まずは一匹目!
「おお、すっげえ。もうあんなところまで近寄って行ったぞ」
音もなく泳いで近寄って行ったティグは、目標のイグアナがいる枝のすぐ近くまで行って静かに止まった。
ここまで完全に気配を消していて、のんびりと枝の上で寛いでいるイグアナはティグの存在に全く気づいていない。
『ほう、さすがは虎だな。あそこまで完璧に気配を殺して近付くのは、俺達にも出来ないぞ』
『全くだ。あれを逆に自分にされた時の事を考えたら背筋が凍るな』
ギイの呟きにハスフェルも同意するように念話でそう言って頷いている。
俺はもう息を殺しながら、ひたすらティグの後ろ姿を見つめていた。
かなり近い位置まで行って止まったティグは間合いを計っていたのだろう、そのまましばらく動かずにいたが何の予備動作も無くいきなり襲いかかった。
水の中から突然襲いかかってきたティグに驚いた当のイグアナは咄嗟に逃げようとして果たせず、次の瞬間にはあのティグの巨大な口に完全に咥えられて水の中に引きずり落とされてしまっていた。
ものすごい波飛沫とティグの唸り声。
そして、他の枝にいたイグアナ達が驚いて一気に逃げ出すのを見た従魔達が一斉に動く。そのまま一気に巨大化して襲いかかり、あちこちでジェムと素材の皮が転がるのが見えた。
俺達を乗せていた従魔達はその場に留まったまま警戒していたが、それも一瞬の事だった。
水中バトルは、どうやら一方的に勝負がついてしまったみたいだ。
「おおこれは見事だな」
「全くだ。さすがはトラだな」
「ほほう、これは見事だ」
「うわあ、あの一瞬で確保かよ。ティグってすげえな」
ハスフェル達の呟きに続いて俺も思わずそう呟く。
水から上がって来たティグの口にはあの大きなイグアナが咥えられていたのだが、ティグの巨大な牙はイグアナの体に突き刺さる寸前で止められていて、全くの無傷。
しかしイグアナはもう完全に硬直していて全くの無抵抗だ。
「はいどうぞ、ご主人」
悠々と咥えたまま泳いで戻って来たティグは、俺の目の前に硬直したままの巨大なイグアナをポトンと落とした。
「うわあ、危ないって! 逃げられたらどうするんだよ」
慌ててマックスの背中から飛び降りてイグアナを確保しようと飛びかかる。
しかし、地面に転がされたイグアナは、完全に硬直したまま逃げようともしない。
「い、生きてるよな?」
割と本気で死んだんじゃないかと心配になるくらいの無反応だったが、瞬きしたのを見て苦笑いしてそのまま捕まえる。
「お前、俺の仲間になるか?」
念の為、頭を上から押さえてそう話しかける。
「はい、貴方に従います」
何度か瞬きをしたイグアナは、俺を見て嬉しそうにそう答えた。その声はまたしても可愛い雌の声でちょっと笑っちゃったよ。ううん、またしても従魔達の女子率が上がったみたいだ。
ゆっくりと押さえていた手を離してやると、ぴかっと光ってさらに大きくなった。
「おお、こいつもまた大きいんだな」
こいつが一番大きい。尻尾の先まで入れたら5メートルは余裕であるぞ。
「ええと、紋章はどこにつける?」
右手を見せながらそう尋ねる。
「額にお願いします!」
他のイグアナ達と同じ箇所だ。
頷いて右手をそっと額に当てる。
「お前の名前はプリクルだよ。よろしくな」
英語でチクチクするとかそんな意味だけど、背中の突起っていうか棘みたいなのがチクチクして見えたんだよな。
もう一度光ったプリクルは、今度はどんどん小さくなって30センチくらいの大きさで止まった。
「これくらいならご主人の邪魔になりませんか?」
なんとも控えめなその言葉に、俺は満面の笑みになってそっと抱き上げた。
そのまま腕に掴まらせて撫でてやる。
小さいとは言っても、背中の突起と喉の下にある垂れ下がった部分が特徴的で、普通のトカゲとは明らかに違っている。
「まあ良いよな。じゃあ皆と仲良くしてくれよな。ええと、普段はどこにいてもらおうかな?」
「こっちにいらっしゃいな」
カッツェの背中に乗ったティグの言葉に、嬉しそうに返事をしたプリクルが俺の顔を見てから飛び出してカッツェのところまで駆け上がって行った。
「おお素早い。ああいうところはまんまトカゲだな」
笑ってマックスに飛び乗り、改めて泉を振り返る。
転がってたジェムや素材はいつの間にかスライム達が回収してくれていて綺麗さっぱり無くなってる。
そして枝の上には、またあちこちに大きなイグアナが出現していた。
「よし、やっぱり緑の子もゲットしよう」
「俺も欲しいぞ!」
「俺も頼む!」
嬉々として叫んだギイとハスフェルの声に俺も笑って右手を上げた。
「じゃあそれぞれ、今度は緑のやつをテイムだな」