お昼ご飯タイム!
「へえ、これが磨くと宝石になるのか。全然違うなあ。全然キラキラもしてない」
アクアが出してくれた、オーロラハードロックの素材である宝石の原石を手に、空に透かして眺めながら俺にはそんな感想しか出てこない。
だって、本当にただの半透明なだけの石に見えるんだから仕方がなかろう。
「どれも良い原石だ。これもバイゼンヘ持って帰ってやれば、職人達が大喜びするだろうな」
同じく原石を手にしたオンハルトの爺さんの言葉に、俺は振り返って爺さんを見た。
「せっかくだから、冬の間に磨いてもらってクーヘンへの土産にしようと思うけど、どうかな?」
「ああ、それは喜ぶだろう。なら、戻ったらどれを磨けば良いか見てやるから、それは売らずにおいておくといい」
「よろしく! 残念ながら俺には、ただの石ころにしか見えないよ。これがあのキラキラ光る宝石になるんだって言われても、ちょっと信じられないなあ」
「素人目にはそう見えるか。俺の目には最高の原石に見えるがなあ」
苦笑いしたオンハルトの爺さんは、そう言って一瞬で原石を収納した。
「さて、まだ次は出ないみたいだし、どうするかな。そろそろ俺は腹が減ってきたんだけどなあ」
「確かに、そろそろ腹が減ってきたな」
ギイの言葉に笑ったハスフェルも頷いている。
飛び地では太陽が無いから時間の感覚が曖昧になりがちだ。それに日が暮れることもないから常に明るいので寝不足にもなる。
これはどちらも気をつけないと体調を崩す元になったり、食事の時間がずれて体調を崩したりする危険性が高いので注意が必要だ。
だけど、彼らは完璧な体内時計を持ってるみたいで、今のように食事の時間や休む時間を教えてくれる。
「確かにちょっと休憩したいな。どうする? ここで食べるのは危険だよな?」
作り置きは沢山あるから適当に出してやれば良いだろうけど、さすがにあのデカい岩がビリヤード状態にゴロゴロ転がってくるここでは落ち着いて食事も出来ないだろう。
「ああ、それなら少し下がったところに水場があるからそこへ行けばいい」
ハスフェルの言葉に、俺たちは一旦ここを撤収して食事の為に離れた水場へ向かった。
「おお、確かに綺麗な水が湧いてるなあ」
到着したそこは、緑のフカフカの苔が群生する場所で、いくつかある段差になった岩の隙間から、綺麗な水が何箇所も湧き出している。
「これって飲める?」
一応シャムエル様にそう尋ねる。
「もちろん、綺麗で美味しい良い水だよ」
「そっか、それなら大丈夫だな。ええと、机と椅子だけでいいから出してくれるか。それから……何を出すかなあ。まだ午後からも戦う事になりそうだし、しっかり食っとかないとな」
って事で、おにぎり各種と串焼き肉や揚げ物各種など、肉をメインに色々と並べておく。お惣菜は、師匠が仕込んで持たせてくれたのがまだまだあるので、それを適当に取り出す。
ハスフェル達はパンの方が喜ぶから、いつものサンドイッチ各種や惣菜パンも適当に並べておく。
「生野菜が圧倒的に足りなさそうなメニューだけど、まあたまにはこういうのも良いよな」
シャムエル様の好きな肉巻きおにぎりをはじめ、祭りの時に差し入れてもらったのを色々取り出した大皿に取り分ける。
「肉巻きおにぎり以外って、何か希望はあるか?」
机の上で目をキラキラ輝かせているシャムエル様を見て、ちょっと笑った俺はおにぎりがぎっしり並んだ大皿を指さした。
「肉巻きおにぎりと、だし巻き玉子をお願いします!」
お惣菜の横に並んだ、師匠特製分厚いだし巻き卵にシャムエル様の目は釘付けだ。
「これだな。了解」
自分も食べたかったので、大きいのを二切れ皿に乗せる。
「いつもの鶏ハムもお願いしま〜す! ついでに言うと、ヤミーがさっきからずっと見てるよ」
笑ったシャムエル様の声に振り返ると、大きめ猫サイズのヤミーが、椅子の上に乗って机の上に並んだ鶏ハムをガン見していた。
「あはは、食べるか?」
小皿を一枚取り出し、そこに大きめの鶏ハムを二切れ乗せてやる。
「食べたい食べたい!」
声のないニャーの後に、急いで椅子から降りて苔の地面に前足を揃えて良い子座りをする。
「はいどうぞ。もっといるか?」
「ありがとうご主人。それだけあれば充分よ」
目を細めて嬉しそうなヤミーの頭を撫でてから、目の前にお皿を置いてやる。
ご機嫌で食べ始めたヤミーの背中もそっと撫でてから、自分の飲み物を取りに行った。
いつもの簡易祭壇に俺の分のお皿を並べて、麦茶の入ったマイカップも一緒に並べる。
「作り置きばかりでごめんよ。夜には何か作るからさ」
そう言って手を合わせて目を閉じる。
いつものように収めの手が俺の頭を何度も撫でてからおにぎりとおかずを順番に撫でていき、最後に麦茶もそっと撫でてから消えていった。
「お待たせ」
お皿を持って席に戻り、待っていてくれたハスフェル達にお礼を言って座る。
それから改めて手を合わせてからお箸を手にした。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っじみ! ジャジャン!」
いつものお皿を振り回しつつ、カリディアと並んでステップを踏むシャムエル様。
「相変わらず、見事なダンスだねえ」
もふもふの尻尾をこっそり手を伸ばして突っついて楽しみ、キメのポーズの直前で知らん顔で手を戻した。
「じゃあ肉巻きおにぎりとだし巻き卵、それから鶏ハムだな」
一通りお皿に乗せてやり、お惣菜のきんぴらごぼうもどきとカットトマトも乗せてやる。
せめてもの彩りのトマトだ。だけど、赤いのが一切れあるだけで一気に美味しそうになったよ。ううん、彩りって大事だね。
「はいどうぞ」
「うわあい、どれも美味しそう! ではいっただっきま〜す!」
嬉しそうに宣言してだし巻き卵に頭から突っ込んでいったシャムエル様を見て全員揃って吹き出した後、俺もおにぎりに齧り付いた。
さて、午後からは何が出るんだろうねえ?