肉は正義再び!
「ええと、じゃあここで食べて……いいんだよな?」
ちょっと坂になっているので、ここでは机を出せない。
周囲を見渡して、坂の下の草原に降りて振り返った。
「ここでいいか? じゃあ作り置きを出すから、とにかく食えよ。安心したら俺も腹が減ってきたから、一緒に食わせてもらうよ」
誤魔化すように笑ってそう言い、サクラにまずはいつもの机と椅子を出してもらう。
「何が食いたい?」
「肉を頼む!」
即座に返ってきた返事に吹き出し、少し考えてバイゼンの屋台で買った大きなハムの塊を取り出してやる。それから、同じく屋台でまとめて買ったあの鶏の丸焼きも取り出してやった。それから、ホテルハンプール特製生ハムの原木も並べる。
それ以外にも、とりあえず直ぐに食べられる肉を思いつく限り取り出して並べてやった。
「まあこんなもんだな。じゃあ、いいから好きに食え」
ギイとオンハルトの爺さんに肩を貸してもらって、よろめきつつも自分の足で歩いて来たハスフェルは、机に並んだ肉料理の山を見てこれ以上ない笑顔になった。
「おう、これは美味そうだ。では遠慮なく!」
椅子に座らせてもらい、若干身体が斜めになるのをスライム達に支えてもらったハスフェルは、軽く手を合わせると猛然と食べ始めた。
それはもう、口に入れた肉が一瞬で溶けてるんじゃないかって疑いたくなるくらいのもの凄い勢いで、ハムの塊が瞬きする間に無くなり、オンハルトの爺さんがせっせと削ってくれる生ハムに至っては、お皿に乗ってる間が無いほどの見事な食いっぷりだった。
俺とギイは、苦笑いしつつもそんな彼がとにかく落ち着くまでは料理には手を出さず、俺は麦茶を、ギイは赤ワインを取り出してのんびりと乾杯していたのだった。
一応ここでは、俺はアルコールは飲まない事にしている。さすがに酔っ払っている時にはぐれのジェムモンスターに突っ込まれるのはごめんだからな。
ようやくちょっと空腹が落ち着いたらしいハスフェルの食う速度がいつもくらいになったところで、俺とギイとオンハルトの爺さんも食事に参加した。
ちなみに、取り出したハムは全部食い尽くされて二回追加を出したよ。それから、鳥の丸焼きに至っては、ハスフェルは今、二羽目を平らげている真っ最中だ。いくら何でも食う量がおかしいと思うぞ。
「あの鳥の丸焼きは旨そうなんだけど、俺は一羽は食えないよな、よし、半分にしよう」
大きめの包丁を取り出し、真ん中で豪快に丸ごと半分に切る。
「よし、これくらいなら食えるだろう。あとはサラダとおにぎりがあれば俺は充分だな」
大きめのお皿に鳥の丸焼き半身と、別のお皿にサラダとおにぎりを盛り合わせる。
「ええと、ああ、準備してくれたんだな。ありがとうな」
振り返ると、いつものように祭壇が準備されていてちょっと笑ったね。得意気に飛び跳ねるスライム達を撫でてやってから、俺の分を机に並べる。新しい麦茶も注いでから小さく深呼吸をして手を合わせた。
「モンスターが出て来て大変な事になるところだったんだけど、どうやら何とかなったみたいです。ハスフェルを守ってくれてありがとうございました。屋台で買った鳥の丸焼きです。半分だけどどうぞ」
手を合わせていつものように小さく呟いて目を閉じる。
いつもの収めの手が俺の頭を何度も撫でた後、ハスフェルのすぐ横に現れて彼の頭も何度も何度も撫でるのを見て笑顔になる。
「うん、無事で良かったな」
収めの手が料理を改めて撫でてから消えていくのを見送ってから、俺も自分の分を持って席についた。
まだ黙々と食べているハスフェルを見て小さく笑ってから俺も手を合わせ、早速鶏の足を持って身から外して豪快にかぶりついた。
「ううん、これは人気なのが分かるな。このジューシーな肉と、この照り焼き風のタレがかかって焦げた皮の美味さは格別だなあ」
足の身を早々に平らげた俺は、次に胸肉部分を手羽ごと大きくこそげ取り、ササミ部分も胸の軟骨部分から綺麗に取り外して食べ始める。
それを綺麗に平らげたら、あとはひたすら残りの肉をこそげ取っては口に入れるという、かなり行儀の悪い食べ方でおにぎりと一緒に美味しく頂いたよ。
気付けばお皿の上には、食べ終えた骨の残骸が散らかるかなり行儀の悪い状態になってた。まあ野外で食う時は、これくらい豪快なのが良いよってな。
「ううん、マジで美味かったけど、俺には半身くらいでちょうどよかったな。残りはまた今度いただこう」
ソースまみれになった手をスライム達に綺麗にしてもらい、まだ少しは食べ残しがある残りの骨の部分はそのままスライム達にあげて食べてもらった。
そりゃあ大喜びで平らげていたから、多分あいつらも美味しいのが分かるんだろう。
残ったサラダに生ハムを追加で切り、あとはのんびりと食べ終えたよ。
気づけば、あれだけ出してあった机の上の肉料理はあらかた駆逐されていて、残っているのはこれ以上ないくらいに綺麗に骨だけになった鳥の丸焼きのみ……。
「いやあ、食いも食ったりって感じだなあ。でもまあ、これで元気になってくれたんなら良かったよ」
「ああ、美味かったよ。じゃあ明日は熟成肉のステーキをリクエストしても良いかな」
「あはは、もう次の食事の話かよ」
後片付けをしながらそう言ってまた皆でひとしきり笑い合う。
「ところで、俺は時間の感覚が曖昧なんだけど、今のって何ご飯だったんだ? 夜? それとも朝飯?」
「外は深夜だな。もう夜明けが近い時間だから、何飯になるんだろうな? 遅い夕食か深夜の夜食か」
笑ったギイの言葉に俺も笑うしかない。
「さすがにこの量は夜食とは言わねえよな。じゃあ遅い夕食って事にしておくか。で、この後はどうするんだ? 深夜過ぎならもうこのままここで休むか? それとも一旦安全地帯へ戻るか?」
「悪いが一旦安全地帯まで戻ろう。外の確認をしてくれているベリー達の様子も聞きたいしな」
ハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんも真顔で頷く。
って事で、少し休憩した後に俺達はこの場を撤収して一旦安全地帯まで戻る事にした。
いつもならマックスに乗るんだけど、今回は念の為上空からもういないか確認しながら戻るんだと言われて、俺はまたファルコの背に乗せてもらったのだった。
ううん、もう大丈夫だと思っていたけど、彼らのこの念の入れようを見るに、あのモンスターって本当に危険なモンスターだったんだと改めて思い知らされ、駆逐出来て良かったなんて呑気に考えていたのだった。