだ」

 手を伸ばしてサクラを撫でてやり、取り出した炊き立てご飯を大きめの丼に用意する。

 肉を適当に半分にして山盛りにしてから、俺と同じように炒り卵と茹でた豆、それから紅生姜を乗せかけて少し考える。

「ええと、紅生姜はちょっと辛いけど大丈夫か?」

 生姜の辛味って、あまり普段使った事が無いのを思い出して聞いてみたが、二人とも大丈夫みたいだ。

 揃ってサムズアップする二人を見て、笑って彩りよく盛り合わせて渡してやった。

 ハスフェルは、俺が二人分を用意している間に、自分で焼いたパンに分厚い燻製肉と生ハムをガッツリ挟んだ即席サンドイッチを量産していた。

 相変わらず食う量がおかしい。

 付け合わせは温めたワカメと豆腐の味噌汁と、大根とにんじんもどきの浅漬けだ。

 まあ、ギイとオンハルトのじいさんはこれだけだと足りないだろうから、後は好きに出してあるのを食ってくれ。俺はこれだけあれば充分だよ。



 小さく笑って、改めて簡易祭壇に自分の分を並べていく。

「焼き鳥丼とお味噌汁です。付け合わせは大根とにんじんの浅漬けです。少しだけどどうぞ」

 手を合わせてそう呟き目を閉じる。

 いつもの収めの手が俺の頭を撫でてから離れたので目を開けると、料理を順番に撫でてから最後に丼ごと持ち上げるみたいにして収めの手は消えていった。

「気に入ってくれたみたいだな」

 そのまま料理を持って席に戻ると、お椀を抱えたシャムエル様と目が合う。

 まあ当然だろう。

「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」

 今日は久々の味見ダンスだ。お椀を上下に振り回しつつ、足は器用にステップを踏んでいる。最後に三回転してから決めのポーズだ。

「はいはい、今日も格好良いぞ」

 笑って拍手をしてからお椀を受け取り、焼き鳥丼の三分の一くらいを綺麗に盛り合わせて入れてやる。

 横に置かれた小さめのお椀に、味噌汁をスプーンですくって入れてやり、小皿に大根とにんじんの浅漬けも一切れずつ乗せてやる。

 うん、あとでもうちょい俺も何か食べよう。これだけだと後から腹が減って来そうだ。

「はいどうぞ。焼き鳥丼と味噌汁と浅漬けだよ」

 目を輝かせるシャムエル様の目の前に並べておいてやる。

「うわあい美味しそう! では、いっただっきま〜す!」

 嬉しそうに宣言して、やっぱり顔から丼の鶏肉に突っ込んでいった。

「相変わらずだねえ」

 もふもふになった尻尾を突っつきつつ、俺も自分の丼を手にしたのだった。



 まあ、この先何があるのか分からないけど、食える時にはしっかり食っておかないとな。

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