爆発と避難
「は、始まったみたいだな……」
辺り中に響き渡る爆発音と衝撃波。
一旦避難するために急上昇したファルコが、大きく羽ばたいて体を水平に戻す。
「ここまで距離があって、それでもあれだけの衝撃が来るってどれだけ凄い爆発なんだよ」
今更ながらあの時の自分がどれだけの無茶をしたのか見せつけられた気がして、遠い目になる。
「うわあ、すっげえ事してたんだな。いくら頑丈とは言え、ただの人間でしかない俺の体でこんな事したら……そりゃあ死にかけるよ。ってか、よく生きてたなあ。俺」
あのブラウングラスホッパーの大発生と戦う為にシャムエル様に体を貸した時、どれくらい無茶をしたのかを今更ながら思い知らされて、生きている自分に密かに感心して笑うしかない。
「ああ、また大きな爆発音が聞こえたぞ」
見下ろす森はあたり一面火の海になっていて、時折ジェムモンスターらしき小さな影が、慌てて逃げている様子も見られた。
「森ごと燃やしているわけか」
また大きな炎が吹き上がるのを見て、小さく息を飲みながらそう呟く。
「ああ、なああの黒く見えたのが問題の岩食いか?」
燃え盛る炎が揺らいだ時、そこから真っ黒な影のようなものが見えて、もっと見ようとファルコの背から身を乗り出して地上を見下ろす。
「うわあ、増えた!」
その真っ黒な影は、まるで爆発するみたいに一斉に膨れ上がって弾け、幾つもの塊になって四方八方に飛んで逃げるのが見えた。
「いかん、あれを逃すとまた大発生するぞ!」
ギイがそう叫んでいきなり急降下していく。
「ええ、無茶するなよって!」
慌てて叫んだが、止まるわけもない。
「ハスフェル!上だ!」
ギイの轟くような大声の後、燃え上がる森の頭上に白い霧のようなものが突然発生した。
「おうさ!」
同じくハスフェルの応える声が聞こえた直後、急降下していたギイがこれまたものすごい速さで急上昇してきた。
「もっと上がれ! ここは危険だぞ!」
これも衝撃波が来るんじゃないかと心配になるくらいの大声で怒鳴ったギイの乗ったルリコンゴウのカストルは、俺達の横を通り過ぎてさらに上昇する。
それを聞いたファルコとオンハルトを乗せたスミレコンゴウのポルックスも、カストルの後を追ってものすごい勢いで急上昇して行く。
「一体何をそんなに血相変えて逃げるってんだ?」
一人全く状況がわかっていない俺は、のんびりとそう呟いて振り返って下を見下ろした。
その時、今までとは文字通り桁違いの巨大な爆発が起こり、一瞬重力を感じなくなる。
「まずい! 閉じろ!」
焦ったギイの叫ぶ声と同時に、突然爆発音が途切れた。
「あっぶねえ。全くあいつらは……頭の上にいる俺達の事なんて完全に忘れてるだろう」
呆れたようなギイの言葉に、俺は戸惑いつつも周りを見回す。
「なあ、鳥達が羽ばたいていないのに空中に浮いてるみたいに見えるんだけど、俺の気のせいじゃあないよな?」
俺達を乗せた鳥達は、全員が大きく翼を広げた状態ではあるが羽ばたいている様子は一切無いし、そもそも周囲は異常なくらいの全くの無風状態。
普通は、これでは鳥が空中に静止してられるハズがない。
「ああ、ちょっと本気で身の危険を感じたんでな。俺だけが使える、空間を閉じる特別な術を使って避難させて貰ったんだ。ここは安全だよ。悪いがもうしばらく待ってくれるか」
「へえ、なんだか知らないけどすごそうな術だな。空間を閉じるって……うわあ、それってつまり結界魔法の事だよな。うわあ、ギイのやつそんなすごいのが使えるんだ」
密かに感心しつつ、先程よりもはるかに遠くなった地上を見下ろす。
「ううん、ここからだと森が燃えてるのは分かるけど、それ以上の様子は見えないなあ。本当に大丈夫なんだよな?」
「安心していろ。じきに終わる」
ギイがそう言って、同じように地面を見下ろしながら軽く指を鳴らした。
「ああ、また霧みたいなのが出た!」
どうやらギイが何かしているみたいで、燃え上がる森の上空に、さっきと同じように白い霧状のものが突然出現して広がっていく。するとまた大きな爆発音が響き渡った。
それはもう、火事なんてレベルの炎じゃあない。あれは火山の噴火レベル。
モクモクと立ち上る炎と煙。成る程、森の真上から離れた意味がよく分かったよ。あれはヤバい。本気で命の危険を感じるレベルだ。
「そっか、あれってもしかしてもしかして……水蒸気爆発か」
森を見下ろしながら、さっきの異常な威力の爆発を考えてある現象を思い出す。
おそらく森の上空を覆っていたあの白い霧の正体は、文字通りギイが何らかの術で起こした水分を大量に含んだ霧なのだろう。それにハスフェルとシャムエル様が放った高温の炎が接触して水蒸気爆発を起こしたのだろう。
確かにあれだけの威力なら、岩食いだって吹き飛ばされて燃え尽きそうだ。
その後も何度もギイは指を鳴らし続け、そのたびに地上では巨大な爆発が起こって白い煙が俺達がいる場所よりもさらに上まで立ち上っていった。
俺は何も出来ず、ひたすらファルコにしがみついて息を潜めて地上の爆発を見つめていたのだった。
ああ、何も出来ない自分が情けない。
だけど神様の戦いに所詮は人間でしかない俺が何か出来るわけも無い。
どうか。ハスフェルもシャムエル様も、お願いだから無事でいてくれ!
心の中で手を合わせて必死になって祈りつつ、俺はファルコの背の上で息を潜めて大人しくしていたのだった。