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俺は戦わないからな!

「もうこっちを向いても大丈夫だぞ」

 笑ったハスフェルの呼びかけに、俺は恐る恐る後ろを振り返った。

 見えた光景はそりゃあ物凄かったよ。何しろ茂みの手前の草地には、もう足の踏み場もないくらいのジェムと糸の束がゴロゴロ転がっていたのだ。

 時折違う輝きを放っているのは、少しパールカラーになった色付きのジェムみたいだ。

「おお、ここは色付きジェムまで落ちるんだ。またクーヘンの店に委託する品物が増えたな」

 小さくそう呟いて、俺に向かって触手を振り回すスライム達に手を振り返した。



「へえ、これは確かに綺麗だ。まんま絹糸だな」

 俺はそう呟いて、すぐ近くに落ちていた糸の束を拾って改めて見てみる。素材の糸は真っ白で、まるで真珠のような綺麗な光沢を放っている。

「しかしどれだけ集めたんだよ」

 スライム達総出で回収しているのを眺めながら、俺は呆れたようにそう呟いて足元にやってきたアクアに糸の束を渡した。



「おおい、夕食準備出来てるけど、どうする? 出来ればここでは食べたくないんだけどなあ」

「わかったわかった。じゃあかなり集まったし、一旦撤収して安全地帯まで戻って一晩休むか、それともこのまま進んで奥で従魔達に頼んで守ってもらって休むか。どう思う?」

 ハスフェルの言葉に、ギイとオンハルトの爺さんが揃って考え込む。

「この後は、奥にある高台へ行く予定だったんだけどなあ」

「まあ確かに、ここから一旦安全地帯まで戻っていたら、明日は移動するだけで午前中潰れるんじゃないか?」

 ギイの呟きに、ハスフェルも考え込んで腕を組んでいる。

 ここは相当広いみたいで、ジェムモンスターの出現箇所も、俺の知る以前の飛び地よりは少ないみたいだ。

 だから効率良く移動しないと、無駄な移動に時間を取られる事になるみたいだ。

「では、休む時は見張りを頼んでも良いか?」

 ハスフェルが、シリウスに顔を寄せてそう話しかける。

 俺もマックスを見ると、マックスは俺が何も言わないうちからご機嫌で一声吠えて起き上がった。

「もちろんお守りしますから任せてください!」

 尻尾扇風機状態のマックスの言葉に続き、猫族軍団や草食チームも自己主張するみたいに飛び跳ねたり声のない鳴き真似をしたりし始めた。

「あはは、皆ありがとうな。なあ、それじゃあ今夜テントを張れる場所まで移動しようぜ。それで夜は従魔達にまた守ってもらって休めば良いじゃないか」

「そうだな。それが一番安全で早そうだ」

 笑ったハスフェルの言葉でこの後の予定が決定した。




 って事で、のんびりと話をしている間にすっかり綺麗になった茂みと草地には、気がつくと白くて細長いのがまたあちこちに出現し始めていた。

「うわあまずい! これ以上ここにいるの禁止! さあ早く行こうぜ!」

 悲鳴を上げた俺は、大慌てで取り出した手綱と鞍を多分今までの最速記録でマックスに装着して即座に飛び乗った。

「なあ、行くぞって! おい! 何してるんだよ。もう今日の狩りはおしまいだってば!」

 しかし、俺の叫びも虚しく、目に飛び込んできた真っ白で巨大なお蚕様に、ニニ達猫族軍団が一斉に巨大化して嬉々として飛びかかる。

「行きますよ、ご主人!」

 そして俺を背中に乗せたままのマックスまでが当然のようにそう叫んで、茂みへ向かって飛び込んでいった。

「だあ〜〜! せめて俺を下ろしてからにしてくれ〜〜〜! うああ〜! こっち来るな〜〜! ぎゃあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

 俺はもう半泣き状態でマックスの背の上で伏せるみたいにして手綱を握りしめて、大暴れするマックスに必死になってしがみついていたのだった。

「ここで落ちたら俺は泣くぞ。子供みたいに座り込んで思いっきり泣くぞ!」

「大丈夫ですよご主人。こいつらは特に反撃もしてきませんって、たまに糸を飛ばしてくるのが鬱陶しいくらいですよ」

「いや、そういう問題じゃあないんだって。俺はそもそも、イモムシがあ〜〜!」

 そこまで叫んだところで、何かが俺の顔に飛びついてきた。

 モニョっとした、妙に柔らかくて手触りのいい……思わず顔を上げて目を開いてしまった俺は、俺の腕にピッタリと張り付いた、俺の腕より太い真っ白で巨大なイモムシとまともに見つめあってしまった。

 大皿サイズの巨大な目と、頭部にある印刷したみたいなのっぺりした目玉模様。



「キョエ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」



 我ながらなんて悲鳴だとは思うが、出てしまったものは仕方が無い。

 吹き出すハスフェル達の声を聞きながら、俺はそのまま明後日の方向に自分の意識をぶん投げてしまったのだった。



 後で拾いに……いける、かなあ……。

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