つみれ鍋を作るぞ!
「さあてっと、あいつらが働いてくれてる間に俺は美味しいものを作るぞ。後ろは絶対に見ないからな!」
静かだった背後が急に騒がしくなり、直後からドタンバタンと従魔達の暴れる音や、ハスフェル達の時折何かを指示するような声が聞こえるようになった。どうやらお蚕さん第一弾がお出ましになったらしい。
1メートル弱の蚕……。
考えただけで気が遠くなりそうだ。
「俺は〜見〜な〜い〜〜!」
軽く目を閉じてそう呟くと気分を変えるように大きく深呼吸をしてから、まずは大きな寸胴鍋に昆布だしと水をたっぷり入れて火にかけた。
「ええと、じゃあ先にツミレを作るか。たっぷり作っておけば、残っても味噌汁とかにも入れられるもんな。よし。そうしよう」
小さく笑って、サクラが取り出して並べてくれていたグラスランドチキンの胸肉ともも肉を見る。
「じゃあまずは、これをそれぞれ全部ミンチにしてもらえるか」
「はあい、すぐにやりま〜す!」
アルファとベータがくっつき、ガンマとデルタもくっついてそれぞれ胸肉ともも肉の大きな塊をまるっと飲み込む。
モゴモゴと動いてるのを見てそっと撫でてやってから、次の食材を手にする。
「ええと、この生姜はあるだけすりおろしてくれるか。それでこっちの玉ねぎも細かくみじん切りにしてくれ。それからこの卵は割って混ぜておいてくれるか」
イプシロンが生姜の塊を飲み込み、ゼータが玉ねぎを丸ごと飲み込む。エータが小鉢を取り出して一つずつ卵を割って溶いてくれる。
「ご主人、ミンチ出来たよ〜〜!」
「こっちも出来ました〜!」
ミンチを作っていたアルファ達の声が重なる。
「おう、じゃあここへ入れてくれるか」
用意してあった大きなボウルに、生姜のすりおろしたのと玉ねぎのみじん切りもまとめてぶっ込む。
溶き卵を回しかけて塩胡椒と風味付けに胡麻油を垂らし、片栗粉を振り入れてアルファ達に任せる。
混ぜるのはスライム達の方が早くて上手だからな。
「お、そろそろ鍋が沸いてきたぞ」
昆布を入れていた鍋の縁の部分がふつふつと沸き始めている。
「昆布は沸騰させちゃ駄目だからな」
そろそろ良い感じなので、昆布は取り出すけどこれは捨てない。まとめて置いておいてある程度量が溜まったら昆布の佃煮にする予定だ。
「だってすごく良い昆布だから、捨てるのは勿体無いもんなあ」
そう呟きながら取り出したバットにアツアツの昆布を広げて置いておく。
定食屋でバイトをしていた時、定期的に店長がこれを作っていたんだよ。俺達はひたすら昆布を刻む役。でも横で作り方を見ていたからおかげでレシピはバッチリだ。
実を言うと師匠のレシピ帳にも、この出汁を取った残りの昆布を使ったいわばリサイクルレシピが幾つか載っていたからそのうち作ってみるつもりだ。
じゃがいもと昆布の甘辛煮とか、めっちゃ美味そうじゃん。
一旦鍋の火を止め、用意してあった野菜とキノコもスライム達に手分けして切ってもらう。
「あとは豆腐と、練り物はちくわがあるからこれを入れるか。ううん、量的にはこれで充分だけど……ツミレだけだと絶対瞬殺されそうだし、あいつらは足りないよな。よし、じゃあ後はハイランドチキンの胸肉のぶつ切りを入れよう。これでがっつりボリュームも出るな」
つみれが大量に出来たので、俺的にはこれがメインでも良いんだけど、ハスフェル達は絶対に足りなさそうだ。
サクラに取り出してもらった、ハイランドチキンの巨大なもも肉も全部ぶつ切りにしてもらう。これだけあったら、いくらなんでも足りるだろう。
背後ではドタンバタンと賑やかな音がひっきりなしに聞こえている。
一度静かになったんだけど、すぐにまた賑やかになったから、二面目に突入しているらしい。
「でも俺は、見〜な〜い〜!」
首を振りながら笑ってそう呟き、昆布出汁の入った鍋に火をつける。
「味付けは、醤油と味醂とそれからお酒っと」
適当に目分量で入れていき、最後に塩で味を整えればだし汁の完成だ。
「じゃあまずは肉をぶっ込む」
ハイランドチキンのもも肉をどっさり投入。
それから、白菜もどきとキャベツもどきの硬そうなところを先に入れておく。
「煮立ってきたら、つみれを投入っと」
大きめのスプーンを使って、出来上がったツミレを軽く丸めてポトポトと鍋に落としていく。
「キノコも投入〜!」
小房に分けて石突きを取ったしめじもどきと舞茸もどき、それから椎茸もどきもドッサリ投入。
強火のまま時々かき混ぜて沸いてくるのを待つ。
沈んでいたつみれが鍋の上に浮き上がり始めた頃、鍋もぐつぐつと沸き始めた。
「良い感じになってきたな。どれ、味はどうかな?」
小皿を一枚取り出して、お出汁をすくって味見をしてみる。
「もうちょい塩、かな?」
軽く塩を入れてもう一度混ぜる。
「よし、良い感じになった」
最後に、豆腐を切りながら入れてもうひと煮立ちすれば完成だ。
「ツミレも、ハイランドチキンのもも肉もまだまだあるから、後は食べながら追加で入れてまた炊けばいいよな」
鍋ごとサクラに仕舞ってもらおうとしたところで、キラッキラの目で俺を見つめるシャムエル様と目があってしまった。
「……味見したい?」
首がもげそうな勢いで頷かれてしまい、苦笑いしてお椀を取り出して、つみれとハイランドチキンを一つずつ、それから野菜も適当に少しずつ取り分けてやる。
「はいどうぞ、これが本当の味見だな。熱いから気をつけて」
下半身だけでものすごい勢いでステップを踏んでいたシャムエル様が、両手でお椀を受け取る。
「ふわあ、良い匂い! では、いっただっきま〜す!」
高らかにそう宣言して、やっぱり頭から突っ込んでいった。
「あっつい! でも美味しい! ツミレ最高〜〜!」
倍サイズくらいに膨れ上がった尻尾を振り回しつつ、嬉々としてつみれを齧っているシャムエル様。
苦笑いした俺は、こっそりもふもふしっぽを堪能しながら、また賑やかにドタンバタンと音が聞こえ始めた背後を振り向きかけて、慌てて前を向いたのだった。危ない危ない。