夕食と酒盛り
「だあ〜! もう資金は充分すぎるくらいにあるからいいって言ってるのに〜〜!」
簡易祭壇の下に積み上がった前回以上の量の金貨の山を見て、俺はそう叫んで頭を抱えた。
「あ、あいつら……」
「どれだけ嬉しいんだよ……」
吹き出したハスフェルとギイが、揃って笑いすぎて出た涙を拭いながらそんな事を言ってまた笑う。
「いいじゃないか。あって邪魔になるものでなし。どうせ使うんだから遠慮せずにもらっておけば良いさ」
こちらも笑いながらそう言ったオンハルトの爺さんが、ゆっくりと立ち上がって積み上がった金貨の山の側へ行く。
「これらの金貨は、恵みの雫、と言ってな。唯一、神界にいる彼らが出来るこの世界への手出しなのだよ」
聞いた事が無いくらいの優しい声でそう言ったオンハルトの爺さんは、そっと金貨の包みに手を触れた。
「渡りし良き手に幸いあれ」
ごく小さな声でそう言い手を引っ込めるのを見て、俺は戸惑うように爺さんを見た。
「ええと、今何したの?」
「なんでもない。ちょっとしたお節介だよ」
振り返って笑ったオンハルトの爺さんは、積み上がった金貨を飛んで行ったアクアゴールドにまとめて渡してくれた。
「それは家の購入資金に充てる分だから、他とは別にしておいてくれよな」
「はあい、でもご主人。以前そう言って預かった分もそのままだよ。あれと一緒にしておく? それとも別に管理した方が良いですか?」
自分の鍋を持って席に戻ったところだった俺は、アクアゴールドの言葉に思わず振り返った。
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよ〜どうする?」
パタパタと羽ばたいたアクアゴールドの言葉に、とにかく自分の椅子に座って冷えたビールの栓を抜きながら考える。
「ああ、そっか。ハンプールでの家の契約の時って、青銀貨をマーサさんに渡しただけで、実際には金のやりとりは俺は一切やってないんだった」
グラスにビールを注ぎながら、小さく笑って飛んできたアクアゴールドを撫でてやる。
「じゃあ今度はそれをまとめて使おう。前回の分と一緒にしておいてくれるか」
「はあい、了解です!」
アクアゴールが得意げにそう言い、一斉にばらけてスライム達になって床に転がる。
サクラが甘えるみたいに俺の膝の上に飛び上がってから、また床に転がってアクアの隣へ並んだ。
そのままくっつきあって仲良くモゴモゴやっているのを見て、小さく笑った俺は改めて手を合わせて夕食の水炊きをまずはポン酢のお皿に取る。
目を輝かせて見ているシャムエル様の尻尾をこっそり突っついてから、胡麻だれの入った小鉢を見せる。
「今入れたこっちがポン酢。それでこっちが胡麻だれだよ。どっちがいい?」
「両方お願いします!」
予想通りの答えとともに、もう一つお椀が差し出される。
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
笑ってお椀を受け取り、ポン酢と胡麻だれを少しずつ入れてから、小鍋からぶつ切りにしたハイランドチキンのもも肉や、野菜や豆腐などを彩りよく入れてやる。
ポン酢には刻んだネギもどき、胡麻だれにはすり胡麻を散らせば完成だ。
「はいどうぞ。肉は熱いと思うから気をつけてな」
グラスにビールも入れてやり、目の前に並べてやる。
「ふおお〜〜〜美味しそう! では、いっただっきま〜す!」
尻尾を膨らませつつそう言ったシャムエル様は、まずはポン酢のお皿に入ってるハイランドチキンの塊肉をつかみ出した。
「美味しい! だけど熱い! でも美味しいから許す!」
尻尾をブンブンと振り回しつつ、謎理論でまとめたシャムエル様はものすごい勢いで肉を齧り始めた。
「肉食リス再びかよ」
笑った俺も、ビールをぐいっと一口飲んでから自分の分を食べ始めた。
自分で作って言うのもなんだけど、久し振りの鍋はめっちゃ美味しかったです。
最後は締めの雑炊まで作り、これまたシャムエル様に大喜びされたのだった。
「はあ、腹一杯だよ。しかし、今日は色々あった一日だったなあ」
そのまま酒盛りになり、俺は冷やした吟醸酒をちびちびと飲みながら色々とありすぎなくらいに色々あった今日の出来事を順番に思い出していた。
「フクシアさんは、ちゃんと寝たかねえ」
「絶対、仮眠だけして今頃は工房に戻ってそうだよな」
オンハルトの爺さんの言葉に、俺も全く同じ事を思っていたので笑って頷く。
「まあ、好きな事に夢中になるのは分かるけど、ほどほどにしてくれないとな。無茶して体を壊したりしたら元も子もないって」
ため息と共にそう言って、残りの吟醸酒を飲み干しておかわりを手酌で注ぐ。
「それから、マックス達のあの拗ねっぷり」
「あれには驚いたよなあ。だけど、我々を背に乗せるのがあの子達の存在意義であり矜持だったんだから、それが根底から崩壊するかもしれないとなれば、そりゃあ、ああなるのも納得だな」
「俺にしてみれば、どの子も側にいてくれるだけで十分過ぎるくらいに最高に幸せなんだけどなあ」
俺の呟きに、オンハルトの爺さんだけでなくハスフェルとギイも真顔で何度も頷いていたのだった。
「それじゃあそろそろ休むか。明日はどうするのかねえ」
立ち上がって大きく伸びをする俺の呟きに、まだしっかり飲んでるハスフェルが振り返る。
「お前さんの武器と防具の相談が最優先なんじゃないか?」
ハスフェルの言葉に、俺は笑って大きく頷く。
「まずはフュンフさんにヘラクレスオオカブトの剣の製作を依頼して、それから商人ギルドで防具を作る職人さんを紹介してもらうんだな」
「そうだな。まずはそこからだな」
「地下迷宮で集めた、ミスリルとオリハルコンがやっと役に立つな」
もう一度大きく伸びをした俺は、大騒ぎだった地下迷宮でのあれやこれやを思い出してちょっと遠い目になる。
だけどまあ、散々死ぬような思いをした地下迷宮だったけど、その苦労を補って余りある最下層で見つけた超レアなお宝が、あのミスリルとオリハルコンだったんだものなあ。
いよいよあれが役立つ時が来たぞ。
どんな装備になるのか考えてワクワクしながら、俺は立ち上がってそれぞれの部屋へ戻るハスフェル達を笑顔で見送ったのだった。
今までとはちょっと違った雰囲気と世界観の、女性が主人公の異世界転生もの。
「空の彼方に」
つい書き始めたら止まらなくなりまして(笑)
せっかくなので、これも公開することにしました。
何と、初めての異世界恋愛物に挑戦です!
これは、のんびり更新にする予定ですので、お時間がありましたら読んでみてください。
そうぞよろしく!