超巨大ギガントスッポンもどき現る!
「おいおい、サボってんじゃねえよ」
振り返って笑ったギイの声に、槍に寄りかかって立っていた俺は、顔を上げて口を尖らせた。
「別にサボってる訳じゃねえぞ。こっちまで全然ジェムモンスターが流れて来ないだけだよ」
「あはは、そりゃあ申し訳ない。だけど、ここの獲物はなかなかに面白いからつい白熱して夢中になっちまうんだよ。じゃあ、たまには後ろに流してやるからお前も働きな!」
そう言って、足の横をすり抜けて滑っていった巨大スッポンの背中を蹴っ飛ばした。
滑る速度が一気に速くなる。
「どわ〜〜! いきなりこっちに振るんじゃねえよ!」
慌ててそう叫び、槍を構えて振りかぶる。
またしても首を伸ばして滑ってくる、さっきの倍くらいはありそうな巨大な円盤型スッポンに向かって、俺は力一杯槍を突き刺した。
「あれ? さっきはこれでジェムになったのに?」
地面に縫い付けられた超巨大スッポンは、何やら奇声を上げてじたばたと暴れている。
仕方がないので、いつもの剣を抜いたところでギイの声が聞こえた。
「そいつは、尻尾の付け根の辺りに弱点があるんだ。そこを一発で突けば瞬時にジェムになる。失敗したら今みたいになるんだ。迂闊に近寄ると大暴れされるから、噛まれないようにしろよな。腕くらい簡単に持っていかれるぞ」
「それを早く教えてくれよな!」
そう叫び返して剣を尻尾の付け根部分に突き立てた。
言われてみれば、俺の目にはこの辺りだけが周囲とちょっとだけ色が変わっているみたいに見えたんだよ。これは恐らくだけど、例の鑑識眼のおかげなんだろう。相手の弱点が見えてるっぽい。
俺の予想通りに、一瞬でジェムと甲羅になって転がる。
「おお、上手くやったな。じゃあ時々流してやるから、お前も討伐戦に参加しろよな」
楽しそうなギイの言葉に思わず甲羅を拾いかけていた手を止める。
「はあ? 討伐戦?」
「おう、今みたいに瞬時にジェムと素材になったやつの合計を競ってるんだ。大きさは関係無し。一撃必殺狙いだから面白いぞ」
嬉々としたギイの説明を聞いて脱力したよ。
三人があんなに前に出て、従魔達に混じってムキになって戦ってる意味がようやく分かった。
要するに、従魔達と獲物の取り合いをやってるわけだ。
「無茶するよなあ。だけどまあ、確かに張り切りたくなる気持ちも分かるぞっと!」
確かに、時折滑り降りてくる超巨大スッポンを一撃でやっつけた時の、あの爽快感と言うか快感は癖になりそうだ。
そこからは俺もちょとだけ前に進んで、こっちへ時折落ちてくるスッポンもどきをひたすらミスリルの槍で突き続けた。
「ううん、なんだか忙しくなってきたぞ。しかも、なんだか最初の頃よりも落ちてくるスッポンもどきの大きさが、どんどん大きくなってる気がする」
ちょっと離れた場所を勢い良く滑り落ちようとしたスッポンもどきを一撃で沈めた俺は、汗を拭いながらそう呟いて大岩を見上げた。
最初にやっつけたやつは、素材で落ちた鼈甲の大きさが直径50センチくらいだったのに、今目の前を流れてやっつけたこのスッポンもどきなんて、余裕で甲羅の直径が2メートルクラス。すっぽんどころか海亀より遥かにデカいと思うぞ。
「うおお〜〜! これはちょっと怖いって!」
どう見ても2メートルオーバーの超巨大ギガントスッポンもどきが大口を開けてこっちを威嚇しながら真正面に滑り落ちてきた。
慌てて横に逃げて槍を振りかぶった時、俺は本気の悲鳴を上げた。
「アクア! 危ない! 逃げろって!」
超巨大ギガントスッポンもどきが落ちてくる直線上には、転がってきたジェムを拾っているアクアの姿があったのだ。
「ふえ?」
なんとも暢気な返事の直後、超巨大ギガントスッポンもどきがアクアに激突したのだ。
しかも、大口を開けたまま真正面からぶつかったように見えて、俺はまた悲鳴を上げて必死になって駆けつけた。
もしもアクアがあの超巨大ギガントスッポンもどきに食われでもしたら、どうすればいいんだ。
内心パニックになりつつ、文字通り坂道を転がり落ちるみたいにして俺はアクアがいた場所に駆けつけた。
そこには何故か動きの止まったあの超巨大ギガントスッポンもどきがいて、手足を動かしてモゴモゴしてるだけで噛み付く様子も無い。
「アクア! どこへ行ったんだよ、アクア」
必死になって呼びかけると、突然あの超巨大ギガントスッポンもどきの動きが止まった。
「ご主人、今なら口を押さえてるから安全にやっつけられるよ〜〜!」
どこかから、アクアのいつもののんびりした声が聞こえて、俺は思わず目を見張った。
「ええと……アクア? 無事?」
「大丈夫だよ〜〜! ほらご主人、大丈夫だから早くやっつけてくださ〜い!」
嬉しそうな声に安堵のため息を吐いた俺は、とにかく例の急所を一撃で突いて超巨大ギガントスッポンもどきをやっつけた。
「ふう、びっくりした〜〜!」
それと同時に、薄く伸びてスッポンもどきの顔を覆っていたアクアが元に戻る。
「もう、びっくりさせないでくれよ。本気で喰われたと思ったぞ」
とにかく槍を収納して、得意げに跳ね飛ぶアクアを捕まえておにぎりの刑に処した。
「お、ど、ろ、か、せ、た、罰、だぞ〜〜〜〜!」
思いっきりモミモミしてやり、最後はちょっと引き伸ばすみたいに引っ張ってからもう一度おにぎりにして丸めてやる。
「きゃあ〜〜ご主人がアクアを揉んで遊んでる〜〜〜〜!」
どう聞いても喜んでいるとしか聞こえないアクアの悲鳴に、俺は安堵のあまり泣きそうになりながらも大きく吹き出したのだった。