夕食と翌朝の色々
「ふおお〜〜ツミレ美味しい〜〜〜!キノコも美味しい〜〜! でも熱っ! でも美味っ!」
ツミレを齧りながら興奮のあまりいつもの倍サイズになったシャムエル様のもふもふ尻尾をこっそり突っつきつつ、俺もお椀に取り分けた鶏肉とツミレ鍋をのんびりと堪能していた。
「うん、自分で作って言うのも何だが確かに美味い。このキノコはどれも味が濃厚で、こんな風に野菜やお肉と一緒に煮込むとすごくいい味になるんだなあ。お出汁も多めに作ってあるから、これなら締めの雑炊も絶対美味しいのが出来るぞ。たっぷり作って余ったら俺が食べる分に置いておこう」
満足気にそう呟いて取り分けていた鍋から自分のお代わりを入れる頃には、何故かもうコンロに置かれた寸胴鍋の中身はほぼ空っぽになっていたよ。
俺がまだ食べているのを見たギイが、せっせとツミレをスプーンですくってお鍋に落としてくれたので、二回目以降は俺は手伝わなくて済んだおかげでゆっくり食べられたよ。そうそう、自分で出来る事はしてくれるとありがたいよな。
生姜風味のツミレ鍋はハスフェル達にも好評だったようで、毎回あっという間に鍋が空っぽになり、結局四回ハイランドチキンの胸肉とツミレを追加で入れて炊き直したよ。
当然、野菜とキノコやお豆腐などの具材もその都度追加を投入。その結果、絶対余るだろうと予想して大量に作ったツミレも、駆逐されてほとんど残らなかった。
お前ら本当に食う量がおかしい。十代の運動部の男子でもそんなに食わないと思うぞ。
「いやあ美味しかったねえ。締めの雑炊も最高だったよ」
俺がお代わりするたびに同じくらいかそれ以上の量をガッツリ食ってたシャムエル様が、机の上に座り込んでご機嫌でそう言いながら尻尾のお手入れを始めた。
「あれだけの量を食っといて、体型が変わらないって逆に怖いぞ。食った肉や野菜はどこにいったんだって」
ちょっとお腹が膨れている気もするが、その程度だ。
どう考えてもあの小さな体の中に入った食事が行方不明になってると思う。
「それは、企業秘密で〜す!」
笑ってそう言いくるりと回ってポーズを決めたシャムエル様は、また座って今度は顔のお手入れを始めた。
「相変わらずフリーダムだねえ」
俺も笑ってふわふわの後頭部をこっそり撫でてから、食べ終わった食器や鍋をスライム達に手伝ってもらって手早く片付けたのだった。
「さて、それじゃあもう休むか。明日はまだ奥へ行くんだろう?」
机と椅子も全部片付けて綺麗になったところで、四人分のスライム達が全員集まっていつもの巨大スライムベッドを作ってくれる。
「ご主人の添い寝役は今夜は私達が担当しま〜す!」
そう言って来てくれたのは、巨大化したタロンとラパンとコニーのウサギコンビだ。それ以外の子達は全員巨大化して、スライムウォーターベッドを取り囲むみたいに円陣を組んでくれている。これならどこからジェムモンスターが突っ込んで来ても、守りは完璧だよ。
「それじゃあ、悪いけど見張りはよろしく頼むよ」
俺のすぐ近くにいたマックスが顔をこっちに向けて元気な声で一声吠える。
「おお、久しぶりに聞いたな。お前の犬っぽい鳴き声。それじゃあおやすみ」
笑って手を振り、巨大化したタロンの腹に潜り込む。
「ううん、ニニのようなもふもふじゃ無いけど、これはこれで良きかな」
俺の背中側と足元に、それぞれ巨大化したラパンとコニーがピッタリとくっついてくれる。
「おお、シンプルもふもふパラダイスだよ」
いつもと違うもふもふに埋もれて、それでも俺は気持ちよく眠りの国へ旅立っていったのだった。
さて、明日はどんなジェムモンスターが出るんだろうねえ……イモムシ以外でお願いするよ……。
ぺしぺしぺし……。
カリカリカリ……。
こしょこしょこしょ……。
「うん、起きるよ……」
いつもよりもかなり少ないモーニングコールに起こされた俺は。眠い目を擦りながら起き上がって大きく伸びをした。
「ううん、防具をつけたままで眠ったから体がちょっと強張ってるなあ」
そう呟きながら大きく肩を回し、座ったまま腰を捻って体全体をストレッチしていく。
「よし、これでいい。ベッド役ありがとうな」
巨大化したままのタロンに抱きついて、いつもと違うもふもふを堪能してからラパンとコニーも同じく抱きしめてやる。
「小さいのをおにぎりにするのも気持ちいいけど、巨大化したラパンとコニーのもふもふも最高だな」
覆い被さるみたいにして抱きつき、全身でもふもふを堪能する。
「はあ、幸せ……」
もふもふの中でゆっくり深呼吸をして、そのまままた眠りの国へ旅立ちかけて慌てて起き上がる。
「危ない危ない。うっかり二度寝するところだったよ」
周りでは、もう起きているハスフェル達が身支度を整え始めている。
「じゃあ、もう起きるぞ!」
そう宣言してスライムベッドから飛び降りて改めて屈伸運動をしたよ。
「おはよう、まずは朝飯だな」
飛び地の中では日が暮れる事が無いから、どうにも時間の感覚が曖昧になりがちだ。
俺にも体内時計は有るらしいんだけど、あまり実感がない。なので時間の管理は、ハスフェル達にお任せしている。
机と椅子を並べて、作り置きのサンドイッチと屋台飯で手早く食事を終え、少し休憩してからさっさと撤収して更に奥地へと向かう事にした。
「それで次は何処へ行くんだ?」
マックスの背に揺られながら、隣を走るハスフェルに少し大きな声で尋ねる。
言ってから、念話で聞けばよかったと思ったけど、まあいいよな。
「この奥に、昨日のジェムモンスターの亜種が出るんだ。こいつの素材が薄緑色の綺麗な糸でな。これも王都で大人気なんだよ。商人ギルドのヴァイトンから、飛び地へ行くなら出来るだけ集めて来てくれって頼まれてるんだ」
「分かった、じゃあ俺は今日も料理をすることにするよ!」
即座に断言したら三人からブーイングをもらったけど、全員笑いながらだったからそのまま俺の脱落がその場で決定したのだった。
だって、モニョモニョ系は俺には絶対無理なんだってば!