神様達との関係って?
「……もしかして、迷惑だったりする?」
らしくない、ごく小さな声で遠慮がちにそう言われて、俺は驚きに目を見開いた。
「はあ? ちょっと待てよ。今の台詞でどこから迷惑だなんて考えが出てくるわけだ?」
身を乗り出すみたいにしてシャムエル様を覗き込みつつそう尋ねると、身繕いを終えたシャムエル様がゆっくりと立ち上がった。
「あのね、私にとってはケンから貰える食事は特別なの。そりゃあ美味しく感じるんだ。ほら、シルヴァ達も言ってたでしょう。ケンが供えてくれる料理はどれも美味しいって」
確かにその話は聞いたことがあったので頷く。
「それと同じ事。私の事を知り、存在を認識してくれているケンが渡してくれる料理は、それこそレタスの一枚だってすっごく美味しく感じられるんだ。想いがこもっているからね」
「へえ、そんなものなんだ」
そのあたりの話は、正直言ってよく分からない。
信仰心ほぼゼロの俺にしてみれば、創造神様、へえすごいねえ。この世界を作るって大変そう。くらいにしか思わないし、戦いの神様に調停の神様、それに鍛治と装飾の神様と一緒に旅をしているんだって聞いても、皆すごいなあ。くらいにしか思わない。
まあ実際、神様らしい事もないわけじゃあないけど、嬉々として一緒にカレーを作ってくれたり、俺が作る素人料理を喜んで食べてくれている姿は、どう見ても肉大好きな小学男子なんだもんな。
「あのね! そこなの!」
右肩に現れたシャムエル様が、ちっこい拳を握りしめて力説する。
「ケンは、私達が何者なのか知っても態度を変えなかった。一緒に旅をしている間も、大勢で押しかけても当然のように食事を作ってくれて、シルヴァ達が去った後も、彼女達のために祭壇まで作って当たり前のように食事を供えてくれる。それも、信仰心っていうよりも友情からくる行為。それが私達にとってどれほど稀有であり、どれほど嬉しい事なのかってのを、ケンは、全然、分かってくれていない!」
驚いてシャムエル様を見て、それからハスフェル達を見ると全員揃ってうんうんと力一杯頷いていた。
「ええと、それは単に、信仰心が無いだけなんじゃないかと……」
「だって、ケンは私達とは違う常識の世界から来たわけでしょう?」
「まあ、それはそうだけどさあ……」
「それなのに、いわば違う宗教である私達を拒否も否定もせずに受け入れてくれた。それが、私達にとってどんなに嬉しくて有難い事か。本当に感謝してるんだからね!」
珍しいシャムエル様の真剣な言葉に、俺は出来るだけ真面目な顔で聞いていた。
なんとなく、照れ臭いような何とも言えないむず痒いような気分になり、お互い苦笑いしながら様子を伺っていた。
「ご主人、全部綺麗にしたよ〜〜!」
その時、食器や鍋を綺麗にしてくれていたスライム達が、アクアゴールドになって元気に羽ばたいて俺のところへ飛び込んできた。続いてメタルスライム達が合体したゲルプクリスタルも飛び込んで来る。
「おう、いつもありがとうな。お前らがいてくれるおかげで、あと片付けは楽でいいよ」
「任せてね〜〜!」
「お手伝い、いっぱいするもんね〜〜〜!」
得意げにそう言って羽ばたく二匹を捕まえて、一緒におにぎりしてやる。
「きゃあ〜〜潰される〜〜〜」
「だ〜れ〜か〜助けて〜〜〜」
笑いながらの台詞だった為に緊迫感ゼロ。
でも、おかげでちょっと妙な雰囲気になったのは一瞬で消えちゃったよ。良かった良かった。
「ふふふ、逃げられると思うなよ〜〜!」
内心の安堵を隠すみたいに、俺は笑ってまるっきり悪役の台詞を吐きながら、スライム達をにぎにぎしていたのだった。
「さてと、それじゃあそろそろ休むか。明日は、一旦ここを撤収して奥へ入ってみよう、何か良さそうなのがいたら回収しながらな」
「そうだな。せっかく来たんだから頑張って回収しよう」
「そうだな。ここの素材も、バイゼンでは喜ばれるものが多いからな」
