捜索と発見そして……。
「それにしても見つからないなあ」
小さく呟きながら、俺も一生懸命地面を見下ろして黒い影を探している。
時折、地面に動くものを発見して慌てて確認するんだけど、今のところ全てジェムモンスターだ。
「ふむ、ここまで探して見つからないとなると、冗談抜きで本当に外へ出た後の可能性もあるな」
ハスフェルの心配そうな呟きを聞いて、だんだん不安になってくる。
「もしも、なあもしも外に出た後だったりしたら……どうするんだ?」
「最悪でもどこかで暴れてくれれば俺とギイ、それからシャムエルには分かる。そうなれば追いかけて人のいない場所に追い込んで燃やすだけだよ」
「そう簡単に行くかなあ……」
「上手くいくように祈っててくれ」
笑ったハスフェルにそう言われて、素直に頷きかけて慌てて振り返る。
「待て待て、だからお前らが神様だろうが。神様が誰に祈るってんだよ」
「さあてなあ、祈るとしたら、やっぱりこいつに……じゃあないのか?」
「いや、だからそこでどうして疑問形なんだよって」
俺のツッコミに、ハスフェルが笑う。
「まあ、それくらいの軽い気持ちでいろ、はっきり言ってどうなるかは俺にも分からん」
投げやりなハスフェルの言葉に、マックスの頭の上に座っているシャムエル様も苦笑いしながら頷いている。
ううん、どうにも不安だ。
そんな感じで、グダグダと愚痴まがいの会話をしながらも目は下に向けられている。
かなりの時間が経った頃、いきなりファルコが甲高い声で鳴いた。
「見つけましたよご主人!」
そう言って、ずっと上空をゆっくりと旋回していた飛び方から、一気に翼を軽く畳んだ急降下に移る。
「どひぇ〜〜〜〜〜〜〜!」
油断していた俺は、突然の無重力状態に情けない悲鳴をあげ上半身が完全に後ろに倒れる。
「待って待って待って! 怖いって!」
俺の目の前は斜めになった地平線と、太陽のないのっぺりとした空だけ。
「ふお〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
ものすごい勢いでの急降下の後は、今度は突然の急上昇からの水平飛行。
おかげでなんとか上半身は腹筋の力で起こす事が出来たが、代わりに俺の心臓がもうこれ以上ないくらいにバックンバックンいってるよ。
びっくりしすぎて心臓麻痺でも起こしたらどうしてくれるんだよ。いやまあ、油断していた俺が悪いんだけどね。
「こっちに気がついて、攻撃しようとしていますね。迂闊に近寄ると飛んできますよ。どうしますか?」
さっきよりも高い位置で旋回しながら、ファルコが困ったようにそう言って首をこっちに向ける。
「もしかして今のって、攻撃されたのか?」
俺は完全に目を回して見ていなかったけど、せっかく急降下して攻撃しようとしたのに、突然また急上昇したって事は、多分そういう事なんだろう。
「奴らは、苔食いと違って威嚇だけでなく実際に攻撃してくるからな」
嫌そうなハスフェルの言葉に俺も頷く。
「おおい、見つかったんだって?」
その時、少し離れた場所を捜索していたギイとオンハルトの爺さんがそれぞれの従魔に乗って飛んで戻って来た。
「じゃあ悪いが、こいつを連れて少し離れててくれ。しばらく念話も使えなくなるが、気にしないでくれ」
ハスフェルが笑ってそう言い、いきなり立ち上がった。
彼の足元をホールドしていたスライム達が、困ったようにプルプルと震えた後に下がって他の子達にくっついた。
「行くぞ」
ハスフェルは、彼の従魔のベニコンゴウインコのアンタレスの背に立ち上がったまま、こっちに向かって右手を差し出す。
「じゃあ行ってくるね。帰ったらご飯よろしく!」
マックスの頭の上にいたシャムエル様が、ちょっとそこまでお出掛けしてくるって感じの軽い口調でそういうと、一瞬で消えてハスフェルの手の中に現れた。
「じゃあ行こう」
突然あの、神様バージョンの声で一言だけそう言ったシャムエル様は、ハスフェルが握りしめた手の中に、吸い込まれるみたいにして消えてしまった。
次の瞬間、何とハスフェルはアンタレスの背中から軽々と飛び降りたのだ。
「ご主人! 無茶です!」
「おい無茶するなって! どれだけ高いと思ってるんだ」
悲鳴のようなアンタレスの叫びと、俺の叫びが重なる。
しかし、ギイとオンハルトの爺さんは当然のようにハスフェルを見送ったきり黙っている。
そして落ちていくハスフェルの後を即座に追おうとしたアンタレスの前に、ギイが乗ったルリコンゴウのカストルが羽ばたいて回り込んで進路と視界を塞ぐ。
「やめてください! ご主人が!」
完全にパニックになっているアンタレスの周りに不意に風が渦巻いて一瞬バランスを崩す。
咄嗟に本能で大きく羽ばたいて上昇するアンタレスを見て、ギイが口を開いた。
「心配いらない。今のあいつはシャムエルと同化して完全に神体に戻っている。この程度落ちたくらいでは、かすり傷一つ負わんよ」
「ほ、本当ですか?」
心の焦りがそのまま羽ばたきに出ているかのように、不自然にバタバタと羽ばたきながら、ギイのすぐ側へ行く。
「ああ、あいつを信じて待っていてやってくれ。事が終われば、迎えに行ってやらないといけないからな。それは彼の従魔であるお前の役目だろう?」
優しいギイの言葉に、ようやく安心したのかゆっくりと羽ばたいたアンタレスは軽く上昇した後にまた旋回し始めた。
「それでどうなったんだよ……」
かなりの距離を落ちたであろうハスフェルが心配で下を覗き込んだ時、まるで地響きのような爆発音と、それから少し遅れてやってきた衝撃波に俺達は揃って吹き飛ばされそうになって、慌ててその場から離脱したのだった。
「は、始まったみたいだな……」
ファルコの羽を掴んでいる指先が小さく震えているのに気付き、俺は何度も深呼吸をして、必死になって落ち着こうとしていたのだった。