もこもこも最高！
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん！
ふんふんふんふん！
ふんふんふんふん！
「あれ、起きたはずなのに……」
寝ぼけ眼を擦りながら、何とか起きあがろうとしてまたニニの腹毛に埋もれる。
「そっか、二度寝しちゃったんだな……ふああ、やっぱりまだ眠いよ。シャムエル様に何かしてもらってからはきっぱり起きれてたのに、なぜかまた最近眠いんだよなあ。だけど、まあこれはいつも通りって感じか」
寝ぼけた頭でそんな事を考えていたら、いきなり覆い被さられて頬を思いっきり舐められたよ。
べろ〜〜ん！
「ほげえ〜〜！」
突然の事に、悲鳴をあげてニニの腹から転がり落ちる俺。
しかし、そのままスライムベッドに顔面から突っ込んで止まった。
『ギブギブ、息ができませ〜〜ん！』
顔が全部スライムに突っ込んでしまった為、ビニール袋を被ったみたいに表面がピッタリと口や鼻に貼りついていて、割とガチで息が出来ないぞ。
ちょっと本気で焦りつつスライム達に念話で話しかける。
「ああ、大変。ご主人を解放しま〜す」
気が抜けそうなのんびりした声が聞こえた直後に、俺の顔は押し返されるみたいにして解放された。
「はあはあはあ、死ぬかと思った」
そのままスライムベッドに仰向けに転がる。
「それで、今朝の最終モーニングコールは誰が担当したんだ？」
大きなため息を吐いて俺を覗き込んでる猫族軍団を見上げる。
だって、全員巨大化したままだし。
「はあい、私が担当しました〜〜！」
予想通りに、嬉々として返事をしたのはオーロラグリーンタイガーのティグだよ。
「そのデカい舌で俺を舐めたのかよ。うああ、マジで頬の肉持っていかれなくてよかった〜〜」
舐められた頬を押さえて思わず叫ぶ。
「失礼ね。ちゃんと力加減くらいしてるわよ。人間の肉って、すっごく柔らかいんだからさ」
笑ったティグの言葉に、俺は両手を伸ばして巨大化したティグに抱きついた。
「あはは、そりゃありがとうな。今後も是非それでお願いするよ」
「任せてね。ちゃんと起こしてあげるから」
ご機嫌に喉を鳴らしていたティグが、いきなりさっきと反対側の頬を舐めた。
べろ〜〜ん！
「ふぎゃ〜〜〜！」
またしても不意を突かれた俺は、情けない悲鳴を上げてそのまま背中からスライムベッドに仰向けに転がった。
「はあ、今度は窒息は免れたぞ」
笑いながら起き上がったところで、もう一度ティグの大きな顔に抱きついて顔を埋める。
「おお、このティグのもこもこもいいなあ。毛がみっちり詰まってていい感じだ。どれどれ、腹毛はどんな感じだ？」
笑いながらそう言ってティグの腹に潜り込もうとする。
「あれ、案外腹の毛が無いんだ」
若干ふわふわではあるが、ニニやカッツェのように腹毛が他よりも長くて特別ふかふかってわけではない。
「そっか、ソレイユやフォール達も、腹の毛ってそれほど長くもふさふさでもないもんな。あのもふもふは家猫特有って事か。もふもふは間違いなく良きものだけど、このもこもこも最高だぞ〜〜！」
笑ってもう一度ティグに抱きついた俺は、そのまま起き上がってスライムベッドから降りた。
「ううん、さて、今日はネズミ退治に行くって言ってたなあ。じゃあしっかり食っておかないとな」
大きく腕を上げて体を伸ばしてからサクラに綺麗にしてもらって身支度を整えて、しっかり剣を装着してからテントの垂れ幕を上げる。
テントの外に、何か危険なジェムモンスターが待ち構えている事もなく、ひんやりとした風が吹き抜ける。
「おお、朝は割と気温が低くなってきたなあ。そろそろあのマントの出番かも」
一晩で一気に気温が下がった気がする。
これが飛び地特有の気温なのか、それとも一気に秋が深まったのかわからないけれども、また吹き付けて来た冷たい風に大きく身震いをした俺は、今日からハンプールで買ったあのマントを使う事に決めたのだった。
「おはよう。朝からずいぶんと賑やかだったがもう大丈夫か？」
その時テントの外からからかうようなハスフェルの声が聞こえて、三人がテントを覗き込む。
「おう、おはようさん。もう準備万端だよ。じゃあ作り置きを出すから好きに食ってくれよな」
サクラに適当に出来合いのサンドイッチや屋台飯を取り出してもらい、それぞれ好きにがっつり食事をした。
シャムエル様は、いつものタマゴサンドと鶏ハムをもらってご機嫌で尻尾を振り回していたよ。
食事の後、少し休憩してからテントを撤収した俺達は、それぞれの従魔に飛び乗り目的地へ向けて一気に駆け出したのだった。
さて、ネズミ狩りはどうなるのやら。でも、お宝が金銀財宝って言われたら、ちょっと張り切っちゃうぞ。
これぞRPGって感じだよな。
マックスの背の上でちょっとワクワクしながら、呑気にそんな事を考えていたのだった。
