次の目的地
「だし巻き卵も美味しいねえ。いやあ満足満足」
行儀悪くゲップなんかしたシャムエル様は、ちょっと膨れたお腹をさすりながらそう言って満足そうに身繕いを始めた。
「美味しかったよ。ご馳走様。じゃあ少し休んだら次に行くか」
「おう、それで次はどこへ行くんだ?」
お皿を片付けながらそう尋ねると、ハスフェルとギイは顔を寄せて相談を始めた。
「じゃあ、あそこへ行くか。せっかくなんだから、頼んで一匹でも二匹でもテイムしてもらえ」
「ああ、もし出来たら嬉しいんだけどなあ。どうだろう。まだ出るかな?」
何やら嬉しそうなギイの様子に、驚いて彼を見る。
「何? テイムして欲しいのがいるのか?」
「おう、捕まえるのは自分でするから、じゃあ一匹テイムしてくれるか?」
振り返ったギイの笑顔を見てちょっと気になって考える。
「テイムするのは全然構わないけど、ご希望は何のジェムモンスターなんだ?」
あの様子だとそんな無茶なジェムモンスターではないだろうけど、あいつらの常識も時々おかしいからなあ。
とんでもない凶暴なのとかをテイムさせられるのは嫌なので、一応確認しておく。
「イグアナだよ。あの大きいのが以前から欲しくてさ。お前は爬虫類はあまり得意ではないと聞いたがどうだ? やってくれるか?」
「イグアナ〜? イグアナって、こんな感じの恐竜みたいな大きいトカゲ?」
驚く俺に、ギイはこれ以上無いくらいに嬉しそうに頷く。
「そうそれ。どうだ?」
「もちろん喜んでやらせてもらうよ。ついでに言うと、イグアナだったら俺も欲しい!」
「大丈夫なら、俺も欲しいぞ!」
目を輝かせるハスフェルに、俺は笑顔でサムズアップした。
「オンハルトの爺さんは?」
一人大人しい爺さんを振り返ってそう尋ねると、じいさんは笑って首を振った。
「俺個人としては、良いと思うんだがなあ。間違いなくシルヴァとグレイは泣き出しそうだから遠慮しておくよ」
思わず顔を見合わせた俺達は、その状況があまりにもリアルに想像出来てしまい揃って苦笑いして頷き合ったのだった。
「それじゃあさっさと片付けて行くとしようか。もし出現するジェムモンスターが変わっていたら、諦めて狩りをする事にしよう」
「そうだな。じゃあイグアナがいたらテイム優先。それ以外だったらジェムと素材集めだな」
「おう、よろしく頼むよ」
「任せろ。ただし捕まえるのは自分でやってくれよな」
揃ってサムズアップする彼らを見て、俺ももう一度サムズアップを返した。
あっという間にスライム達がお皿も机も椅子も片付けてくれたので、水場で従魔達に水浴びさせてやってから、その場を出発した。
「あの赤い葉っぱの木まで競争!」
一つ森を抜けたところで、いきなりシャムエル様がそう叫び、マックスが弾かれたように走り出す。
時折岩が転がる平原を遠くの森の外れにある目的の赤い葉っぱの大木目掛けて、従魔達は揃ってもの凄い勢いで走っていくのだった。
「どわあ〜〜! いきなり加速するなって〜〜!」
若干バランスを崩しつつも、なんとか必死になって手綱にしがみつく。
「ご主人を確保〜〜!」
いつものアクアゴールドののんびりした声の後、鞄から出てきたスライム達が俺の下半身をすっぽりと包み込んで確保してくれる。
「あはは、ありがとうな。不意打ちだったからちょっと焦ったよ」
手を伸ばして太ももの辺りを叩いてから、なんとか体勢を立て直してしっかりと身構える。
もう遥か遠くに見えていた目的地はすぐ目の前だ。
「いけ〜〜〜〜〜!マ〜〜ックス!」
拳を振り上げた俺の大声に、答えるようにマックスがひと吠えしてさらに加速する。
そのまま赤い葉っぱの木の横を駆け抜け、大きく弧を描くようにして減速してから止まる。
猫族軍団と巨大化したセーブルが、俺達と狼コンビから大きく遅れて追いついて来るのもいつもの事だ。
「はあ、すっげえ速さだったな。それで誰が一番だったんだ?」
マックスの頭の上に立ち上がったシャムエル様に、全員の注目が集まる。
「いやあ、今日もいい走りだったね。ほぼ同時と言ってもいいと思うよ。では発表します!」
そう言って、なぜかその場でくるっと一回転するシャムエル様。
「一位はギイア〜ンドデネブ! 二位と三位は完全なる同着だったね。これはケンア〜ンドマックス! そしてオンハルトア〜ンドエラフィ! そしてごくわずかに遅れて最後がハスフェルとシリウスだったよ。だけど本当に僅差だったね。いや、どの子もお見事でした。次も頑張ってね!」
「よっしゃ〜〜〜! やったぞデネブ!」
「うああ、負けた〜〜!」
「ああ、悔しい。今度こそいけたと思ったのになあ」
「うああ! 最下位は悔しい!」
四人全員の悲鳴があたりに響き渡り、顔を見合わせた俺達は揃って笑い出して大爆笑になったのだった。
「いやあ、楽しかったな。じゃあ行くとするか」
笑ったギイの言葉に、ハスフェルがまだ悔しがっている。
「シリウス! 次こそは一位を取るぞ!」
抱きつくみたいにして鞍上でシリウスの首に抱きついたハスフェルの言葉に、シリウスも悔しそうに何度も跳ね飛んでいたのだった。
「本当に何が楽しいのかしらねえ」
「全くだよ。何が楽しいのか全くわからんな」
ニニとカッツェの言葉にそろって頷く猫族軍団を見て、俺達はまた揃って大笑いになるのだった。