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おやすみとおはようと少しの不安

「さて、じゃあシャムエル様も腹いっぱいになったみたいだから、俺はもう休ませてもらうよ」

 そう言って振り返ると、山盛りにあった焼き菓子盛り合わせもあっという間にシャムエル様に食い尽くされていて、空っぽになったお皿とグラスが、横向きに寝転がって俺達のベッドになってくれているマックスの首の辺りに重ねて乗せられていた。

 見ていると、するっと触手が伸びて来て空になったお皿とグラスを収納してくれた。

 マックスの頭に座ってご機嫌で尻尾のお手入れを始めているので、どうやらもうお腹は一杯になったみたいだ。

「もう腹は一杯になった?」

「うん、ご馳走様。いやあタマゴサンドもお菓子も最高だったよ」

 ご機嫌でそう答えて、またせっせと尻尾のお手入れを始めたシャムエル様を見て、小さく笑った俺は大きな欠伸をした。

「じゃあ俺は先に休ませてもらうよ。おやすみ」

「うん、おやすみ〜〜!」

 ご機嫌なシャムエル様の声を聞きながら、俺は定位置のマックスとニニの腹毛の隙間に潜り込んだ。

 ラパンとコニーのうさぎコンビが巨大化して俺の背中側に収まり、カッツェが隙間に潜り込んで来て俺の足にくっつく。

 フランマがタッチの差でタロンを追い越して俺の腕に潜り込む。今夜の抱き枕役はフランマになったみたいだ。

「では消しますね」

 ベリーの声と共に、テントの中についていたランタンの明かりが消える。

 いつもなら真っ暗になるんだけど、ここでは日が暮れないから外は明るいままだ。

「やっぱり変なところだよな。飛び地ってさ。ふああ、おやすみ」

 もう一度欠伸をした俺は、そう言ってもふもふのフランマを抱きしめて目を閉じた。

「お疲れ様、おやすみなさい」

 優しいベリーの声に返事をしようとしたんだけど、あっという間に眠りの海へ墜落していった俺には残念ながら答える事は出来なかったよ。

 ううん、いつもながらもふもふの癒し効果、すっげえ。





 ぺしぺしぺし……。

 ぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみ……。

 ふみふみふみ……。

 ふみふみふみ……。

 カリカリカリ……。

 つんつんつん……。

 チクチクチク……。

 しょりしょりしょり……。

 ふんふんふんふん!

 ふんふんふんふん!

 ふんふんふんふん!

「うん、起きるよ……起きるから……」



 翌朝……なのであろう時間にいつものモーニングコールチームに起こされた俺は、半ば無意識で返事をしてもふもふなフランマを抱きしめながらニニの腹毛に潜り込んだ。

「うう、寒い……」

 そう、なんだかこのところ野宿をする度にどんどん気温が下がってる気がする。

 ニニとマックスの隙間に挟まっている間は良いんだけど、そこから出ようとした時の温度差があまりに大きくて、思わず戻ってしまうんだよな。

 これはあれだ。真冬の朝に温まってるお布団から出たくないのと一緒だ。

「ううん、ここはあったか〜〜」

 そう呟いて大きな欠伸をしてもっと潜って行き、そのまま気持ち良く二度寝の海へ落っこちていった。




 ぺしぺしぺしぺし……。

 ぺしぺしぺしぺし……。

 ふみふみふみふみ……。

 ふみふみふみふみ……。

 ふみふみふみふみ……。

 カリカリカリカリ……。

 つんつんつんつん……。

 チクチクチクチク……。

 しょりしょりしょりしょり……。

 ふんふんふんふん!

 ふんふんふんふん!

 ふんふんふんふん!

「起きるって、起きるってば……」

 気持ちよく寝ている所を起こされた俺は、いつの間にか交代していたタロンを抱きしめて寝ぼけながら答えた。



「相変わらず起きないわねえ」

「そうみたいねえ」

「じゃあ、仕方がないから起こしてあげましょうか!」

 耳元で可愛い声が聞こえた直後、俺の耳たぶと右の上唇、それから額の生え際のところをちょびっとだけつねるみたいに噛まれる。

「痛い痛い痛いって〜〜〜!」

 大声を上げて飛び起きると、抱きしめていたタロンがものすごい勢いで俺を蹴っ飛ばして逃げていった。

「げふう!」

 胸の真ん中を思いっきり蹴られて、空気が抜ける。

「相変わらず、朝の扱いが酷過ぎると思うのは俺だけか?」

 笑いながら起き上がり、また寄って来たタロンを抱き上げてやる。

「俺を蹴り飛ばしたのは、どこの誰だ〜〜〜!」

 笑ってそう言いながら、普通の猫サイズのタロンの小さな顔をおにぎりにしてやる。

「だって〜〜耳元で〜〜〜急に〜〜大声を出されたら〜〜誰だって〜〜〜びっくりする〜〜〜〜」

 嬉しそうに喉を鳴らしながら、無抵抗で揉まれているタロン。

「ああ、本当になんて可愛いんだよ!」

 思わずそう叫んで、もう一度抱きしめて一緒に転がる。

「だから起きなさいって!」

 シャムエル様に額を叩かれて、苦笑いした俺はタロンを抱いたまま腹筋だけで起き上がる。

「分かったよ、起きるって」

 外は相変わらずの朝なのか昼なのかよく分からない薄明かり。

 なんとなくいつもよりも目覚めがすっきりしないのは多分このせいなんだろう。

「まあ、大丈夫らしいけどやっぱり変な感じだよな」

 大きく伸びをして起き上がった俺は、順番に従魔達を撫でたり揉んだりしてからサクラに綺麗にしてもらって身支度を整えた。



「おはよう。もう起きてるか?」

 笑ったハスフェルの声が聞こえて、俺は笑顔で振り返る。

「おう、おはよう。もう大丈夫か?」

「ああ、おかげでゆっくり休ませてもらったから完全回復だよ」

「あはは、そりゃあ良かった。じゃあ飯食ったらまた行くのか?」

 テントの垂れ幕を巻き上げて入って来た三人を見て、俺も垂れ幕を巻き上げるのを手伝った。

「そうだな。とりあえずは飯を食ってまたジェムと素材を回収しながら奥地へ行ってみるか。まあ念の為周囲を警戒しながらってところかな」

「じゃあ、皆さんはその予定で動いてください。私達は念の為にもう少し警戒範囲を広げて周囲を調べて来ます」

 ベリーの言葉にハスフェルが大きく頷く。

「では申し訳ないが、そっちは専門家にお任せするよ。もしも手がいる時はいつでも遠慮なく呼んでくれ」

「そうですね。ではその時は、よろしくお願いします」

 笑ったベリーはそう言って、フランマとカリディアと一緒にあっという間にいなくなってしまった。

「じゃあ、適当に出すから好きに食ってくれるか」

 ベリー達を見送り、作り置きを取り出しながら、俺は込み上げてくる訳の分からない不安をなんとか飲み込んでそう言って笑ったのだった。

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