空からの捜索
「終わったよ〜〜〜!」
「全部綺麗になりました〜〜!」
「美味しかったで〜〜〜す!」
辺り一面を真っ黒にしていた例の粉末は、スライム達が綺麗さっぱり平らげてくれた。
シャムエル様が言っていた通り、どうやらマナが多く含まれていたあの黒い砂は、スライム達にとってはちょっとした臨時のご馳走だったらしい。
どの子も、先を争うようにして食いまくってたもんな。
「美味しかったのか。良かったなあ」
跳ね飛んできて、ご機嫌で報告してくれるスライム達を順番におにぎりの刑にしてやり、俺は一つため息を吐いて周囲を見回した。
所々森の木が倒れかけているところはあるが、もう周囲は普通の光景に戻っている。
「なあ、気にしないなら、もうこのままここで食うか?」
「お前がいいなら俺達は平気だぞ」
振り返ったハスフェルにそう言われて、そうだろうと思っていた俺は足元のサクラをそっと抱き上げた。
「じゃあ、作り置きを色々出してやってくれるか。あ、肉料理多めでな」
何が起こるか分からないんだから、とにかくしっかり食っておいてもらわないとな。主に俺の安全のために。
って事で机と椅子だけを出して、そこにガッツリ屋台飯を色々出してもらう。
「おお、美味そうだな」
集まって来た三人が、それを見て嬉しそうな顔になる。
そうだよな。とりあえず、いつでも笑える余裕程度は残しておかないとな。
「それで、具体的にはどうやって探すんだ?」
三人にお皿を渡しながらそう尋ねる。
「幸いな事に、俺達には翼を持った従魔達がいる。手分けして空から探してあの黒い塊を見つけるのが一番手っ取り早いな」
「この緑の多い景色の中では、あの異質な真っ黒な塊は目立つだろうからな」
ハスフェルとギイが、お皿を受け取りながら教えてくれる。
「ああ、確かに。それじゃあ頼んでもいいか?」
振り返って、離れた木々に散らばって留まっている鳥達に声をかける。
「そうですね。確かに見通しの悪い地上を闇雲に走り回って探すよりは、その方が見つけられる確率は高いと思いますね。空の移動は我らにお任せください。でもご主人は、その前にまずはしっかり食べてくださいね」
代表でファルコがこっちへ羽ばたいて戻って来てくれ、俺の肩に留まって頷きながらそう答えてくれる。
「おう、よろしくな。それならとっとと食って出発しようぜ」
そのまま肩に留まっているファルコをそっと撫でてやってから、俺はおにぎりと串焼き肉を取りながら、何でもない事の様にそう言って笑った。
多分、上手く笑えていたと思う。
「よし、それじゃあ出発するか」
しっかり食べて少し休憩した俺達は、巨大化したお空部隊に手分けして全員が乗り、問題の岩食い探しに出発した。
俺はマックスやニニ達と一緒にファルコの背に、他の子達もそれぞれの鳥達がしっかりと背中に乗せてくれている。一応安全の為にスライム達が手分けして全員をホールドしてくれているから安心だ。
「ところで、さっきからベリーとフランマの姿が見えないんだけど……」
上空に上がったところで、周囲を見回しながらそう尋ねる。
「ああ、彼らは手分けして飛び地の外を確認してくれているよ。万一外に出ていたら大変だからな」
「ああ、そっか。確かにそうだよな。真っ直ぐ外へ出て行ってしまってる可能性もあるのか」
周囲を見下ろしつつ、湧き上がる不安に小さく唾を飲み込む俺だった。
しかし出発してからかなりの時間が過ぎ、もう相当な距離を飛んでくれていると思うんだけど、問題の黒い岩食いの姿は全く見つからないでいた。
途中からはハスフェルは俺と一緒に、ギイとオンハルトの爺さんはそれぞれの従魔達と一緒に別行動をして、また別の離れた場所を飛んで探したんだけどそれでも全く見つからない。
気ばかりが焦って、刻々と時間だけが過ぎていった。
『なあなあ、ちょっと聞いてもいいか?』
何となくじっとしているだけで間が持たなくて、ハスフェルに念話で話しかける。
『おう、どうかしたか?』
一応普通に返事が返って来たのに内心で安堵しつつ、俺はまた地上に目を落とした。
『問題の岩食いが見つかれば、具体的にはどうやって倒すんだ? 確か、苔食いの弱点は火だと聞いた覚えがあるけど、岩食いもそうなのか?』
『そうだな。火は確実に効く。この飛び地の中で見つけられたら、以前お前がやったみたいに俺がシャムエルに体を貸して、俺とシャムエルで退治するよ。その時は危険だから、お前はギイやオンハルトと一緒にいて彼らの指示に従ってくれ』
『それってもしかして……炎の剣でバッサリやったり、メテオを降らしたりする、あれ?』
苦笑いして頷くハスフェルを遠目に確認して、顔を覆って悲鳴を上げた。
あれで死にかけた俺としては、この反応は……正しいよな?