次の相手は……?
「ふう、お腹いっぱい。ごちそうさまでした〜〜!」
あの山盛りの焼きおにぎりを綺麗に平らげたシャムエル様は、満足そうにそう言ってご機嫌で尻尾のお手入れの真っ最中だ。
絶対、シャムエル様の体の大きさよりも、平らげたおにぎり五個分の方が体積が大きいと思う。あの体の何処にどうやって入ったのか、俺は本気で気になるぞ、おい。
当然、俺はそんなに全部は食えなかったから残った分の焼きおにぎりは全部まとめて収納してあるよ。
少し休んでから、ここを撤収してまたオーロラミニラットの出現箇所へ向かった。
そして当然またしても従魔達大喜びではしゃぎまくりの大暴れ。結果として金銀財宝ザックザク。お宝大量ゲットだぜ!
またしても三面クリアーしたところでそろそろ良いだろうって事になり、次へ移動する事にした。
「それで次は何が出るんだ?」
マックスに乗って移動しながら、周囲を見回して隣を走るシリウスに乗ったハスフェルに尋ねる。
「この森の向こうに、良いのが出るんだが……お前はちょっと無理かもしれんな」
からかうようなその言葉に、思わず無言になる。
「……もしかして、ぶっとくて長くて、足が複数あってモニョモニョ動くやつ?」
揃って頷くハスフェルとギイ。それを見た瞬間俺は思いっきり顔の前でばつ印を作った。
「謹んで遠慮させていただきます! じゃ俺は……どこか近くで夕食でも作ろうかなあ」
「全くお前は、相変わらず好き嫌いの多いやつだな」
「食べ物に関しては、好き嫌いはないんだけどなあ」
誤魔化すようにそう呟くと、なぜか三人から大笑いされたよ。
「ううん、いかにも出そうな茂みだなあ」
到着したそこは背丈くらいの高さのここにしては低木の木が生い茂る場所で、岩場の段差部分に沿うようにして低木樹が並んでいる。
「出るのはこれくらいだから、ジェムモンスターにしては小さい方だがどうだ?」
そう言ってハスフェルは1メートル弱くらいの幅で手を止める。
「言っていいか」
「おう、言ってみろ」
「いっそもっと巨大な方がまだマシ。単体なら戦える。だけどそのサイズがぞろぞろ出てきたら、俺はその場で泣くぞ。泣き叫んで逃げるぞ。絶対無理」
断言する俺の言葉に、また三人が揃って吹き出す。
「分かった分かった。じゃあ少し離れたところに水場があるからお前はそこで料理でもしてろ。簡単な結界くらいは張ってやるから、それでも防げないような何か出たら自分で何とかしろよ」
「ええ、そこは華麗に助けに来てくれるところじゃねえのかよ」
笑って文句を言うと、俺達はジェムモンスターの相手で忙しいんだと笑われてしまった。
「ご主人、それなら私が護衛につきますよ」
「万一何かあれば、私達も駆けつけますよ!」
鞄の外ポケットに入ってるハリネズミのエリーと、頭上を旋回しているお空部隊がそう言ってくれたので、俺の護衛役はエリーとお空部隊に決定した。
「ちなみに、そのイモムシの素材は何が出るんだ?」
何気なく思いついてそう聞いてみる。
「特殊な糸が出るんだ。これがもう素晴らしく光沢のあるごく細い糸でな。染色も容易だから様々な色に染める事が出来る。王都ではこの布地は高額で売れるんだ。これもバイゼンの職人達が大喜びで買ってくれるぞ」
「あの糸で織った布は、それはもうため息が出るくらいに美しいぞ。だから、これも取れるだけ取って全て売ってやると良い」
「へえ、きっと絹糸みたいなものだろうな。それは確かに俺達は持ってても絶対使わなさそうだから、バイゼンヘ戻ったら全部売れば良いな。まあ、俺には関係ないけどな」
俺の言葉に、またしても吹き出して大笑いしている三人だったよ。
「おお。確かに水が湧いてる」
教えてもらった場所は、岩の裂け目からこんこんと水が湧き出して流れ落ちて小川になっている場所だった。
「もちろん綺麗な良い水だから、安心して使えるからね!」
いつの間にか戻って来ていたシャムエル様の言葉に、俺は笑って頷きマックスの背から飛び降りた。
「よし、じゃあ行っておいで。まあお前なら大丈夫だとは思うけど怪我には気をつけるんだぞ」
鞍や手綱を外してやり、大きなマックスの頭に抱きついてそう言ってから手を離してやる。
「任せてください。ご主人の分もしっかり集めて来ますからね!」
尻尾扇風機状態のマックスはそう言って、跳ね飛ぶみたいにして茂みへ向かって走って行った。
「尻尾は嘘つかないってな」
今の気分が全部現れるマックスのくるんと丸くなった尻尾は、ニニのもふもふの腹毛と並んで俺のお気に入りだ。
彼らが従魔達と連携して展開するのを見た俺は、黙ってそれに背を向けた。
「絶対見ないぞ。何があっても振り向かないからな」
離れたとは言っても、姿が見える距離だ。うっかり振り返ったら、絶対出て来たそれを目撃してしまうはず。
しかもこの距離だとリアルイモムシサイズに見えてしまうって事に俺は気がついたんだよ。
大きなため息を吐いてそう言った俺は、足元に来てくれたサクラとレインボースライム達を見た。アクアとメタルスライム達は、素材とジェムの回収に参加してくれている。
まあ、スライム達には誰が倒したのか分かるらしいから、適当に集めて後でやりとりしてくれているらしいんだけどね。
「さてと、それじゃあ作りますか。しかし何を作るかなあ」
机と椅子だけを取り出して並べ、腕を組んで考える。
作り置きはまだそれなりにあるけど、せっかく皆が戦っている時に料理の時間を取ってるんだから、ちょっと手の込んだものでも作りたい。
「ううん、ちょっと冷えてきてるし鍋でも作るか。鶏肉と生姜でたっぷりツミレを作って鶏肉とツミレの鍋とかどうだ。野菜もいろいろ仕入れてあるから野菜とキノコをたっぷり入れて、味付けは昆布出汁に酒と味醂と醤油と塩があれば良いな。それならしめの雑炊もありだ。良し、鍋に決定だ」
メニューが決まればあとは作るだけだ。
机の上で待ち構えているサクラに、まずは道具と材料を取り出すようにお願いしたのだった。