イグアナをテイムするぞ!
『あれ、どうやって確保するつもりなんだろうな』
邪魔するといけないので、隣にいるハスフェルに念話でそう尋ねる。一応トークルームは全開にしているから、ギイにも聞こえているはずだ。
『動き自体はゆっくりだが、逃げる時の足はかなり速いからな。恐らくだが、鞭を使って一瞬で決めるはずだ』
オンハルトの爺さんの言葉に驚いて見てみると、確かに一瞬でギイの手に現れた武器はオンハルトの爺さんが使っていたみたいな長い鞭だった。
デネブがゆっくりとゆっくりと見事なまでに足音を立てずに近寄って行く。
そして、3メートルくらいの位置でぴたりと止まった。
完全に周囲と同化していて、それっきりデネブもギイも全く動かない。
俺達が息を殺して見つめていると、いきなりギイは持っていた鞭を振るった。
風を切るような鋭い音と同時に、イグアナが一瞬で消える。
「ふええ! 今何したんだ?」
次の瞬間には、ギイは巨大なイグアナを完全に押さえ込むみたいにして小脇に抱えていた。
両手で大きな口を掴んで押さえ込み、イグアナの下半身から尻尾にかけてはスライム達が全員で押さえ込んで尻尾の攻撃を完全に封じていた。
「すっげえ。どうやったのか全然見えなかったよ」
文字通り、瞬きした時には終わってたよ。
「ほう、見事だな。鞭で引き寄せて相手が反撃する前に確保したか」
感心したようなオンハルトの爺さんの言葉に納得して頷く。
「へえ、鞭にはいろんな使い方があるんだなあ、ちょっと使ってみたいかも」
「良いのではないか? 慣れれば遠くの敵に気付かれずに攻撃出来るからな。それに今のように一瞬で手元に引き寄せて確保する事も可能だぞ」
その言葉にちょっと考える。
「俺でも扱えるかな?」
「やりたいなら、扱い方くらいは教えてやるぞ。其方はベリーから魔力を使って物を引き寄せる技を教えてもらっただろう? あれと併用すれば、かなり色々使えると思うぞ」
「じゃあ是非お願いします」
爺さんはまだしばらくいてくれるみたいだから、是非ともその間に鞭の扱い方くらいは覚えておきたい。
俺の言葉に、爺さんは一本の鞭を取り出して渡してくれた。
「それは初心者向けの扱いやすい鞭だよ。俺はもう使わんからやるから練習で使ってみるといい」
「おう、ありがとうございます」
ちょっと使い込んだそれを両手で持って頭を下げる。
「おおい、話が終わったんならこっちを頼むよ」
笑ったギイの声に、慌てて顔を上げる。
「あはは、ごめんごめん。テイムは俺がやるんだったよな」
ゆっくりとマックスを水際まで進ませると、ギイを乗せたデネブが水から上がって来てくれた。
確保されたイグアナは、確かに赤っぽい不思議な色をしている。
「名前はどうする?」
「じゃあアルタイルで頼む」
「了解。じゃあ……ええと、離しても大丈夫かな?」
完全に確保しているから大丈夫だとは思うけど、あの口でガブっとやられたら指なんて簡単に持っていかれそうだ。
「おう、もう完全に確保してるぞ」
ちょっとドヤ顔のギイがそう言って俺の前にイグアナの頭を差し出して手を離す。スライム達が胴体部分をしっかりと確保しているから落とす心配もない。
それでも顔を上げて俺を睨みつけるイグアナに、俺は両手で頭を押さえつけた。
「俺の仲間になるか?」
「はい、貴方に従います」
やや低めの声はどうやら雄のようだ。
返事をした直後に光ってさらに大きくなるイグアナ。
「うわあ、すっげえ! ここまででかくなるんだ!』
ここでは実際に恐竜がいる世界だけど、こいつもリアルに恐竜だよ。何しろ尻尾の先まで入れたら3メートル余裕で超えてるリアル恐竜サイズ。
「強いって言ってた意味が分かった気がする。こいつが暴れたら、そりゃあ強そうだ」
笑いながら右手の手袋を外してイグアナの頭の上に手を置く。
「お前の名前はアルタイルだよ。お前は俺のところじゃなくて、お前を捕まえたこの人のところへ行くんだ。凄い人だから可愛がってもらうんだぞ」
命名すると、いつものようにまたピカッと光って今度はどんどん小さくなる。
「よろしくな。ギイだよ」
「新しいご主人ですか?」
顔を上げたイグアナの言葉にギイが笑顔で頷く。
「よろしくお願いします! 新しいご主人!」
嬉しそうなその言葉にうんうんと頷いて見ていると、肩を叩かれて振り返る。
「そっちが終わったんなら、悪いがこれも頼むよ」
何と、俺がテイムしている間に、ハスフェルはもう自分のイグアナの亜種を確保していた。
「おおう。早えな、おい」
全然気付かなかったので驚きつつも、確保されたイグアナを見る。
「で、名前はどうする?」
「エルナトで頼むよ」
笑顔で差し出された同じくオーロラ種の亜種のイグアナをテイムしてやった。
「いやあ、これは可愛い。本当にありがとうな」
どうやらギイはある程度の大きい子が良かったらしく、リアルイグアナサイズになってもらって嬉しそうに抱いているよ。
意外に爬虫類系が好きだった模様。
ハスフェルは逆に30センチくらいになったイグアナの子供サイズの子を、こちらも嬉しそうに腕に乗せて撫でている。
「良いなあ、じゃあ俺も参加させてもらおう」
しかし、彼らのように完璧に気配を消してイグアナに近づけるような芸当は俺には出来ない。
ここは従魔達の力を借りるべきだよな。
ギイが捕まえたイグアナがいた場所に、また新しい亜種の赤い色をしたイグアナが出てくるのを見て、俺は従魔達を振り返った。
「ええと、あれを確保して欲しいんだけど……誰がやってくれる?」
「私達だと捕まえるのは簡単だけど、抵抗を無くすのは難しいわよね」
お空部隊が困ったようにそう言って顔を見合わせている。
「じゃあ私が行きましょう」
名乗りを上げてくれたのは、意外な事にオーロラグリーンタイガーのティグだ。
「下は泉だけど大丈夫か?」
「ええ、簡単ですからご主人はそこで見ていてくださいね」
平然とそう言ったティグは、音も無く水の中に入ると悠々と泳いでイグアナのいる場所へ向かっていった。
「そっか、猫族だけど虎は水は平気なんだ」
水浴びをしてるのを見た事は無かったけど、そういえば虎って泳げたんだよな。
なんて妙に感心して、俺はその頼もしい後ろ姿を見つめていたのだった。