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目覚めと夕食

 ぺしぺしぺしぺし……。



 額を何度も叩かれて、俺は呻き声を上げながら目を開いた。

 目に入ってきたのはのっぺりした太陽の無い空。そして揃って俺を覗き込んでいるハスフェル達とシャムエル様、そしてその背後には従魔達の姿だった。

「ええと、俺って……?」

 何故、今の状態になっているのかが記憶に無くて首を傾げていると、いきなりハスフェル達の隙間からマックスが頭を突っ込んで来た。

「申し訳ありません。申し訳ありません!まさかご主人があそこまでイモムシが苦手だったなんて!」

 耳をぺちゃんこにして、申し訳なさそうに鼻で鳴きながらそんなことを言う。

「ああ、思い出した!」

 腹筋だけで起き上がった俺は、両手を広げてマックスの頬を両手で引っ掴んだ。

「俺が〜やめてくれって〜言ったのに〜〜調子に乗って〜〜飛び込んで〜〜いったのは〜〜どこの〜〜だ〜れ〜だ〜〜〜〜!」

 笑いながら、文句に合わせて頬を左右に引っ張って伸ばしてやる。

「おお、伸びる伸びる。ニニほどじゃあないけど、マックスのここは案外良く伸びるんだよなあ」

 全くの無抵抗で頰肉を引っ張られていたマックスが、目を細めて笑ったみたいな顔になる。

 俺の一番好きなマックスの顔だ。

「ああ、もう。お前は本当になんて可愛いんだ!」

 笑ってそう叫び、力一杯大きな頭を抱きしめてやる。

 甘えるみたいに鼻で鳴いたマックスが、力一杯俺の体に頭を擦り付けて来る。

「だあ〜! 待て待て、ステイだステイ!」

 押し倒されて、またスライムベッドに逆戻りした俺がそう叫ぶと、我に返ったマックスが、慌てたように顔を上げておすわりをした。

「全くお前は、大きくなってる今の自分の大きさを考えろって!」

 今度はゆっくりと起き上がって周囲を見渡す。

 どうやらさっきの茂みがあった場所とは別の場所に来ているみたいだ。

「ええと、今ってどう言う状況なんだ?」

「とりあえずあの場は撤収して野営予定の場所に移動して来たのさ。で、お前が目を覚ますのを待ってたわけだ」

 笑ったハスフェルの言葉にギイとオンハルトの爺さんが揃って頷く。

「ああ、そっか。夕食がまだだったんだよな」

「そうだぞ。あれだけ良い匂いだけ嗅がせておいて、ものがないとはどう言う事だよ」

「あはは、悪い悪い。ええと、どうする? もうここで食べるのか?」

「おう、じゃあ頼むよ。皆、腹ペコなんだ」

 ギイの言葉に小さく吹き出してもう一度謝っておいた。



「じゃあ、先に食っちまおう。それで寝る時は、ええと、テントは張るのか?」

「いや、万一何か来た時にテントの方が危険だからな。飛び地の中ではテントは張らない方が安全だよ」

「じゃあ、机と椅子だな。それとさっき作った鍋と残りの材料を出してくれるか」

「はあい、順番に出すね」

 一瞬でスライムベッドが分解されてあちこちに転がり、サクラは跳ね飛んで俺のすぐ側に来るとまずは机と椅子を順番に取り出した。

 集まってきたスライム達が、手分けしていつものようにセッティングしてくれる。

「おう、完璧だよ。ありがとうな」

 コンロの上に鍋を乗せて小さめの火をつける。

「はい、どうぞ。鶏肉とツミレの入った鍋だよ。出汁に味がついているからそのままで大丈夫だぞ」

「おお、これは美味そうだ。ではいただくとしよう」

 そう言って立ち上がったハスフェル達の手には、アウトドア用の携帯式の小鍋……というよりは大鍋サイズの鍋が取り出されている。

 それを見て慌てて俺も自分の分を取り出して、鶏肉とツミレ争奪戦に参加したのだった。



 いやあ、あいつら本当に食う量がおかしい。

 最初の鶏肉とつみれは初回の争奪戦でほぼ駆逐されてしまったため、皆が食べている間に次の鶏肉とツミレを投入してから席についた。

 もちろん、今回は俺の小鍋にもツミレや鶏肉は多めに確保されている。だって、シャムエル様がどれくらい食うつもりなのか、ちょっと予想がつかなかったもんだからな。

「ええと、もうちょっとだけ待ってくれよな」

 大きなお椀を手に、すでにステップを踏み始めているシャムエル様にそう言い、急いでいつもの簡易祭壇に俺の分の鍋と麦茶を並べる。

「ハイランドチキンの胸肉と、グラスランドチキンの胸肉で作ったツミレだよ。野菜とキノコも色々入ってます。少しですがどうぞ」

 いつものように手を合わせてそう呟く。

 収めの手が俺の頭を何度も優しく撫でてから、小鍋の中をそっと撫でてから小鍋自体も持ち上げる仕草をしてから麦茶を撫でて消えていった。

「気に入ってくれたみたいだな」

 小さく笑って小鍋を手にして席へ戻る。



「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」

 いつもの味見ダンスシンクロバージョンだ。

 それにしてもカリディアのダンスが本当にすごい。シャムエル様の適当踊りに全くタイムラグなしでずっと一緒に踊ってるんだからさ。

 って事で、カリディアにはご褒美に例の飛び地産の激うまブドウを一粒だけ出しておいてやる。

 なんでもこのブドウ一粒の中に含まれるマナの量はとんでもない量になっているらしく、繊細なカリディアは、あまり食べすぎると酔っ払ったみたいになってしまうらしい。

 実は以前、初めてこれを食べた時、夢中になって食べすぎたおかげで、寝ている時に具合が悪くなって大変だったらしい。

「ええ、そんなのいつの事だよ!」

 全然気が付かなかった俺が慌ててそう尋ねると、ドヤ顔のシャムエル様がお椀を差し出しながら胸を張った。

「その時は、私が気付いてすぐに処置したからね。もう原因分かったから心配はいらないよ」

「ああ、そうなんだ。ありがとうな。それでどれくらいいるんだ?」

 押し付けるみたいにして渡されたお椀を手にそう尋ねる。

「もちろん、山盛りでお願いします! あのツミレはめっちゃ美味しかったからね!」

「了解、ちょっと待ってくれよな」

 苦笑いした俺は、小さくため息を吐いてから、まずはシャムエル様の分を小鍋からお椀に取り分けていったのだった。

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