職人さん達と貴重な素材
「全く。素人にこれだけの素材を自力で持ち込まれたら、受ける職人としては張り切るしか無いよなあ」
ハスフェル並みの物凄く大きなため息を吐いたフュンフさんがそう言い、置いてあったミスリルの塊をそっと撫でた。
「ここまで見事な純粋な塊は俺も初めて見るよ。正直言って砕くのは惜しいが、これなら防具を作るのにも使えるだけの量が充分過ぎるくらいにあるな」
振り返ってエーベルバッハさんの後ろに並んでいるドワーフ達を見る。
「もちろんだ! 生涯最高の仕事をさせてもらうぞ」
「全くだ。これだけの素材を持ち込まれたら、命かけてやるぞ以外の言葉は言えんわい」
ガハハと笑いながら、皆が順番にミスリルとオリハルコンの塊を撫でる。その真剣な手つきはまるで赤ん坊を撫でているかのようで、見ていてちょっと笑っちゃったよ。
「ああ、紹介が遅くなったが、彼らが俺が推薦する職人達だよ。腕は保証する」
エーベルバッハさんの言葉に、ドワーフ達が一列に並ぶ。
「アンゼルムだよ。武器職人だが革細工を主に扱ってる。フュンフとは結構長い付き合いでな。彼が作る武器の鞘や周辺の小物の装備を担当させてもらうよ。よろしくな」
「ああ、ケンです。よろしくお願いします」
差し出された大きな分厚い手を握る。
あちこちに硬いタコが出来たその手は、紛う事なき職人の手をしている。
「ディートヘルムだ。防具専門だよ。よろしくな」
「ケンです。よろしくお願いします」
「ギュンターだよ、俺も防具専門だ。よろしくな」
「ケンです。よろしくお願いします」
「ホルストだよ。俺は武器も防具も作る。まあ、何でも屋のお助け役みたいなもんだな」
笑ってそう言うが、エーベルバッハさんが連れて来ているって事は彼も相当な腕前なのだろう。
「よろしくお願いします。ええと、それで皆さんにお願いしたいのはこの辺りになりますね」
一通りの挨拶が済んだので、改めて使えそうな素材を取り出していく。
「ええと、一通りの装備を作って欲しいんですが、とりあえずメインの素材を出しますね」
そう言いながらカブトムシの前羽と角のついた頭を取り出して並べ、その隣にカメレオンセンティピート、そうあのオオムカデの殻も自分用に選んだ分を取り出す。
それからキラーマンティスの鎌も思い出して並べておく。
「ええと、あとはクワガタの角だな」
一応、今回はそっと丁寧に机の上に並べたよ。
ドワーフ達は全員が沈黙したまま、穴が開きそうなくらいに並んだ素材をガン見している。
「ええと、俺は武器や防具の製作に関しては全くの素人なんで分からないんですが、今出した素材以外だとあとは何が要りますか?」
分からない事は素直に聞くのが一番。
「トライロバイトの角を出していたが、まだあるか?」
「もちろんありますよ。どれくらい要りますか?」
「全部を錬成するなら二十本は要るんじゃないか?」
「確かにそれくらいは使いそうだな」
やや声を潜めて相談する彼らを見て、俺はとりあえずまとめて九十本取り出した。
「さっきフュンフさんには十本出したんですけど、じゃあそれに追加して全部で百本出しておきますね。遠慮なく使ってください」
職人さん達の口から呻き声がもれる。
「良いのか? 貴重な素材だ、売れば高く売れるぞ」
「いやあ、ここで使ってもらおうと思って溜め込んでる素材が山程あるんですけど、他に使えそうなのって何がありますか?」
「それじゃあ、皮の素材は何がある?」
真顔のアンゼルムさんに聞かれてちょっと考える。
「ええと、それならこの辺りかな?」
飛び地で集めた、カンガルーの革を取り出す。それからカモノハシの毛皮。それから思い出してハリモグラとハリネズミの大小の針も取り出してみた。
「おお、これは素晴らしいが……お前さん、暗器も使うのか?」
「へ? あんきって……」
一瞬、何を言ってるのか分からなくて考える。
「要するに、隠してもつ殺傷能力の高い武器の事だよ。護身用に持つ投げナイフとは桁が違うぞ」
にんまり笑ったハスフェルにそう言われて遠い目になる俺。
「すみません。これはいらなかったですね」
黙って素材を下げる俺を見て、ハスフェル達と職人さん達が揃って苦笑いしていた。
「あ、革ならこんなのもありますね」
同じく飛び地で手に入れたカメレオンソルティの、いわゆるワニ革も取り出す。
「お前さん一体どれだけの素材を持ってるんだ」
呆れたようなアンゼルムさんの言葉に、俺は笑って肩をすくめた。
「いやあ、多分無いものを探す方が早そうなくらいに何でもありますよ」
「なら、恐竜の鉤爪はあるか?」
真顔のフュンフさんの言葉に、ホルストさんも真顔で振り返る。
「ありますよ。ええと鉤爪なら、翼竜のとラプトルあとはディノニクスかな」
取り出した巨大な鉤爪を見て、また全員が一斉にうめく。
「あ、そう言えばこんなのもありますよ」
そう言って取り出したのは、最初の頃にクーヘンと協力して戦ったパキケファロサウルスの頭部の素材。それから、アンキロサウルスの素材だった。
「おお、これまた素晴らしいのがあるじゃあないか。どれ」
机の上に適当に取り出して並べると、オンハルトの爺さんが手を伸ばして幾つかをそっと手に取り撫でてくれた。
「ならこれを使うと良い。良い短剣が出来るぞ」
そう言って渡してくれたのは、ベリーが集めてくれた翼竜の鉤爪だ。
「じゃあこれでお願いします」
そう言って、それを横に避ける。
「アンキロサウルスの棘やパキケファロサウルスの頭は、良い籠手や脛当てになる。良いでは無いか。これで作ってもらえ」
笑ってそう言い、また幾つかの素材を取り出して渡してくれたので、それも横に避けて置く。
「じゃあこんなものですね。これでお願いします」
俺の言葉に、職人さん達が全員揃って大きく頷き改めてもう一度全員と握手を交わしたのだった。




