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ムービングログ試乗会

「ご主人。早かったんですね、もう帰るんですか?」

 厩舎に戻って来た俺を見て、退屈そうに座っていたマックスが飛び起きて尻尾を扇風機にして飛び跳ねている。

「だあ、厩舎の中で暴れるなって。危ない危ない。シット!」

 慌てて跳ねるマックスを捕まえてやり、なんとかおすわりをさせる。

 俺の号令に我に返ったマックスが即座におすわりするのを見て、厩舎にいたスタッフさん達がどよめく。



「今の号令、何だ?」

「すげえ。暴れるハウンドを一瞬で落ち着かせたぞ」

「何かの呪文か?」

「さすがは最強の魔獣使いだなあ」

「噂は本当なんだ」



 漏れ聞こえるスタッフさんの会話が若干不穏だよ、俺の噂って何?



 振り返って聞いてみようとしたその時、大きな木箱を台車に乗せて運んでくるギルドマスター達の姿が見えて俺のテンションは一気に上がった。

「うおお〜〜! その箱ですか〜〜!」

 マックスから手を離して、大声でそう言いながら駆け寄る。

「気持ちは分かるがちょっと待っててくれ。組み立てるからな」

 苦笑いしたヴァイトンさんにそう言われて、大人しく下がって待つ。

 何人ものスタッフさんが駆け寄って来て、あっという間に木箱を開けて中身を取り出していく。

 大きな布を敷いた地面に部品を並べると、これまた手早く組み立てていく。

 と言っても大まかな形は既に出来上がっていて、胴体部分、車輪らしき分厚い円盤が二枚と恐らく間に挟むのだろうワッシャーのような薄い円盤が数枚。そしてハンドル部分だ。

 俺だけではなく全員が注目する中をどんどん組み立ては進み、ハンドル部分を固定し終えたスタッフさんが振り返って満面の笑みになった。



「お待たせしました。これで組み立ては完了です」

 笑顔で頷く俺に、スタッフさんは胸を張る。

「では説明をさせていただきます。よく聞いてくださいね」

 コクコクと頷く俺を見て、笑顔のスタッフさんが足元の土台部分の後ろ側を指差す。

「ここにジェムを入れていただきます。入れ方はこの蓋部分を押していただくと開きますので……」

 そう言って、蓋部分の上部にある小さな窪みを指で押し込む。

 それはジェムを入れて使う道具にはよくある蓋だ。

「最低でもこれくらいのジェム入れて頂かないと、動かしているとすぐに無くなってしまいますからね」

 そう言って、在庫が腐るほどあるグラスホッパーのジェムを取り出して見せてくれる。

「了解です。じゃあこれを使いますね」

 鞄の中のアクアからブラウングラスホッパーの亜種のジェムを取り出して入れる。

「ああ、これをお使いいただいて構わないのに」

 持っていたジェムを見せながらそう言われて、俺は笑って首を振る。

「山ほどありますんでお気になさらず。それで、どうやって動かすんですか?」

 目を輝かせる俺を見て、笑ったスタッフさんはジェムを後ろの人に渡して振り返った。

「ではここに乗ってください。手はこのハンドルをこのように持ちます」

 左右に伸びたハンドルを両手で握って見せる。

「了解、こんな感じですかね」

 嬉々として胴体部分に飛び乗りハンドルを両手で持つ。横に大きく張り出したそのハンドルは、ちょうど自転車のハンドルが横一直線になったフラットハンドルみたいな感じだ。

「うん、太さもちょうど良い」

 嬉しくなってそう呟いてハンドルを何度か握ってみる。

 布が硬く巻かれたハンドルに妙な懐かしさを感じてしまい、ちょっと涙腺が緩みかけたのは内緒だ。



「ここを動かす際に押してください。もう一度押すと元に戻って動かなくなりますので」

 ハンドルの真ん中に操作板のようなハガキサイズの平な板状の部分があり、その右端に妙に見慣れた丸い押しボタン式のスイッチがあった。

「これを押せばいいんだな」

 言われた通りに押してみると、土台部分が少し上に上がったような感じがした。

 もう一回押してみると、やっぱり少し下がる。

「成る程、動かす際に土台部分が少し上がるんだ」

 小さくそう呟いてもう一回押してスイッチをオンにする。

「そのまま少しだけ体を前に倒すみたいにしてください。そうすれば体重移動で前進しますので」

 笑顔でそう言われて、頷いた俺はワクワクしつつゆっくりと前に体重を傾ける。



「うおお〜〜! 動いた動いた!」



 軽い駆動音と共に、ゆっくりと前に進むムービングログ。

「じゃあもしかして……」

 そのままゆっくりと右に体重を傾けると、予想通りにそのまま右に曲がる。

「おお、よしよし。これなら大丈夫そうだ」

 体を元に戻して、そのまま今度は左に傾け左に曲がる。

「じゃあ、止まるときは体重を元に戻せばいいわけだな」

 前のめりにしていた体を戻して一旦止まる。

「成る程成る程。じゃあ後ろに進むなら、もしかしてこれでいいのか?」

 ハンドルを持ったまま、足を突っ張るみたいにしてゆっくりと体重を後ろに傾ける。

「おお、後ろにも進めるんだ。よしよし、これなら大丈夫だぞ」

 満足気にそう呟いて、もう一度広い厩舎前の広場をぐるっと一周する。

「へえ、かなりの速さも出せるんだ。これなら街の中の移動はグッと楽になるぞ」

 嬉しくなってそう呟きながら、今度は八の字を描くみたいに右に左にゆっくりと曲がりながら動かしてみる。

「段差も登れるのかな?」

 厩舎の端の方にあった10センチくらいの段差は、何の問題もなく軽々と乗り越えられたよ。

「へえ、こりゃいいや。早速街へ出て……」

 そこまでやって、まだこれの支払いをしていなかったのを思い出し、早速買い取り手続きをしてもらおうと思った俺はムービングログに乗ったまま後ろを振り返った。

 そこにいたのは、揃ってポカンと口を開けたまま呆然と俺を見つめるギルドマスター達とスタッフさん達、そしてなぜか揃って大爆笑しているハスフェル達とシャムエル様だったよ。



 あれ? もしかして、俺……何かやらかした?

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかのセグ〇ェイw 次は2輪のインラインスケートにジェム仕込んで自走可能とかしたら面白いかも… ってそりゃあエ〇ギアかw
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