いつもの大量買い!
「はあ、満足満足」
結局、俺からぶんどったあの分厚いハムサンドを完食したシャムエル様は、今はマックスの頭の上に戻ってご機嫌で尻尾のお手入れの真っ最中だ。
「大食漢の肉食リス、ちょっと怖いぞ」
苦笑いしながらそう呟き、横から手を伸ばしてもふもふな尻尾の先を突っついてやる。
「尻尾を突っついちゃあ駄目です!」
取り返した尻尾の先を、ぺしぺしと払われてちょっと傷付いたぞ。
「ええ、ちょっとくらい良いじゃんか。減るもんでなし」
「大事な毛が減るから駄目です!」
「そりゃあ申し訳ありませんねえ」
無駄にキリッと言われてしまい、ついつい謝ってしまう悲しき元営業マン。
とりあえず、マックスにはそのままここで待っていてもらい、さっきのお店へ行って作れるだけハムサンドを作ってもらう。ハスフェルお勧めの焼いたハムの塊も、良いと言ってくれたので遠慮なく駆逐させてもらった。
それ以外にも、あの大きな肉をそぎ切りにした肉バーガーもあると言うので、これも作れるだけ作ってもらった。
「よし、これで後は朝の広場の屋台で聞いたパン屋へ行って色々と買ってくれば、肉系のサンドの在庫はかなり充実するぞ」
まとめてバットに並べてもらい、お礼を言って一旦朝市の通りから離れた。
そのまま、もらったチラシの地図を頼りにパン屋を目指してぞろぞろと通りを歩く。
するとメタルブルーユリシスを売ってくれた魔獣使いの一行だって声がどこかから聞こえてきて、その度にあちこちから声が掛かり、俺達は苦笑いしながら手を振りかえす羽目に陥っていたのだった。
「おお、あれがその店だな。何々、小麦とカササギ亭。へえ、パン屋とカフェを兼ねてるんだ」
到着したその店は、手前側の壁の部分が大きなカウンターみたいになってて、椅子が並んでいる。座っている人の前には、木製のトレーに乗せられたパンとマグカップが置かれている。どうやら、そこで簡単な食事も出来る様になってるみたいだ。
店の中は、綺麗な白木の棚が奥の壁面にぎっしりと並んでいて、そこに大きなトレーに乗せられた様々なパンが所狭しと並べられていた。
店の奥には工房があって元気な職人さんの声が聞こえる。奥に窯があって焼けたらそのまま店に出してるようだ。
ううん、理想的な焼きたてのパン屋さん。
「どうやら、あのカウンターの横にいる店員さんに頼んで取ってもらうシステムみたいだ。なあ、ここはお任せで頼めば、大量買いしても許されそうじゃね?」
「うん、良いと思うぞ。この店は以前俺がバイゼンに来た時には無かったなあ。新しい店のようだがこれは良い。どれも美味しそうだ」
ハスフェル達も店の奥に並んだパンを見て嬉しそうにしている。
「じゃあ、お願いしてこよう」
にんまりと笑って、待機しているエプロンをしたやや年配の女性に話しかけた。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「いらっしゃいませ。ええ、すごく大きな鳥さんだねえ。だけどうちはパン屋だからさ、お願いだから羽ばたかせないようにしておくれね」
優しそうな笑顔でそう言われて、俺は慌てて後ろに下がってファルコをハスフェルに預かってもらった。
そうだよな。そのまま食べる食品がむき出しになって並んでいる店に、動物を連れてきちゃあ駄目だよな。
「すみませんでした」
身軽になって戻ると逆に謝られてしまい、二人してペコペコと謝りあってると言う妙な図になってしまった。
「何をやってるんだよ。お前は、早く用件を言えって」
「ああそうだった!」
呆れたようなハスフェル達の笑う声に、我に返って顔を上げる。
「あのですね。広場の屋台でそちらのパンを食べたんです。それですごく美味しかったので、出来れば大量にパンをお願いしたいと思いまして」
ちょっと恐縮しながらそうお願いすると、店番のおばさんはすっごく良い笑顔になった。
「もちろん喜んで、どれが良いですか?」
棚には、俺が食べたあのホットドッグやチキングリルサンド以外にも、いろんな種類のサンドイッチやバーガーをはじめ、惣菜パンも色々並んでいる。
「じゃあ、お任せしますので、ここに入れてもらえますか」
空いている木箱を取り出すと、一瞬驚いたみたいに目を見開いたおばさんはいきなり笑い出した。
「すごいねえ、あんた収納の能力持ちだったのかい。じゃあお任せでいいならこの辺りかねえ」
木箱を持ったおばさんが、ガッツリ肉系を中心にどんどん木箱に入れて行ってくれる。
ちゃんと数を数えながら入れているみたいで、時々戻ってきてメモを取りながら集めてくれる。
結局空いている木箱全部にぎっしり入れてもらい。まとめてお金を払って店を後にした。
「ううん、あれだけあれば当分パンには困らなさそうだ。タマゴサンドも種類があったから、全種類ガッツリ入れてもらったもんな」
俺の言葉に、マックスの頭に座ったシャムエル様が嬉しそうにうんうんと頷いている。
「確かにどれも美味そうだったな。じゃあ明日からは朝はのんびりして宿で食ってもいいかもな」
俺とオンハルトの爺さんが顔を見合わせてそんな話をしていると、後ろからハスフェルに肩を叩かれた。
「冬場はこの辺りは天気が悪くなって外出がままならない事も多いから、出来ればすぐに食べられる買い置き品は多めに冬籠り用に置いておいた方がいいぞ」
「へえ、そうなんだ。ああ確か雪が降るとか言ってたもんなあ。了解、じゃあ冬に備えてまた色々買い足しておくよ」
「ああ、よろしくな」
笑ったハスフェルの言葉に、俺も笑って頷く。
「へえ、雪が降るのか。積もるくらいの雪なんてほとんど見た事が無いからなあ。ちょっと楽しみだよ」
商人ギルドへの道を歩きながら、この街が雪に埋もれる様子を想像して楽しみになった俺だった。