お前が一番だって!
「だって……もうその動く道具があれば、ご主人に私達は必要ないんでしょう?」
消え入りそうなマックスの訴えに、驚きのあまり俺は呆然としたまま咄嗟に返事が出来なかった。
それを見て、せっかく顔を上げたマックスが、また前脚の隙間に鼻先を突っ込んで俯いてしまう。
「お、お前……何を馬鹿なこと言ってるんだよ」
しばらくして、ようやく言葉の意味が頭の中に入ってきた俺は、慌てたようにマックスに駆け寄ってうずくまる背中を撫でてやった。
「だって……ご主人達、皆、すっごく……すっごく楽しそうで……」
マックスと身を寄せ合うみたいにしてこちらもボサボサの毛並みになって凹みまくっているシリウスが、小さく鼻で鳴いた後に俺に向かってそう涙目になりつつ訴える。
その左右では、何故かいつもよりもかなり小さくなってるエラフィとデネブが、これも悲しそうに身を寄せ合って俺を見ている。
従魔達が凹みまくっている理由がようやく理解出来た俺は、大きなため息と共にその場にしゃがみ込んだ。
「まさかこう来るとは……」
頭を抱えていたが、静まり返った厩舎からは誰の声も聞こえない。
もう一度ため息を吐いて顔を上げた俺は、勢いをつけて立ち上がりそのまま両手を広げてマックスに飛びついた。
「ああ、もうなんて可愛いんだ、お前らは!」
力一杯抱きつき、そのまま辺りかまわず揉みくちゃにしてやる。
「お前達もだぞ〜〜!」
そう言って、シリウスとデネブとエラフィも次々に手を伸ばして撫でまくってやる。それから、後ろを振り返って戸惑うように俺達を見ているハスフェル達を手招きする。
「ほら、何をぼさっと突っ立ってるんだよ。お前らの大事な従魔が、ご主人の愛情を疑って凹んでるんだぞ。ここでフォローしないでどうするんだよ!」
俺の大声に、ようやく我に返ったハスフェル達が、慌てたように揃って手を伸ばしてそれぞれの従魔を抱きしめてやる。
「全く、何を馬鹿なことを考えるんだよお前は」
ハスフェルが、聞いた事がないくらいの優しい声で、シリウスの頭を抱きしめて言い聞かせるように呟いている。
ギイとオンハルトの爺さんも、いつもよりもかなり小さくなったそれぞれの従魔達を抱きしめるみたいにして顔を寄せて小さな声で話をしている。
それを見て安心した俺は、小さく笑って改めてマックスに向き直った。
「お前が一番に決まってるだろうが。あれはいくら高級でも所詮はジェムで動くだけの玩具だよ。乗り物って言ったってハスフェルの足より遅いんだぞ。そんなの危なっかしくて街の外で走れるかよ。せいぜいが街で、市場に買い物に行く時に使うくらいだって。普段だって人が多い時なんかは、体が大きいお前は一緒には行ってないだろう?」
「それは、そうですけど……」
「ああ、もう、だからお前が最高だってば!」
そう叫んでもう一度力一杯マックスを抱きしめてやる。
「本当に? 私は用無しじゃないですか?」
「そんな事ある訳ないだろうが〜〜! 俺の愛情を思い知れ〜〜〜!」
マックスの上にのしかかるみたいにして、力一杯抱きしめてむくむくの毛をぐしゃぐしゃにしてやる。
「嬉しいですご主人!」
ようやく元気になったらしいマックスが、起き上がって俺に向かって飛びかかってくる。
「うわあ、やられた〜〜!」
笑いながら厩舎前の芝生に押し倒された俺は、そのまま飛びかかって来たマックスにめちゃめちゃに舐められて悲鳴を上げることになったのだった。
「あはは、全くお前は〜〜! 今の自分の大きさを考えてくれよな」
マックスの唾液に全身びしょ濡れにされてしまった俺は、鞄から出てきてくれたサクラに綺麗にしてもらって何とか起き上がる事が出来た。
俺が倒れていた地面は、飛び散ったマックスの唾液で色々と大変な事になってる。
無言でサクラを抱き上げてその上に落としてやると、状況を理解してるサクラはあっという間にベチョベチョになっていた芝生を綺麗にしてくれた。
「ご苦労さん。いつもありがとうな」
苦笑いしながらサクラをおにぎりにしてやり鞄の中に戻ってもらう。
深呼吸を一つしてからハスフェル達の様子を見るために振り返ると、それぞれ笑顔で仲良く従魔達とジャレあっている。どうやらこちらも仲直りは上手くいったみたいだ。
「そういえば、以前虎が欲しいって言った時にもソレイユとフォールが、最強の虎が来たら自分達は用無しになるんじゃないかって心配して不安になってたよな。そうか、従魔達にとって俺達主人との絆を疑うような事態は絶対に耐えられない事なんだ」
改めてマックスを撫でてやりながらそう呟く。
「そりゃあそうだよ。従魔達にとっては、唯一のご主人様なんだからね。その人に嫌われたらもう生きていけない、くらいに一途に想ってるんだよ。だから大事にしてあげてね」
「そうだな。大事にするよ」
何だか胸がいっぱいになって、むくむくの太い首に力一杯抱きついて顔を埋めた。
「マックス、土とお日さまの匂いがする……」
目を閉じてゆっくりと息を吸い込むと、干したてのお布団みたいな香ばしいお日様の香りがしてちょっと笑っちゃったよ。
甘えるみたいに鼻で鳴いたマックスが、また俺を舐めようとするので慌てて飛び起きたよ。
「だあ! もう舐めるの無し! ベチョベチョになるだろうが〜〜!」
もう一度抱きしめてから手を離して深呼吸をする。
それから振り返ると、ギルドマスター達と厩舎のスタッフさんが全員揃って呆気に取られてポカンと口を開けて俺達を見つめていたのと目が合ってしまい、俺はとりあえず笑って誤魔化してみた。
ごめんよ、途中から貴方達の存在を完全に忘れてたよ。