夕食と三日目
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! じゃじゃじゃじゃ〜〜〜〜ん!」
今日もカリディアと二人並んで見事なステップを披露したシャムエル様は、大きなお茶碗を振り回してご機嫌でまだ踊っている。
カリディアも恐らくシャムエル様に持たされたのだろう、小さな丸い小皿を片手に持ってシルクハットみたいにしながらこちらも華麗なステップを踏んでいる。
最後は二人揃って決めのポーズだ。
「おお、お見事。いつもながら格好良いぞ」
笑って拍手してやり、お椀と小皿を受け取る。
「で、どれくらい食べるんだ?」
「山盛りください!」
力一杯断言する予想通りの答えに小さく笑って、俺は自分のお椀から丸ごと半分くらいのご飯と肉も山盛りに取り分けてやった。
「ごめんよ。ちょっとぐちゃぐちゃになったけど、気にしないよな」
ご飯がちょっと崩れてお肉と混ざっちゃったんだけど、なんとか形を整えて目の前に置いてやる。
「全然問題ありません!」
小皿に、わかめときゅうりの酢の物と、大根とにんじんの塩揉みを盛り合わせる。
「味噌汁は?」
「ここにお願いします! お茶はこっちね!」
お椀とグラスが一瞬で取り出されて俺の目の前に置かれる。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
厚揚げとじゃがいものお味噌汁は、スプーンですくってたっぷりの具と一緒にお椀に入れてやる。
「はい、どうぞ」
「うわあい、美味しそう! それでは遠慮なく、いっただっきま〜す!」
いつもの麦茶と一緒に並べて置いてやると、シャムエル様は待ちきれないとばかりに目を輝かせて味噌焼き丼の入ったお椀に頭から突っ込んでいった。
「相変わらず豪快だなあ」
大興奮状態の尻尾をこっそり突っつきながら、俺もガッツリ味噌焼き丼を食べ始めた。
「ううん、やっぱりもうちょっともらって来よう」
はっきり言って、半分くらいは余裕で取られてるので、俺の分が標準一人前にも足りないくらいの量しかない。
苦笑いしてお椀を手に、おかわりをもらいにいく俺だったよ。次に丼を作る時は、もうちょっと大きなお椀にしよう。
大満足の夕食の後、俺は麦茶を、ハスフェル達はワインを飲みながらこの飛び地に出るジェムモンスターについて教えてもらった。
まあ、前回彼らがここへ来たのはかなり前らしいので、今回は出現状況の確認を兼ねているらしい。
「この飛び地は出現するジェムモンスターの種類は多くはないんだが、どれも良い素材を落としてくれる。それからここに出現するジェムモンスター達の特徴の一つに、入手出来る素材がどれも貴重な鉱石や鉱物などの原材料が多いって事だな。あとは革」
「へえ、職人の街の近くの飛び地としては最高じゃん」
笑った俺の言葉に、机の上で尻尾の手入れをしていたシャムエル様がドヤ顔で俺を見た。
「そりゃあちゃんと考えてるよ。バイゼンのドワーフ達が何を欲しがってるかってね」
「まあそうだよな。やっぱり需要と供給のバランスは整えておかないとな」
何となく打った相槌だったが、何故かシャムエル様は目を輝かせて俺を見上げてる。
「うん、さすがは我が心の友だね。私の苦労を分かってくれてる」
「いやいや、今のは単なる言葉の綾だって。俺に過度な期待をするなって!」
「ええ。せっかくだから。ここを構築した時の苦労話を聞いてもらおうと思ってたのに〜!」
「残念でした〜〜そう言うのは、神様どうしでやってくださ〜い」
態とらしく残念がるシャムエル様の尻尾を、俺は笑いながらこっそり突っついてやった。
その夜は、いつものようにスライムベッドの上でニニとマックスの間に挟まって眠った。
足元にはフラッフィーが丸くなってくっつき、背中側はいつもの巨大化したウサギコンビ。
一応、危険地帯なので装備はそのままだ。
テントの外には、巨大化した猫族軍団をはじめ、セーブルとオーロラグリーンタイガーのティグ、それにこちらも最大クラスまで巨大化した雪豹のヤミーが見張りを買って出てくれた。
まあ、あいつらが巨大化してテントを警備してくれていれば、万一誰か来ても絶対に近寄ってもこないだろうし、はぐれのジェムモンスターがいたとしても、絶対に迂回ルートを取るだろう。
なので俺は安心していつものもふもふとむくむくに埋もれて目を閉じたのだった。
「おやすみなさい。良い夢を」
「うん、ベリーも……おやす、み……」
ランタンの灯りを消してくれたベリーの優しい声に、何とか答えたところまでしか俺の記憶は無い。
相変わらず、見事なまでの墜落睡眠だねえ。我ながらちょっと感心するレベルの寝付きの良さだよ。
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
こしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……起きるよ……ふああ〜〜」
いつものモーニングコールチーム総出で起こされた俺は何とか眠い目をこすりつつ、起き上がって大きく伸びをした。
「ええ、ご主人起きちゃ駄目です〜〜!」
「そうですよ! 私たちの仕事を取らないでくださ〜い」
「そうですよ、今日は私もお手伝いするつもりだったのに〜ほら寝て! もう一回寝て!」
笑ったソレイユとフォール、それから大型犬サイズになったティグに揃って文句を言われてしまい俺は笑ってティグの大きな太い首に、手を伸ばして抱きつく。
「ううん、このもっこもっこも良いもんだなあ」
笑いながらティグの首元に顔を埋める。
そのまま気持ちよく二度寝の海へ落っこちていったけど、後悔はしてないぞ!