オーロラタートルの正体って?
「お、始まったかな?」
不意に前方が賑やかになり、従魔達の暴れる音が聞こえて来て俺は剣を握る手に力を込めた。
「来るぞ!」
ハスフェルの大声と共に、彼らが前に駆け出すのを見て俺もちょっと前に出る。
だけど一応、自分の定位置はキープだ。
迂闊に前に出て、大興奮状態の従魔達が大暴れするのに巻き込まれたら大変だもんな。
だけど、ドタバタと暴れる音は聞こえるんだけど、肝心のジェムモンスターの姿が全く見えない。
「ええ、どうなってるんだよ?」
何とかして様子を見ようとして伸び上がったその時、ハスフェルとギイの間をすり抜けるみたいにして足元の茂みから何かが滑るみたいにしてこっちへ向かってくるのが見えた。
ここは、よく見ないと分からないくらいだけど草地自体が全体に緩やかな坂になっていて、あの出現場所の大岩は、言って見れば坂の一番上に、そしてあの澱んだ池は坂の下側に広がっている構図になってる。
「なるほど。あんな風に草の上を滑って落ちればそのまま池まで一直線って訳か。それなら逆に俺は楽じゃんか。滑ってきたところを待ち構えてればいいんだからさ!」
そう呟いて滑ってくるそいつの線上に立って待ち構えた。
「よし来た!」
予想通りにこっちへ向かって一直線に滑ってくるそれを確認して身構えながらそう叫んだ直後、頭上から一気に急降下してきたプティラが、滑ってきた何かを掴んでそのまま上空へ舞い戻った。
「ええ横取りかよ〜〜!」
そのまま遥か上空から垂直に落とされた妙に丸いそれは、草地に突き刺さるみたいにして唐突に消えてしまった。
「しかもどんなジェムモンスターだったのか、殆ど見えなかったよ!」
苦笑いしてそう言ってもう少し前に出る。
その時、また少し先の草地からハスフェル達の足元をすり抜けてこっちに向かって滑ってくる何かを発見した。
「よし、今度こそ!」
今度は剣を振りかぶったまま早足でそいつに向かって行く。一応、俺が狩るんだって権利を頭上を旋回するプティラに分かり易く主張してみた。
どうやらプティラはタイミングよく別のところへ向かったみたいなので、俺は張り切って滑ってくる何かに向かって走って行った。
「ええ、ちょっ!」
しかし、草地から見えた予想外のそれに、俺は慌てて後ろに下がった。
草の上を滑るみたいにしてこっちへ向かって来たのは、何処から見ても超巨大なスッポンだったよ……。
しかもそいつは細かい牙が並んだ大きな口を開けて異様に長い首を伸ばして、俺に向かって噛み付いてきたのだ。
「ぎゃあ〜〜〜!」
スッポンはまずい。
あれに噛まれたら洒落にならないって。
慌てて後ろに飛んで下がった俺の目の前を、口を開けて威嚇しながら滑って行く超巨大スッポン。
「させるかよ〜〜!」
そのまま追いかけて、背後から剣を突き立てて地面に縫いとめる。
瞬時にジェムに変わったそれを見て、俺は大きなため息を吐いた。
「これは、こっちがいいな」
剣を収めて、ミスリルの槍を取り出す。
ジェムの隣に落ちているのは、巨大なやや楕円になった円盤状の甲羅だった。
「これが素材……ううん、これって鼈甲みたいだなあ。ってか鼈甲そのものじゃん」
そう呟いて拾ったそれは、蜂蜜みたいな綺麗な黄金色をしていて、時折濃い焦茶色のマーブル模様みたいなのが入っていて、向こう側が透けて見えるくらいに綺麗な透明度を誇っていた。
「超巨大スッポンから取れる素材が鼈甲って……」
苦笑いして、足元に跳ね飛んできたアクアに鼈甲もどきを渡す。
「まあ、深く考えちゃ駄目だよな。ここは異世界なんだからさ!」
笑ってそう叫んで槍を身構えた俺だったよ。
「ううん、しかし全然俺の所に来ないぞ」
しかし、残念と言うか予想通りと言うか、肝心のスッポンもどきが全くと言っていいほどこっちへ滑って来ない。
前方では嬉々として大暴れするマックスやニニをはじめとした従魔達やハスフェル達の姿が見えるから、まあ出現自体はしているんだろう。
しかもいつの間にかハスフェル達もかなり前に進み出て、従魔達に混じって嬉々として大暴れしている。
しかもよく見れば、ハスフェルとギイは槍を、オンハルトの爺さんは柄の長い斧を振り回しているから、まあ俺が槍を出したのは武器選びとしては正解だったみたいだ。
「だけど一匹だけって!」
立てた槍に寄っかかるみたいにしてそう呟いた俺は、苦笑いして大きなため息を吐いてまだまだ大暴れしているハスフェル達と従魔達を仕方なしにのんびりと眺めていたのだった。