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睡眠大事! そして俺の別注品!

「ええと、詳しい構造なんかは俺にはさっぱりですけど、何となくですけどそんな風にすれば普通に切るよりも強く切れると思うんですよね」

 構造的な部分はぼやかしつつなんとか話をまとめる。

 しかし、ジャックさんやフクシアさんをはじめとした職人さん達には、俺の言いたい事は充分に伝わっていたみたいだ。

「これは素晴らしい。確かに円形の外周にギザ歯を刻み、主軸に固定してそれを回転させれば……」

「手で引くよりも遥かに硬いものでも早く切れるでしょう」

「素晴らしい考えだわ。これは今すぐやりましょう!」

 フクシアさんがそう叫んで空いた机に突進していく。

「だあ〜〜! ちょっと待った! だから駄目ですって! フクシアさんはとりあえず最低でも一晩は寝てください!」

「ええ、大丈夫よ〜?」

「全然大丈夫じゃありません。ほら、ふらついてる癖に! いいから寝てください!」

「大丈夫なのに〜〜!」

「だから、どこからどう見ても全然大丈夫じゃないって言ってるでしょうが! いいからフクシアさんは寝てきてください!」

 今にも作業机に陣取って作業を始めそうな彼女を、そう言って無理矢理立たせて机から引き剥がす。

「ケンさん、ありがとうな。ほらフクシア、ケンさんの言う通りだ。お前はいいからちょっと寝て来い」

「ええ、そんな事言って自分達だけで楽しむつもりでしょう?」

 口を尖らせる彼女を見て、ジャックさんがニンマリと笑って頷く。

「当たり前だろうが。だが恐らく駆動部分はお前さんがいないと始まらん。だからいいから寝てこい! これは命令だ!」

「わかったわよ。寝てくればいいんでしょう」

 最後は部屋中に轟かんばかりの大声でそう言われて首を竦めた彼女は不満げにしつつも、そう言って一礼して部屋から出て行ったよ。若干足元がふらついていたんだけど、本当に大丈夫かね?



「はあ、感謝するよ。さてと、それじゃあ」

 ジャックさんは彼女が部屋から出ていくのを見送ってから笑顔で俺達に改めて頭をさげると、そのまま呼び止める間も無く作業机に突進していった。



「……帰ろうか」

「……そうだな」



 俺の呟きに、同じく呆然としていたハスフェルが答える。

 いやあ……いきなりの完全に放置状態に、もう怒るより笑えてくる方が先だよ。

 猫にまたたび、職人に新作アイデア、ってね。



「面白いもん見たな」

「だな。面白かったな」



 建物を出て裏庭へ向かう間に交わされた会話はそれだけだったよ。






「お疲れさん。なかなかに面白いもんを見せてもらったぞ」

 笑ったオンハルトの爺さんが手を振っているのを見て、俺たちは揃ってそれぞれの従魔達のところへ走って行った。

「何だか驚きすぎて一周回って冷静になっちゃったよ。お前もお疲れ様だったな」

 笑ってマックスに抱きついた俺は、そのまま首元に顔を埋めてむくむくの毛並みを楽しんだ。

「まだ時間はあるな。それじゃあまずはご希望のムービングログをお渡ししましょうか」

「ええ、良いんですか?」

 ヴァイトンさんのその声に驚いて、俺はマックスから顔を上げて振り向く。

「先程連絡があって、一台だけなら準備は出来ているのでいつでもお渡し可能との事でしたからな」

「行きます行きます。ぜひお願いします!」

「商談成立ですな。では参りましょうか。ここからすぐの所に在庫を置いている倉庫がありますので」

 厩舎から馬を引き出したギルドマスター達に続いて、俺達も細い路地をぬけて表通りへ出る。

 そのままマックスの背に飛び乗り、ゆっくりとギルドマスター達の馬の後をついて行った。



「ここだよ。さあ降りた降りた」

 到着したのも、大きな倉庫街の中の建物で、かなり大きな倉庫みたいだ。

「ようこそお待ちしておりました」

 笑顔でスタッフさんらしき人たちが出て来て、まずは厩舎へ案内してくれる。

 ここの厩舎は広くて通路も広いので、マックス達も余裕だ。


「おお、噂には聞いていたけど……本当にハウンドに恐竜にエルクだよ」

「すっげえ。こんなすごい魔獣とジェムモンスター、生きてるのを見るのって初めてだよ」

「俺だってそうだよ。へえ、すっげえ。大きいんだなあ」

 一応声は潜めているんだけど相変わらず丸聞こえの内緒話に苦笑いしつつ、ギルドマスター達とスタッフさん達の案内で、建物の中へ入って行った。



 そこはまさしく俺がよく知る倉庫と同じだったよ。

 見上げるほどの巨大なサイズから片手で持てそうなサイズまで、大小さまざまなサイズの木箱がいくつも積み上げられ、整然と整理整頓されて並んでいる様子は、元の世界で見慣れた倉庫と何ら変わりはなかった。

 違うのは、フォークリフトの代わりに人力が使われているって事くらい。

 木箱を積む際の土台にしている見慣れたパレットらしきものまであって、密かに笑いを堪えるのに苦労したよ。



「じゃあ、一度乗ってみるか?」

 笑顔のギルドマスターの言葉に、ぼんやりと懐かしさを感じる倉庫を見回していた俺は目を輝かせて振り返った。

「良いんですか!」

「まあ、最高速度はそれなりに出るし、どうしても乗れないやつも何人かいたからなあ。念の為、販売する際には乗り方の説明と最低自力で一通り乗れる程度には練習をしてもらう事にしてるんだよ」

「やりますやります」

 嬉々として答える俺に、ヴァイトンさんも笑顔になる。

「それじゃあ準備するから、さっきの厩舎前のところで待っててくれるか」

 成る程。厩舎の前の広場は、単に荷物の上げ下ろしに使うから広く取ってあるのかと思っていたら、まさかあそこで乗る練習をしていたとはね。

「了解です。じゃあ外で待ってますね」

 大喜びで小走りに厩舎へ戻る俺の背後から、ハスフェル達の笑う声が聞こえて俺は振り返った。

「ええ、貸して欲しくないのかよ〜?」

「すまん! ぜひ貸してくれ!」

「乗ってみて良さそうなら、俺も買ってもいいかもな」

 ギイの笑った声に、ハスフェルとオンハルトの爺さんまで一緒になって頷いていたのだった。

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