飛び地最初の目的地!
「ごちそうさま、やっぱりタマゴサンドは美味しいね」
一番大きな鶏ハムを俺の皿から強奪した上にタマゴサンドを丸々一つ平らげたシャムエル様は、今はご機嫌でそう言ったきり尻尾のお手入れに夢中だ。
「相変わらずだねえ」
もふもふの尻尾の先を突っついてやりつつ、手早く出していた残りを片付けて立ち上がる。
「さてと、それじゃあ気は進まないけど行くとするか」
思いっきり嫌そうにそう言うと、三人に大笑いされたよ。
スライム達が手早くテントを撤収してくれるのを手伝いつつ、俺は横目で、ニニと並んでまだくっついて舐め合っているカッツェを見た。
「ううん、これは本当に二世誕生を期待しても良いかもな」
小さく笑ってそう呟くと、振り返ってマックスにもたれかかった。
「それじゃあ、またよろしくな。マックスの背の上にいると、安心だよ」
「任せてくださいね。何があろうと絶対にお守りしますからね」
鼻で鳴いてそう言うと、俺の体に甘えるみたいに頭突きしてきた。
「おう、頼りにしてるぞ相棒!」
大きな頭を力一杯抱きしめてそう言い、手早く鞍と手綱を装着した。
「お片付け完了〜〜!」
最後のテントの柱を一瞬で飲み込んだアクアゴールドがご機嫌でそう言うと、そのままゲルプクリスタルと並んで俺のところへパタパタと羽ばたきながら飛んできた。
そのまま鞄の中へ飛び込むのを見てから、俺は鞄を背負い直してマックスの背中に飛び乗った。
ハスフェル達も、それぞれのテントの撤収を終えて騎乗する。
「では出発!」
マックスの頭の上に座っていたシャムエル様が、立ち上がってちっこい手で前方を指さす。
ご機嫌で一声吠えたマックスとシリウスがいきなり走り出し、わずかに遅れてデネブとエラフィがその後を追った。
安全地帯の草原をあっという間に突っ切り、俺達は勢いよく飛び地の敷地内へ突っ込んで行ったのだった。
しばらく走り続けて森というほどには木々が密集していないそこを勢いを殺さずに駆け抜け、小川を飛び越え、段差のある岩場を駆け下り、到着したのは荒涼とした岩場が広がる岩石地帯だった。
「おお、飛び地ってなんとなく緑豊かなイメージだったけど、こんな場所もあるんだな。で、ここには何がいるんだ?」
マックスの背からはまだ降りずに周囲を見回す。
「あの、不自然なほどに全体に散らばる岩が気になる。あれは絶対に何かのモンスターだ」
見渡す限りの岩場には、直径1メートルを余裕で超える大岩が、あちこちに均等に散らばるみたいにして転がってる。しかも、どの岩も妙に丸い。
「あれ、驚かせようと思ったけど見つかっちゃったね」
マックスの頭の上に座ったシャムエル様が、振り返って残念そうに笑う。
「やっぱりそうか。それであれは何のジェムモンスターなんだ?」
岩から視線を外さずにそう尋ねると、一瞬で俺の右肩にワープしてきたシャムエル様が俺の頬を叩いた。
「何って、ケンの目なら見えるはずだよ?」
逆に不思議そうにそう聞かれてしまい、俺は首を傾げつつも前方に散らばる岩を見る。ほとんどの岩に少しだけ色がついて見えて思わず考える。
「あれ……この展開って何だか覚えがあるぞ……」
そう呟いた直後、近くにあった大岩がいきなり転がって動き始めた。
ゆっくりと震えた後に突然ゴロゴロと転がり始め、近くにあった別の岩にぶつかって止まる。しかしぶつかられた方がその反動でまた転がり始め、そのまま別の岩が集まっている箇所に向かって転がって行く。
ガツン! って感じの賑やかな音を立ててぶち当たった岩が、弾かれたみたいにあちこちにまた転がる。しかし勢いはそこで弱まり散らばったところで転がるのが止まった。
「ビリヤードかよ!」
まんま下手くそが打ったビリヤードそのものだったので思わずそう突っ込み、一瞬で取り出したミスリルの槍の穂先で、近くにあった岩を軽く突いてみる。
「硬い。表面はほんとに岩みたいだな。これは何のジェムモンスターなんだ?」
「あれはオーロラハードロック。ほら、以前戦った事があるでしょう? ブラウンハードロック。あれと同じような感じ。だけど出てくる素材は良いから頑張って集めてね」
「あの時って、確かハンマーでガンガンぶっ叩いて、俺の手の皮がずる剥けになって酷い目にあったんだったよな。じゃあこれもハンマーでぶっ叩くのか?」
「いや、あの時よりも従魔達もはるかに強いし、ケンが装備してる武器も強くなってるからね。今持ってるミスリルの槍だったら、余裕で貫けるよ」
シャムエル様がドヤ顔で教えてくれる。
「お空部隊に大きくなってもらって、上空から落として貰えば凝固も溶けるから、そうすれば他の従魔達でも余裕で戦えるぞ。お前は念の為マックスの背の上から槍で突けばいいさ」
笑ったハスフェルの言葉に、俺は笑って大きく頷いた。
「そうだよな。俺がノコノコ地上に降りて戦おうとしたら、死角から転がってきたオーロラハードロックに弾き飛ばされてぺちゃんこになってる未来が簡単に予想出来たよ」
俺の言葉に全員揃って大きく吹き出して大爆笑になる。
「己の力量をよく理解しとるな。ならばマックスの上で戦うがいいさ」
俺の言葉にそう言って笑ったオンハルトの爺さんは、エラフィの背から軽々と飛び降り、以前も飛び地で使ったあの長い鞭を取り出して構えた。
ハスフェルとギイもそれぞれの従魔から飛び降りて大きな槍を構える。
それを見た従魔達は全員が巨大化して周囲に散らばる。
「では、戦闘開始しま〜〜〜す!」
マックスの背の上で宣言したシャムエル様の声を合図に、お空部隊が全員巨大化して羽ばたき上空へ舞い上がると同時にまずは猫族軍団が転がる岩に向かって飛びかかっていった。
俺も構えていた槍を、近くの岩めがけて力一杯投げ下ろしたのだった。