やっぱり肉は正義!
「ところで、そろそろ夕食の時間だよな」
ここへ来る前、バイゼンを出た時点で午後のかなり遅い時間になっていた。
その後駆けっこを兼ねて全力で走り、ここへ到着した頃には日が傾く寸前だったはず。
安全地帯なのだという草原に集まった俺達は、元の大きさに戻った従魔達と一緒に休憩していたところだ。
「ああ、そうだな。じゃあ、今夜はここにテントを張るか。それで明日からしばらくのんびりと中を周回しよう。俺達もここへ来るのは久し振りだから、変わってる箇所を調べておかないとな」
俺の言葉に立ち上がって大きく伸びをしたギイが笑いながらそう言い、そこで休憩は終了してまずはテントを張る事にした。
いつもの如く、俺はテントを張る場所を決めてメインの柱になる支柱を立てて持つだけ。
後はそれを起点に、優秀なスライムアシスタント達があっという間に大きなテントを完璧に張ってくれる。
「出来たよ〜ご主人」
「夕食は何にしますか〜〜?」
「そうだな。何にするかなあ。昨日は鶏肉で鍋にしたんだっけ。じゃあ、飛び地での最初の夕食だし、景気付けに肉でも焼くか」
そう呟いてテントの外へ顔を出す。
「おおい、夕食はステーキで良いか?何か希望があれば聞くけど?」
俺の声に振り返った三人が、同時に満面の笑みで揃ってサムズアップを返す。
「あはは、じゃあステーキに決定な。テントの準備が出来たらこっちへ来てくれよな」
笑って手を振りテントへ戻る。
もうその時には並んだ机の上にステーキ用のコンロとフライパン、そしてお皿やカトラリーが準備されていた。まだ外は明るいが、ランタンの準備も万端だ。
「もう優秀すぎるぞ。うちのスライム達」
小さく呟いて得意げに机の上に並んでいるスライム達を順番に撫でてやる。
改めて見ると、これだけの色と種類のスライム達が全員整列するとなかなかに壮観な眺めだよな。
「ご主人、お肉はどれを使う?」
サクラの質問に、即座に答える。
「もちろんグラスランドブラウンブルの熟成肉だよ」
「はあい、ステーキ用ならこれだね!」
そう言って、サクラが取り出してくれたのは見事に霜降りの入ったサーロインだ。
もう、ステーキにするためにあるような肉。
「じゃあ、分厚めにお願いするよ」
サクラに豪快に切り分けてもらい、筋切りして軽く叩いてから肉用スパイスに黒胡椒を追加で振りかけてからフライパンを火にかける。
「ああそうだ。また絶対シャムエル様に半分取られるだろうから、他にも何か焼いておくか」
少し考えて、クーヘンからもらったあのソーセージを取り出してみる。かなり大量にあったからちょっとくらい焼いてもポトフ用にはまだまだある。
「じゃあ、これは……あったらあいつらも絶対食うよな。よし、それなら他にも色々焼いておこう」
追加でコンロとフライパンも出してもらい、まずは先にメインのステーキを焼き始める。
「じゃあこっちのフライパンでソーセージを焼いて、こっちのフライパンでは厚切りベーコンも焼いておくか。こっちは残ったら明日の朝に食べてもいいもんな」
並んだフライパンを順番に揺すりながら、明日の朝食の段取りまで自然に考えてる自分がちょっと面白かったよ。
「おお、美味そうだ。しかもステーキだけじゃあなくて今夜は色々ありなのか?」
テントにやって来た三人が、並んだフライパンの中を見て大喜びしてる。
「いいだろう? がっつりステーキ、後は好きに食え作戦だよ」
拍手喝采の三人にとりあえずドヤ顔を返しておき、ステーキをトングで掴んでひっくり返しながらサクラにサイドメニューを色々出してもらう。温野菜もたっぷり出してもらい、ワカメと豆腐の味噌汁も出してもらうと、それはギイが小鍋に取り分けて温めてくれた。
ハスフェルは簡易トースターの前でギイと自分の二人分のパンを焼いてる真っ最中だし。オンハルトの爺さんは、何故かお酒の瓶を机の上に並べ始めてる。
「俺はさすがにここでは禁酒するよ。酔っ払って何かあったら洒落にならないからな」
ソーセージを転がしながら苦笑いでそう宣言すると、それを聞いたサクラがさっと冷えた麦茶を取り出してくれた。
「おう、ありがとうな」
ビールくらいは飲んでもいい気もしたんだけど、絶対そのまま酒盛りに突入する未来が見えるのでここは自重自重。せっかくの飛び地なんだから、俺だってちょっとは暴れたい。
明日からのここでの戦いがどうなるのか考えて、楽しみになってくる俺だった。
「味噌汁温まったぞ」
ギイの声に、ハスフェルとオンハルトの爺さんがお椀を持って集まる。
「ケンもいるだろう?」
「おう、お願いします!」
いつも俺が味噌汁用に使っているお椀を手にしたハスフェルの声に、ベーコンをひっくり返していた俺は返事をして左手を上げておいた。
各自、それぞれのサイドメニューやなんかは好きに用意してくれるので、俺は特に何もしなくていいから楽でいいよ。
「サクラ、俺はご飯が食べたいから普通のご飯の入ったおひつも出しておいてくれよな」
「はあい、了解です!」
元気な返事と同時に、ご飯入れにしている木製のおひつが取り出される。
オンハルトの爺さんがおひつに駆け寄るのを見ながら、俺は焼き上がったステーキのコンロの火を消した。
「焼き上がったぞ〜〜お皿集合!」
嬉々として差し出されるお皿に、分厚いステーキを乗せてやる。
「こっちは好きにどうぞ。これはクーヘン一家からの差し入れのソーセージだよ。めちゃめちゃ美味そうだ」
表面の皮がパリッと焼けてて、あちこちひび割れて肉汁があふれている。
「おお、これは素晴らしい。これは是非ともいただかないとな」
ハスフェルが用意してくれていた俺の分のお皿に、まずは自分のステーキを乗せ、焼いたソーセージも丸ごと一本もらう。
「ううん、ベーコンは……よし、一枚だけもらおう」
さすがにこれ以上は俺の胃袋には多すぎる気がしたので、一応控えめにとっておく。
「ええ、私は一枚欲しいです!」
いきなり頬を叩いたシャムエル様の宣言に俺だけじゃなくて、横で聞こえギイとハスフェル達までが揃って吹き出す。
「肉食リスは健在だな。了解、ソーセージは? まさかと思うけど……」
「そんなの半分に切ったら、せっかくの肉汁が全部こぼれちゃうじゃない。当然一本いただきます!」
そのあまりに堂々とした宣言っぷりに、笑った俺はもう一本ソーセージを取って、無理矢理お皿に乗せたのだった。