朝食と今日の予定
「おお、相変わらず賑わってるなあ」
到着した広場を見回してそう呟く。
しかも、あちこちの屋台や通行人達から元気に挨拶されて驚きつつも笑顔で挨拶を返した。
「なんだか知らないけど、ハンプールにいた時みたいに街の人達がフレンドリーだよ」
「そりゃあお前、昨日のここでの騒ぎをもう忘れたのか。しかもあの後にはメタルブルーユリシスだけじゃなく、他の素材やジェムも大量に持ち込んでくれたんだから、街の人達にしてみれば、俺達は救世主様御一行くらいの気持ちなんじゃねえか?」
笑ったギイの言葉に、納得した俺も笑って頷く。
「そういう事か。別に俺達はいつも通りなんだけどなあ」
肩を竦めてそう言い、昨日も買ったパン屋で、タマゴサンドを二つと鶏肉の胸肉のグリルが丸ごと一枚挟んだサンドイッチをもらう。
次にダンディなコーヒー屋さんの屋台で、本日のブレンドコーヒーをマイカップにたっぷりと入れてもらった。
それから昨日と同じ場所にマックスを座らせて、投げ出したマックスの足に座らせてもらう。
「はい、シャムエル様はタマゴサンドだな」
最近の定位置のマックスの頭の上に座ったシャムエル様にタマゴサンドを丸ごと一つ渡してやり、今日はアクアが出てきて、マックスの背中に広がって作ってくれた即席テーブルにマイカップを預けておく。
タマゴサンドも預けておき、まずは胸肉のグリルサンドを食べてみた。
「おお、これまたお肉がふっくらジューシーでめちゃめちゃ美味いじゃんか。しかもスパイスが効いてて更に美味しい!」
予想以上の美味しさにそう言いながら食べていると、いきなりシャムエル様が俺の右肩にワープしてきて俺の頬をぺしぺしと叩き始めた。
「はいはい、食べてみたいわけね。じゃあ先に好きなだけどうぞ」
気にせず齧りかけのグリルサンドをシャムエル様の目の前に差し出してやると、嬉々として真ん中の大きな肉の塊に齧り付いた。
「ふおお〜! これは確かに、これは確かにすごく美味しい!」
最初はご機嫌で尻尾を振り回しながらもぐもぐと食べていたんだけど、いきなりそう叫んだシャムエル様は、なんと真ん中の肉の塊を両手で掴んで引っ張り出そうとし始めた。
一枚の胸肉だから当然丸ごと引き摺り出されそうになり、俺は慌ててシャムエル様を止めた。
「だあ〜! ちょっと待ってくれって、そんな事されたら俺が食うのがパンだけになっちまうって!」
手ではみ出しかけた鶏肉を無理矢理押し戻して、一旦サンドイッチもアクアに持っててもらう。
「待ってろ、もう一つ買ってくるからそっちを食ってくれ」
目を輝かせてうんうんと頷くシャムエル様を肩に乗せたまま、俺はもう一度パン屋の屋台へ出向き、シャムエル様に胸肉のグリルサンドを買ってやった。
「あの、後で取りに来ますんで、この辺りってまとめ買いさせてもらっても構いませんか?」
先ほどよりもかなり減った品揃えを見て、若干不安になりつつそう尋ねてみる。
「おや、さっきの魔獣使いさんだね。嬉しい事を言ってくれるじゃないか。だけどごめんよ。もう今の在庫はここに並んでる分だけなんだよ。昼前には、また追加を店からたっぷり持って来てくれるんだけどねえ」
屋台の店番をしていた俺の倍くらいは横幅がありそうなふくよかなおばさんが、俺の言葉に並んでいる在庫をちらっと見てから申し訳なさそうにそう教えてくれた。
「あれ、そうなんですね。ええと、その店ってどこにあるんですか? なんならそっちへ行きますけど」
「悪いね。そっちなら在庫はかなりあると思うし、もし無ければ注文してくれればすぐに用意するからね」
明らかに安堵した様子のおばさんがそう言い、店のチラシを渡してくれた。
葉書サイズよりも小さないかにも手作りなそのチラシには、簡単な手書きの地図と店の名前が書かれていた。
「へえ、こんなのがあるんだ。ありがとうございます、じゃあ後で店へ行ってみます」
チラシは無くさないように自分で収納してからマックスの元に戻る。
広場を見渡すと、今日はハスフェル達もそれぞれの騎獣を連れているだけで、スライム以外の残りの子達はどうやら全員宿泊所で留守番しているみたいだ。
広場のあちこちに広がって、仲良くくっついて食事をする彼らを見て何だか嬉しくなる。
「皆、気を遣ってくれてるんだな」
昨日の騒動を思い出して苦笑いした俺は、手を伸ばしてマックスを撫でてやってから残りのサンドイッチとコーヒーを味わって美味しくいただいたのだった。
「さてと、お前らはどうする? 俺はちょっと朝市を見に行くけど」
「せっかくだから俺達もご一緒させてもらうよ。ここの朝市は賑やかだぞ。俺も何度か行って果物や肉の焼いたのを塊で買った事があるよ」
ハスフェルの言葉にギイも笑って頷いている。
「へえ、ここの朝市は生鮮食料品だけじゃなく、そんなのもやってるんだ。良いねえ、肉の塊。是非ともゲットしようじゃないか」
嬉しくなってそう呟き、アクアが綺麗にしてくれたマイカップを収納していざ出かけようとしたら、丁度フュンフさんが俺に向かって手を振っているのに気が付いた。
「おはようございます」
手を振り返して声をかけると、いろんな包みが入った籠を手にしたフュンフさんも笑顔で近寄ってきた。
「おはようございます。よければ今日、ご注文の件で相談したいんですがいかがですか?」
にっこり笑ってそう言われた俺も満面の笑みになる。いよいよ念願のヘラクレスオオカブトの剣の注文だよ。
「是非お願いします。ええと、今から朝市を見に行こうと思っていたんですけど、時間はどうしますか?」
「それなら、昼食の後に午後から商人ギルドへ来ていただけますか、あそこなら商談用の小部屋を貸してくれますから、そこでゆっくり話しましょう」
「了解です。それじゃあよろしくお願いしますね」
がっしりと握手を交わして、パン屋の屋台へ向かうフュンフさんを見送る。
「よし、じゃあ今日の買い物は午前中で済ませるべきだな」
マックスの背中に軽々と飛び乗った俺は、同じくそれぞれの騎獣に乗ったハスフェル達と一緒に、まずは朝市を開催している通りへ向かったのだった。