試乗会再び!
「どうする? お前らも一度ムービングログに乗ってみるか?」
「おう、是非お願いするよ。上手く乗れそうだったら俺達も注文してもいいかもな」
笑ったハスフェルの言葉に、ギイも一緒になって笑いながら頷いている。
「それなら俺も一台……いや、二台注文しようかのう。あれならシルヴァ達の土産にちょうど良さそうだ」
笑ったオンハルトの爺さんの言葉に、頷きかけて思わず動きが止まる。
『ええと、物を持って帰っても大丈夫なのか?』
確か、向こうの世界では今の俺達みたいな体は無いって言ってなかったっけ?
心配になって念話でそう尋ねると、笑った爺さんが同じく念話で答えてくれた。
『ああ、大丈夫だよ。向こうにも物質界と接する部分があるんだ。連れて帰ったスライム達が暮らしておる場所だ。そこでなら、あの体に戻れば遊ぶ程度の事は出来るぞ』
『へえ、そうなんだ。でもそれなら逆に二台ってのは足りなくないか? 絶対にシルヴァとグレイは大喜びしそうだから、乗ったらそう簡単には降りないと思うぞ。だから二台だと、レオとエリゴールはいつまで経っても乗れなさそうじゃね?』
一応トークルーム全開でそう話しかけたから当然ハスフェル達にも聞こえていて、俺の言葉に二人揃って吹き出した後、誤魔化すように咳払いをしながらぶんぶんと音がしそうなくらいに頷いていたよ。
『確かにそうだな。まあ予算は俺も潤沢にあるから、それなら五台まとめて注文するか』
『ああ、是非そうしてやってくれ』
『なんなら俺達も土産代くらい協賛するぞ』
笑ったハスフェルとギイの言葉を聞いて、俺も慌てて立候補する。
『それなら俺も喜んで協賛するよ〜〜!』
『おう、ありがとうな。それじゃあ土産を買う時にはお願いするとしようか』
その時、笑ったオンハルトの爺さんの土産云々の発言と同時に、俺のすぐ目の前に収めの手が現れて、こちらもぶんぶんと頷くみたいに何度も上下に動いてから大きく丸印を作ってすぐに消えていった。
どうやら俺の一人一台説に同意したかったらしい。
いきなりの収めの手の出現に、俺達は笑いそうになるのを堪えるのに苦労していたよ。
「じゃあ、まずは交代で乗ってみてくれよ。それで本当に買うのならあとは個人的にヴァイトンさんに頼んでくれよな」
俺の言葉に、ヴァイトンさんが嬉しそうに振り返る。
「なんだ、嬉しい事を言ってくれるな。ご注文ならいつでも受け付けるぞ」
「今なら、数日待っていただければ十台までならすぐにご用意出来ますので!」
俺達の話している声が聞こえたらしい事務所にいたスタッフさんの手を振りながら嬉々として叫ぶ声に、俺達は笑って拍手をして手を振り返したよ。
って事で、俺達はハスフェル達の試乗の為に嬉々として厩舎前の広場へ向かったのだった。
だけどまさか、あんな事になるなんてなあ……。
「ああ、お戻りですね。綺麗に磨いておきましたので!」
厩舎で留守番してくれていたスタッフさんが、戻って来た俺達に気付いて笑顔で手を振っている。しかもどうやら待っている間に、ムービングログをピカピカに磨いてくれたみたいだ。
「ありがとうございます。ハスフェル達も乗ってみたいって言ってるんで、今から試乗会再びですよ」
笑ってそう言い、スタッフさんが下がってくれたのを見て置かれたムービングログを改めて見る。
「ううん、良いねえ。これで街に買い出しに行ったら楽しそうだ」
ニマニマしながらハンドルを撫でてもう一回先に乗ってみる。
「ほら、こんな感じで体重をかけるとその方向に移動するからな」
そう言いながら広場をぐるっと一周して戻ってくる。
「で、誰が最初に乗るんだ?」
ハスフェル達の目の前まで行って止まり、降りて三人を見ると、何やら真剣に顔を寄せて相談を始めた。
「じゃあ、まずは俺が乗ってみるよ」
そう言って一番に名乗りを上げたのは、意外な事にギイだった。
聞くと、三人の中では彼が一番の新しい物好きらしく、新しい物を見つけると大抵はギイが最初に試してそれからハスフェルが使っていたらしい。
成る程、いろんな道具を大量に持っていたのはそう言う訳か。
ハスフェルなんか、新しい冷蔵庫をせっかく買ったのに全然使ってなかったとか言ってたもんな。
「どれどれ……おお、本当だなあ。これは面白いぞ」
さすがは抜群の体幹と運動神経の持ち主。
俺がちょっと実演しただけですぐにコツを飲み込み、嬉々として広場を乗り回している。
「おお、これは良い。よし、俺も買うぞ!」
嬉しそうにそう言いながら、広場を走り回っていて全然戻って来ないギイ。
「おいおい、試乗会なんだから一通り乗ったら帰って来いよ。俺だって乗りたいんだからな!」
どうやら次の順番待ちをしているらしいハスフェルの言葉に、スタッフさん達が大笑いしている。
「ええ、どうしようかなあ」
態とらしくギイがそう言ってスピードを上げる。
「待ちやがれこの野郎!」
とうとう痺れを切らしたハスフェルが、目の前を走り去ろうとしたギイの乗るムービングログに飛び掛かる。
驚くスタッフさん達を尻目に、タンデム乗りになった二人は、ハンドルの取り合いをしつつも器用に前に進み、右に左に曲がって広場を走り回っている。
「何やってるんだよあいつら、子供かよ」
完全にふざけて遊んでいる子供のそれを見て、俺とオンハルトの爺さんは声を上げて大笑いしていたのだった。
その時、俺達の騎獣であるマックスとシリウスだけでなく、ブラックラプトルのデネブとエルクのエラフィまでもが揃ってしょんぼりと打ちひしがれて、厩舎の隅に集まり揃って隠れるように丸くなってうずくまっていた事に、新しい物を手に入れて大喜びではしゃいでいる俺達は全く気がついていなかったのだった。