立ち上がったハスフェルの言葉に顔を上げたギイとオンハルトの爺さんも笑いながらそんな事を言ってる。
「回収って、一応それなりにレアなジェムモンスターと戦って得る素材やジェムを、回収とか言ってるよ。あいつら」
三人が笑いながらそう言ってるのを聞き、俺はおにぎりしている手を止めて呆れたみたいに呟いたよ。
「俺としては、それほどレアじゃなくてもいいから、危険なジェムモンスターが出ない事を願うよ」
小さく笑って立ち上がり、腕を伸ばして大きく伸びをする。
「それじゃあ戻るよ。ご馳走様」
「ご馳走様。今日も美味かったよ」
「全くだ。今日も美味かったよ。ご馳走様」
「おう、お粗末様。それじゃあ明日からよろしく!」
笑って頷き、三人揃って手を振ってそれぞれのテントへ戻っていく。
それを見送ってから、スライム達が机と椅子を片付けてくれてる間に巻き上げていたテントの垂れ幕を元に戻す。
「ご主人綺麗にするね〜〜!」
いつものサクラの声と同時に、一瞬で包まれた俺の身体はあっという間にサラサラ。汗も汚れも完璧に綺麗になってる
「ありがとうな。さて、それじゃあ俺ももう休むか。ああベリー、食事は大丈夫か?」
テントの中にゆらぎが見えた直後、いつものベリー達が姿を表したのを見て、慌ててそう尋ねる。
「はい、皆さんが食事をされてる間に、サクラちゃんに出してもらいましたから大丈夫ですよ」
笑ってそう言われて、安堵する。
最近は、従魔達の食事もスライム達が直接出してくれているから、ついつい忘れそうになるんだよな。
だけどたまにはスキンシップを兼ねて出してやってもいいかも。
まだまだ捌いてもらった肉はあるから、スプラッタはごめんだけどな!
寝る前のお約束。従魔達を順番に撫でたり揉んだりしながら、のんびりとそんな事を考えていた。
気が済むまで従魔達とスキンシップをした俺は、大きく欠伸をして肩を回す。
一応、ここは安全地帯とはいえ危険も無いわけじゃあない。
外の世界へ出るために進んできたジェムモンスターに突っ込まれる可能性だってないわけではないから、剣帯は外して剣と一緒に収納しておき、防具はそのまま寝る事にする。
まあ若干肩が凝ったりするけど、有り難いことにこの身体はかなり頑丈に出来てるので、それくらいの無理は余裕だ。
「ご主人、どうぞ〜〜!」
あっという間に片付けを終えたスライム達が、少し大きくなって合体してやや大きめスライムウォーターベッドになってくれた。
メタルスライム達が加わり、ベッドがさらに広くなったんだよな。
「ほら、ご主人、早く早く」
嬉々としてベッドに飛び乗ったニニとマックスが、揃って俺を見る。
「おう、では今夜もよろしくお願いしま〜〜す!」
くっついた二匹の隙間に潜り込む。
いつもよりも、若干マックスのひっつき具合が多いような気もするけど、幸せだから問題無い!
「はいこれ使ってね〜〜!」
スライムベッドから触手が伸びてきて、いつも使っている寝る時用の毛布を広げてかけてくれる。
いつものように背中にはラパンとコニーのうさぎコンビが巨大化して収まり、足元には大型犬サイズのセーブルが収まる。フランマとタロンが二匹揃って俺の腕の中へ飛び込んできた。どうやら今夜は二匹揃って一緒に寝たいみたいだ。
他の子達も、スライムベッドの横に集まって団子になる。
ベリーが嬉しそうにその中へ混じっているのをみてちょっと笑ったね。あれ、絶対笑み崩れてると思うぞ。
「それじゃあ、おやすみなさい」
ベリーの声と同時に、ランタンの明かりが一斉に消える。
「うん、おやすみ……」
もふもふのフランマの後頭部に鼻先を埋め何とかそれだけは答える。
だけど、もふもふとむくむくに包まれた俺は、目を閉じた直後にはもう眠りの国へ墜落するみたいに旅立って行ったのだった。
ああ、相変わらずうちの子達のもふもふの癒し効果はすごいよ……。