大はしゃぎの俺達と……。
「はあはあ、笑いすぎて、息が、苦しいぞ」
「お前が無茶するからだろうが。俺はもうひと周りしたら渡そうと思っていたのに」
ようやく止まったムービングログの上で、ぎゅうぎゅうに並んで乗ったまま、ハスフェルとギイの二人がまるで子供みたいに笑いながらお互いを突っつきあって文句を言い合っている。
「嘘つけ! 思いっきりまだまだ遊ぶ気満々だっただろうが!」
「バレちゃあしょうがない! 逃げるが勝ち〜!」
バランスを取るために、片足を地面につけていた為、いきなり動き出したムービングログから振り落とされたハスフェルの驚く声と笑い声が広場に響く。
「やったな〜! この野郎!」
笑ったハスフェルが、これまた子供みたいに笑いながら逃げるギイの乗ったムービングログを走って追いかける。早い早い。
呆気なく追いつかれたギイの乗るムービングログにまたハスフェルが飛びかかり、結局二人して大笑いした後、また仲良く押し合いへし合いしながらタンデム走行している。
もう俺とオンハルトの爺さん、それからスタッフさん達はゲラゲラと声をあげて大笑いしているし、ギルドマスター達も手を叩いて大喜びしている。
「普通の人なら、あんな危ない事をしたら即座に止めるところだが、まあハスフェル達だからなあ」
「放っておけ。そのうち飽きたら戻って来るさ」
「全く、大きななりをして子供かってな」
ギルドマスター達が呆れ半分にそう言って笑っていると、俺の横に立っていたオンハルトの爺さんが腕を組んでわざとらしく寂しそうに呟く。
「ううん、乗ってみて良さそうだったら、故郷にいる知り合い達の分もまとめて五台くらい注文しようと思っていたんだが、残念だがこの様子では、いつまで経っても乗せてもらえそうにないなあ」
その呟きを聞いた瞬間、ギルドマスター達が一斉に振り返った。
「おい、ハスフェル! ギイもだ! 試乗会なんだから一通り乗ったら次にまわせ!」
「ええ、そんなこと言われたって、俺だってまだ一人では乗ってないんだけどなあ」
「だからギイはもう終わりにしろって!」
俺もそう言い、笑いながらギイを手招きする。
「まあそこまで言われたら、仕方がないなあ」
残念そうにそう言ったギイが、ハンドルをハスフェルに渡して戻って来る。
「面白そうなんで、俺も一台買うよ。それとオンハルトが土産に複数台買うらしいから俺も一台分協賛するよ。渡す相手は俺も友人同士だからな」
「俺も買うぞ〜! ついでに協賛もするぞ〜!」
広場をかなりの速さで八の字走行で走り回りながら、笑ったハスフェルの声が聞こえる。
「おう了解だよ。ご注文確かに承ったぞ!」
ヴァイトンさんの笑う声と共にスタッフさん達が大喜びで拍手して、それから大急ぎで倉庫へ走って戻っていった。
「急にどうした……ああ、もしかしてムービングログの準備をしに行ってくれた?」
驚く俺に、ヴァイトンさんが笑いながら大きく頷く。
「そりゃあ、複数台注文が入ったなんて聞いたら、あいつらがじっとしているわけはあるまい。部品はあるから、数日待って貰えば納品出来ると思うから待ってくれよな」
「別に急ぎませんから、無理のない範囲でゆっくりお願いしますよ」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、俺は大事な事を思い出して慌てて振り返った。
『なあなあ、爺さんはバイゼンまでって言ってたよな。帰るって言っても、別に今すぐに帰るわけじゃあないよな?』
念話で話しててもちょっと涙声になったのは許して欲しい。
しかし、俺の気持ちなんか全部お見通しだったらしいオンハルトの爺さんは、にっこり笑って首を振った。
『心配せんでも、まだ当分は一緒にいるからそんな顔をするな』
『べ、別に泣いてなんか……』
咄嗟にそう言いながら、流れそうになった涙と鼻水をこっそり拭った俺だったよ。
涙ぐんでいた事を誤魔化すように何度か咳払いをして鼻を啜り、気分を変えるつもりで厩舎の方を向いた俺は、今度は驚きの声を上げる事になった。
「おいおい、どうしたんだよマックス。ええ、シリウスもか? どうした? どこか痛いのか?」
揃って小さくなってうずくまっている従魔達に気付いた俺は、そう叫んで慌てて駆け寄った。
「なあ、どうしたんだよ。どこか傷めてたか? 棘でも踏んだか?」
そう言いながら、マックスの足や背中を見てやるが、別に何処も怪我をしている様子は無い。
しかし、マックスだけでなく他の従魔達までが揃って打ちひしがれたみたいにしょんぼりしている様子は絶対に普通じゃない。
いつもはピカピカの毛並みまでが、何だかボサボサで艶が無くなってるみたいに見える。
「なあ、本当にどうしたんだよ。何処か具合が悪いのか? それなら言ってくれないと俺には分からないよ」
もしも病気だったとしたら、誰に診て貰えば良いんだろう。万能薬は貴重だけど、あれで治るのなら使う事に躊躇いはないぞ。
スライム達の入った鞄を背負い直して、俺はマックスの鼻先を慰めるみたいに優しく何度も何度も撫でてやった。
俺の大声に驚いたハスフェル達までが、従魔達の異変に気付いて慌てたようにこっちへ駆け込んできた。
ハスフェルは乗っていたムービングログをその場に放り出してものすごい勢いで走って来たよ。そうか、あれで走ってくるより、自分で走った方が早いと判断したわけだな。
それぞれの従魔達に駆け寄り声をかけてやるが、どの子も皆、しょんぼりとしたっきりろくな返事もしてくれない。
これは本気で万能薬の出番かと思ったところでようやく顔を上げてくれたマックスが、消えそうな小さな声で俺に向かって訴えたのだ。
「だって……もうその動く道具があれば、ご主人に私達は必要ないんでしょう?」ってな。