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合流

「あれ、もしかして静かになったな」

 何度も轟いていた爆発音がしなくなり、俺はファルコの背から身を乗り出すみたいにして恐る恐る地上を覗き込んだ。

「うわあ、まだあちこち燃えまくってるぞ」

 遥か遠くに見える地上は、火の海と化していた。

 だけど、ギイとオンハルトの爺さんは、真顔で地上を見下ろしたきりで迎えに行こうとしない。

「なあ、まだなのか?」

 黙ったまま頷いたギイが、頭上を指差す。

「ん? 何があるんだ?」

 つられて見上げた目に飛び込んできたのは、巨大な火の玉がいくつも地上目掛けて降ってきているとんでもない光景だった。

「あれがメテオ……」

 見覚えのある光景に、空を見上げたまま思わず呟く。

「メテオを呼んだって事は、おそらくそろそろ終わりだと思うが、念の為もう少し離れるぞ」

 ギイの言葉に、鳥達が大きく羽ばたいてさらに距離を取る。

「うわあ、また落ちた!」

 多分、五十発はくだらないくらいに立て続けに、巨大な火の玉が地面目掛けて突き刺さるみたいに次々と落ちていく。その度に、空気までがビリビリともの凄い轟音を響かせていて、はるか上空にいる俺達のところにまで時に衝撃波が届くほどだった。




「もう終わったかな?」

 しばらくして唐突にメテオの嵐が止んだ。

 するとそれを見ていたギイが平然とそう呟き、ゆっくりと地上目指して降下を始めた。

 それを見て俺達も続く。



 見えてきた周囲一帯は怖いくらいに全てが燃え尽きていて、地面が真っ黒なコールタールで塗り尽くされたみたいになっている。

「それで、ハスフェルとシャムエル様は無事なんだろうな?」

 そう呟いて、地上にかなり近い位置で旋回しながら必死になって周囲を見回す。だけど逆にこの場で生きている方が不思議なくらいの見事なまでの燃え尽きっぷり。見渡す限りひたすら何も無い真っ黒な世界……。



『ああ降りてきたね。そのまままっすぐ地面に降りてくれるかなあ。捕まえてこっちに引っ張るからさ』



 唐突に、いっそ腹が立つくらいにいつも通りのシャムエル様の念話が届いて、俺は慌てて周囲をもっと見回した。

 だけど、どこにもあのちっこいリスもどきの姿は確認出来なかった。

「では降りますね」

 今のシャムエル様の声はファルコ達にも聞こえていたようで、旋回をやめてゆっくりと地上へむかっていった。

「なあ、あの地面ってこのまま降りても大丈夫か? まだ、めっちゃ高温になってるような気がするんだけどなあ」

 真っ黒な地面に近づくに連れて、もの凄い熱気が下から襲いかかってきて若干ビビりつつそう訴えてみる。

「ですがシャムエル様は降りろとおっしゃいましたよ」

 ファルコがそう言い、さらに慎重にゆっくりと地面に降り立った。



 その瞬間、いきなり目の前の景色が変わった。



「はああ〜〜? なんだよこれ!」

 叫んだ俺は間違っていないと思う。



 目の前には、騒ぎになる前と同じように、なだらかな地面から緑色の綺麗な草が生え風に靡いて美しい模様を描いている。

 近くには大きな森が点在していて、全く何処にもあの真っ黒な焼け焦げも、もちろん岩食いの姿も無い。

「これ、幻覚じゃなくて現実だよな……」

 恐る恐るファルコの背から滑り降りて地面に降り立ち、足元に生えている草に触ってみる。

「普通に感覚がある。って事は、以前やったのと同じで、どういうやり方かは分からないけど、あの燃え尽きた場所をここと入れ替えたって事だよな」

 考えても絶対答えは分からないので、諦めて疑問は全部まとめて明後日の方向にぶん投げておく事にする。

「それで、ハスフェルとシャムエル様は何処へ行ったんだよ」

 自分の時を思い出して不意に心配になって、周囲を見回していつものハスフェルの姿を探した。




「ああ、ハスフェル発見!」

「ハスフェル!」

 俺の叫びとギイの叫ぶ声が同時だった。

 少し離れた坂になった草地に、仰向けになって手足を投げ出すみたいにしてハスフェルが倒れているのが見えて、俺達は大急ぎでそっちへ向かって走った。当然従魔達も。



「ご主人〜〜!」

 一番に到着したのは、ハスフェルの従魔達だった。

 スライム達が一瞬で集まりスライムウォーターベッドになる。

 他の従魔達はハスフェルの周りに集まって必死になって彼を起こそうとしている。

「待てって! 怪我をしてるかもしれないだろう!」

 俺は、万能薬の入った小瓶と、それからあの延命水の入った水筒を一瞬で取り出した。

 当然、出してくれたのはサクラだけどね。

「おい、大丈夫か! しっかりしろって!」

 先に駆け寄ったギイが、倒れているハスフェルを抱き起す。

 おお、さすがは同じくらいのマッチョだね。あの巨体を軽々と抱き上げて起こせるんだ。

 遅れて駆けつけた俺は、若干場違いな感想を抱きつつ、彼に万能薬を飲ませようとした。



「いや、それはいい……水を、くれるか……」



 口を開かせようとしたら、何と驚いた事にハスフェルがそう言ってうっすらと目を開いた。

「おお、さすがは闘神の化身! 俺の時と違って意識があるんだ」

 一旦万能薬は収納しておき、ご希望の延命水をゆっくりと飲ませてやる。

 一口目は、これ以上ないくらいにゆっくりと飲み込み、二口目はごくりと音を立てて飲み込む。

 そこで一旦口を閉じたので水筒を離してやると、大きくため息を吐いた後にうめくみたいに大きな声を上げた。



「うああ〜〜〜水が美味い!」



 大声の叫びと同時に、ゆっくりと目を開いたハスフェルは、俺達三人を順番に見て、それからにんまりと笑った。



「この場の駆逐は、無事に成功かな? なあ、それより腹が減ってるんだけどなあ」



 いつもと変わらないその口調に俺達三人が安堵のため息を吐くのと、全員揃って吹き出した直後に笑い出したのは同時だった。

 いやあ、心配して損したよ。

 さすがは闘神の化身。あの程度は屁でもないってか?

 いやマジですっげえ。尊敬するよ!

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