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超貴重な素材とドワーフ達

「おお、見えて来た。あれが商人ギルドの建物だな」

 到着した商人ギルドだったけど、やっぱりこっちから名乗る前にスタッフさんが出て来てさっさと奥へ案内してくれた。

 当然のようにハスフェル達も従魔達もついて来る。



「ああ、来てくれてたんですね。お待たせして申し訳ありません!」

 案内された部屋には、すでにフュンフさんが来て座っていた。

「ああ、俺も今来たところだ。お気になさらず。まあ座ってくれ」

 笑ってそう言われたので、一礼して向かい側の席へ座らせてもらう。

 ここは会議室みたいになった何もない部屋で、置いてある机や椅子もシンプルなものだ。まあこの方が気を使わなくて良いんだけどね。



「それで早速なんだが、ヘラクレスオオカブトの剣をご希望との事だったが、持っている素材を見せてもらってもいいか」

 身を乗り出すみたいにして聞いてくるフュンフさんを見て、俺はにっこりと笑った。

「もちろんです。じゃあ出しますね」

 そう言って、まずは肝心のヘラクレスオオカブトの角を取り出す。

 いきなり、フュンフさんから奇妙な呻き声が聞こえた。

「ええ、どうなさったんですか?」

 目を見開いて固まっているフュンフさんを見て、逆に俺の方が慌てる。

「こ、これは素晴らしい……ここまで見事な角は初めて見る……」

 これは、オンハルトの爺さんに見てもらって、一番良いのだからこれで作れと教えてもらった角だ。

「それから、これも使うって聞いたので、どれくらい使いますか?」

 そう言って取り出したのは、あの地下迷宮で大量に集めたトライロバイトの角だ。

「おお、これまた素晴らしい。そうだな、念のため五本出してもらっていいか。これほどの角なら、おそらく錬成にも相当な時間がかかるだろうからな」

「じゃあ十本預けておきます。せっかくだから良いものを作って欲しいですからね」

 そう言いながら適当に十本取り出して並べる。

 これは、聞くところによると大きさや形で特に効果は変わらないらしいので、選り好みはしなくていいらしい。

「それから、これがミスリルの原石で……」

 そう言って、俺がミスリルのあの原石を取り出した瞬間、フュンフさんが勢いよく噴き出した。

 それは何事かと従魔達が揃って飛び起きるくらいの大きな音だったよ。



「お、お、お前さん、なんて物を簡単に取り出すんだ!」

 いきなりそう叫んだフュンフさんがものすごい勢いで立ち上がる。

「ええ、そんな事言われても……」

「これは……原石のように見えるが、間違い無く純度100クラスの純粋なミスリルだ。これ程の塊を作ろうと思ったら、ここの鉱山で取れる原石でも相当量を使うぞ。全くとんでもない」

 最後は半ば呆れたようにそう言われてしまい、俺は次を出すタイミングを逸してしまった。

「何だ? まだ何かあるのか?」

 鞄に手を突っ込んだまま止まっている俺に気づいたフュンフさんが、不思議そうにそう尋ねる。

「あの、これもありましてですねえ。一緒に使っていただこうと思ってるんですけど……」

 さすがに重すぎて片手では持ち上げられなかったので、両手を突っ込んで取り出す。

 反動をつけて勢いよく机の上に転がすみたいにして取り出したオリハルコンの原石を見て、悲鳴を上げたフュンフさんは、座りかけた椅子から転がり落ちた。



「なんて事しやがる! そんな超貴重なお宝素材をそんな乱暴に扱うんじゃねえよ!」

 いきなり復活した真顔のフュンフさんに大声で怒られてしまい、慌てて謝る俺。ごめんよ、俺ってどうにも素材の扱いが乱暴みたいだ。別に乱暴にしているつもりはないんだけどなあ……。



「何だ、どうした〜〜!」

 その時、ノックの音も無しにいきなり部屋の扉が開き、飛び込んで来たのはドワーフギルドのエーベルバッハさんだった。

 その後ろには、何人ものドワーフ達の姿も見える。多分、あれが防具をお願いする職人さん達なのだろう。

 しかし全員の視線は俺でも立ち上がったフュンフさんでもなく、机の上に置かれた、今取り出して俺が転がしたあの素材に集中していた。



「ちょっと待て、俺の目がおかしくなっていないんであれば……あの輝きは、ミスリルと、オリハルコンか……?」

「俺の目にも、そう見えるなあ」

 いっそのんびりしているような後ろのドワーフの声が聞こえる。

「しかもあの輝き。あれはどう見ても相当高度の純度と見た」

「うん。俺もそう思う」

「ワシもそう思うなあ」

「これはとんでもない」

 などと、口々に言い始めるドワーフ達。



「これはどちらも、純度100だよ、ミスリルとオリハルコンのな」

 にっこりと笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、今度はエーベルバッハさんとドワーフ達が揃って悲鳴を上げた。

 そのまま勢いよくこっちへ揃って駆け込んで来た。

「一体、一体これほどの純度の塊をどこで手に入れたんですか!」

 エーベルバッハさんの叫ぶ声と、フュンフさんの叫ぶ声が響くのは同時だった。

「ええと、これはカルーシュ山脈の麓にあった地下迷宮の最下層で手に入れたお宝です」

 遠慮がちな俺の言葉に、全員が黙る。

「しかも、今そこは完全に閉鎖されていて作り直しの真っ最中だよ。次に開くのがどれくらい先になるかは俺達にも分からないなあ」

 目を見開くドワーフの皆さんに、笑ったハスフェルがそう言ってまたあの地図を広げる。

 詳しい説明をする彼の話を、ドワーフ達は全員揃って言葉も無く真剣に聞き入っていた。



「最下層を誰かが攻略すると、洞窟自体を完全に閉鎖してしまい新たに作り直す。とんでもないなあ、そんな洞窟は初めて聞くぞ」

 呆れたようなエーベルバッハさんの言葉に、ハスフェルとギイが揃って肩を竦める。

「だが現実に、もうあの地下迷宮には入れなくなっている。まあ時々様子を見に行って、変化があれば教えてやるよ。ドワーフ達なら、あそこでも遅れをとるような事はあるまい」

「だが、行くならパーティーを組んで行けよ。マッピングの出来る奴がいればなお良しだな」

「ああ、それならうちの街の冒険者に何人かいるから、行く時にはそいつを連れて行こう。そして徹底的に調べ尽くして、最後に最下層のお宝を採ればいいんだな」

 すっかりやる気になってる彼らを見て、俺はあの最下層を思い出して一人遠い目になっていたのだった。



 俺はもう、二度とあの地下迷宮には行きたくないよ。

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