一応もう安全??
『おお、かなり大変だったようですがそちらも無事に駆逐出来たようですね』
安全地帯へ向かってかなりの高度を団体で飛んでいると、ベリーからの念話が届いて俺達は顔を見合わせた。
『ご苦労さん。そっちはどんな感じだ?』
ちなみにハスフェルは、アンタレスの背中に跨ったままスライム達に身体を支えてもらって完全に熟睡中。
まあ、相当お疲れだったみたいだからそりゃああれだけ食ったら次は当然眠くなるよな。
って事で、ハスフェルは無反応だったので代表してギイが返事を返す。
『一応、一通り見て回って二箇所で小さな群れでしたが発見したので駆逐しておきました。ですが飛び地の外に出ていた形跡があるので、当分は警戒が必要ですね』
『そうだな。今俺達は安全地帯へ向かってる。そっちはどうする?』
『疲れているので一度合流します。じゃあそっちへ向かいますね』
トークルーム全開で話していたので、今の会話は俺達にもバッチリ聞こえている。
そこまででベリーの気配が消えて俺達は揃って小さくため息を吐いた。
「まあ、外に出た奴らもベリーが発見してくれたみたいだから、とりあえずは安心かな?」
俺の呟きに二人も苦笑いしつつ頷いている。
「ところで、さっきからシャムエル様が全然出て来ないんだけどどうなってるんだ?」
さっきの食事の時にも、結局出て来なかったし、今もマックスの頭の上にも俺の右肩にもいない。
大丈夫だとは思うが、何だか不意に心配になってきた。
「ああ、恐らくあの焼け野原を元に戻して色々と調整してるんだと思うぞ。土の中も全滅だろうから、恐らくウェルミスも呼び出されて来ているはずだ。ウェルミスも今ごろ大忙しだろうな」
ギイの言葉に、俺はあの強烈な見た目のイケボの巨大ミミズで大地の守り神であるウェルミスさんを思い出していた。
今は壊滅した各地のオレンジヒカリゴケの群生地を回復させるのに奔走してくれているはずだ。ミミズがどうやって地面の下を走るのかなんて知らないけどね。
「俺はもっと平和に異世界をのんびりと旅したいと思ってるだけなのに、どうしてこうも次から次へと事件が起こるかねえ」
大きなため息と共にそう呟くと、何故だかギイとオンハルトの爺さんから同時に笑われたよ。解せぬ!
「ご主人。一応、上空から見る限りさっきの場所以外で岩食いの痕跡は発見されませんでしたね。飛び地の中はもう大丈夫なんじゃあないでしょうか?」
そろそろ安全地帯が見えてきた頃、俺を乗せながら周囲をずっと警戒してくれていたファルコがそう言って甲高い声で鳴いた。
「そうなのか、そりゃあ良かった。ご苦労さんだったな」
手を伸ばしてもふもふの首元を撫でてやり、近づいてくる安全地帯の草原に目を落とした。
「じゃあ、到着したらテントを張ってとりあえず一休みだな。今日の俺は何もしてないけど、何だか疲れたよ」
苦笑いしてそう言い、ゆっくりと安全地帯に着地するのを見ていた。
絶賛熟睡中のハスフェルは、そのまま彼をホールドしていたレインボースライム達が確保して地面に下ろし、そのままスライムベッドに変身していた。
メタルスライム達が、ギイの指示であっという間にその周りにテントを張ってくれたので、もうハスフェルはそのままおやすみタイムになったよ。
まあゆっくり休んでくれ。目が覚めたらリクエストのステーキを好きなだけ焼いてやるよ。
「お疲れ様。今日は一日ありがとうな。お前達もゆっくり休んでくれよな」
いつもの大きさに戻ったファルコには、ハイランドチキンの胸肉を取り出して食べさせてやり、それ以外のお空部隊の子達には、希望を聞いてあの激うまリンゴをいくつか出しておいてやった。
「ええと、お前らは食事は?」
スライム達と草食チームは、テントを張るために作った空き地だけじゃなく、周囲の草をまだ大喜びで食べている真っ最中だ。
のんびり寛いでる肉食チームには手持ちの生肉を出してもいいかと思ったんだが、マックス達は揃って首を振った。
「大丈夫ですよ。ベリーが戻って来たら、順番にお弁当を頂きます」
「そっか、了解。じゃあそっちはベリーにお任せするよ」
笑ってマックスのむくむくな首元に抱きつく。
最近では、それぞれの従魔達の食事のお世話はほとんどしていない。
肉食チームは例の自分達で集めた獲物のお弁当を大量に持っているからって言って、時間のある時にベリーが作った異空間(?)でまとめて食べているみたいだし、時々猫族軍団が小さい姿でハイランドチキンの胸肉を食べたがる程度で、俺が面倒を見る必要はもう全くなくなってる。
有り難いと言えば有り難いんだけど、それはそれで何だか寂しいと思ってしまうのは飼い主のエゴなんだろうな。
「ご主人、テント張れたよ〜〜!」
あっという間にいつものテントを張ってくれたスライム達が、得意げにそう言って跳ね飛んでくる。
「おう、いつもありがとうな。ええと、それじゃあもう俺達も休むか」
帰って来ないシャムエル様がちょっと心配だけど、かなり疲れていることを自覚している俺は、そう言って大きく伸びをした。
「ああ、良いんじゃないか。まあシャムエルも終われば戻ってくるだろう。これはあいつの本来の仕事なんだから、しっかり頑張って貰えばいいさ。それじゃあおやすみ」
ギイが笑ってそう言い、手を挙げてテントの中へ入っていった。
「じゃあ俺も休ませてもらうよ。おやすみ」
オンハルトの爺さんも笑ってそう言い自分のテントに入っていってしまった。
「ああおやすみ。それじゃあ俺も休ませてもらうとするか」
巻き上げていたテントの垂れ幕を全部降ろしていつものスライムベッドを振り返る。
もうマックスとニニだけじゃなく、他の子達もそれぞれいつもの定位置で待機している。
「おう、じゃあ今夜もよろしくお願いしま〜す!」
いつものようにそう言って、マックスとニニの隙間に潜り込もうとした時、俺の鼻先に突然現れたシャムエル様が思いっきり俺の顔面に飛びついてきた。
「ぶわあ!」
予想外の攻撃に、くぐもった悲鳴を上げてそのままマックスの上に倒れ込む。
「お願いだからまだ寝ないで! 寝るなら何か出してからにして! もう倒れそうなくらいにお腹ペッコペコなの〜〜〜! お願いだから大仕事を終えて帰ってきた私を腹ペコのままで放置しないで〜〜〜〜!」
俺の顔面に張り付いたまま、もふもふ尻尾を振り回してそう叫んで俺の首元を叩くシャムエル様。
おお、何これ。
この顔面いっぱいに当たっている腹毛のもふもふっぷりは、俺史上最高かも……。